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地域間の連係で生まれるもの

中川郁夫(株式会社インテック・ネットコア)

はじめに

 地域情報化において、地域間連係というキーワードが注目を集めるようになってきている。情報技術(いわゆるIT)を活用し、地域内の産業をどのように活性化させ、あるいは地域の住民の生活をどのように豊かにするか、ということが本来の地域情報化の目指すところである。その意味で、地域情報化は地域内に閉じた取り組みとみられがちである。しかし、地域内の取り組みであるからこそ、逆に、他の地域や、あるいは中央からの視点が重要になることもある。筆者はネットワーク技術の研究開発という立場から「地域間相互接続実験プロジェクト」に携わり、地域の視点で、あえて地域を越えた取り組みを推進してきた。本稿では、同プロジェクトの事例を参考に、地域間連係の意味について考えてみたい。

プロジェクトの立ち上げ

 1999年5月、場所は新宿。ゴールデンウィークの合間にもかかわらず、全国から40人にも及ぶ関係者が集まり、とある会議が開催された。地域間相互接続実験プロジェクト(RIBB: Regional Internet BackBone)の立ち上げミーティングである。以来、今日に至るまで、同プロジェクトでは大学関係者や民間研究者、地域関係者などが参加し、次世代のネットワーク技術についての共同実験を行っている*1。同プロジェクトはJGN(Japan Gigabit Network)と呼ばれる研究開発用ネットワーク*2を利用して、広域分散環境で次世代インターネットアーキテクチャの実現を目指している。図にRIBBの実験ネットワーク構成を示す。

 RIBB、すなわち地域間相互接続実験プロジェクトはネットワーク技術に関する研究開発を目的にしたプロジェクトであるが、一方で、同プロジェクトは地域間連係の意味でも先進的な取り組みであるといえる。同プロジェクトに参加しているメンバは研究者・技術者が多いが、その大部分は、地域ネットワークや地域IX等の中心的人物でもある。それまでも、各地で地域ネットワークや地域情報化に関する取り組みは個別に行われていたが、これらの取り組みを横につなごうとしたという意味で、RIBBの活動は異例ともいえる斬新な実験である。なお、RIBBでは、地域の視点からアプリケーション、アクセスライン、バックボーンについての研究や実証実験を進めている。

プロジェクトの成果

 以下では、地域間連係という視点から、RIBBの成果について紹介する。

 言うまでもなく、地域間連係によるメリットのひとつは、地域情報化に関する情報の共有である。一般に、地域内に向いて活動をしていると、他地域の取り組みについての情報が不足しがちである。しかし、地域情報化という共通の目標を持って活動しているキーマンの間での情報共有は、それぞれが抱える課題、実現方法について重要なヒントとなる場合が多い。RIBBの場合は、ネットワーク技術、あるいはインフラ構築などの面で各地のキーマンが技術や情報を交換し、おのおのが各自の地域で応用をしているケースが幾度となく見られた。まさに、地域間での情報共有の成果であるといえる。

 一方、単なる情報交換の域を越えて、技術移転と人材育成に役立ったケースも見られた。RIBB上の、ある共同プロジェクトでは、2001年、高知から他の地域に向けて映像伝送実験を行った。技術的には、DV(Digital Video)による高品質映像の伝送という取り組みであったが、この際に、富山の技術者が高知を訪問し、技術協力および技術移転を行った。振り返ってみると、結果的には、共同プロジェクトを通して地域間の技術移転ができ、さらに、同プロジェクトを担当した両地域の若手技術者らが急成長したきっかけとなった。

技術的な成果

 次に、技術的な視点からの成果についても触れてみたい。実際、RIBBは研究開発を主としたプロジェクトであり、新技術を追求するのが目的である。以下では、地域の視点で行った研究プロジェクトが生み出した技術的成果について紹介する。

 RIBBを通してもっとも大きな成果は、広域分散環境のバックボーン技術を実現したということである。われわれは、MPLS(Multi-Protocol Label Switch)と呼ばれる技術を応用し、広域分散環境での相互接続技術(MPLS-IX)の研究と実証実験を行った*3。同実証実験では、世界で初めてMPLS-IXの技術を実装し、地域インフラや地域IX等を広域分散環境で相互に接続することを可能にした。この取り組みは、地域の視点を持つ技術者らの集まりであるからこそ可能であったもので、結果的に現在の東京一極集中のインターネットトポロジから脱却するための解を、技術的に提示することとなった。

 もう一点、地域間のコンテンツ交換を実現したこともRIBBの代表的な成果である。各地には地域を代表するさまざまなコンテンツがある。RIBBではこれらのコンテンツを横のネットワークで交換し、離れた地域間でのコンテンツ流通を実現した。たとえば、2000〜2002年の各国体(富山、山梨、宮城、高知)の競技の模様の中継や、各地のお祭りの中継などの身近な映像は、地域を越えても人気がある。ネットワーク技術を応用したコンテンツ交換は、広義の文化交流につながるといえる。

 さらに、RIBBでは映像伝送に関連して、技術的にも新しい取り組みを行っている。ネットワークを介してCATVの映像を中継する際は、DV(Digital Video, 40Mbps)などの高品質な映像伝送技術を利用した。WM(Windows Media)、RealVideoなどの技術を用いて、遠隔地の一般のパソコンユーザ向けに映像を伝送する実験も実施した。また、D1(300Mbps)と呼ばれる放送局で利用されるエンコーディング方式で映像伝送することにより、放送局での中継に耐えられるような高品質の映像伝送も実現した。

 これらの技術は、地域間でさまざまな映像の交換を可能にする。特に、RIBBでは、通信と放送の枠を越えて地域コンテンツを相互に交換してきた。これまで、地域系の放送はある種の地理的な制約を持っていたが、通信との融合により、地域を越えたコンテンツの流通の可能性が生まれたといえる。

おわりに

 本稿では、RIBBの活動を事例に地域間連係について述べた。実際は、他にも地域間の連係はあらゆる場面で行われている。また、その取り組みも、地域インフラの相互接続やコンテンツ交換、人材交流、共同研究、ビジネス連係等さまざまである。近年、特に地域情報化に焦点があたっているためか、ついつい地域内の活動に視点が向いてしまうが、地域間連係にみられるように、地域を越えた視点を持つことも重要であろう。

*1 RIBB: Regional Internet Backbone(地域間相互接続実験プロジェクト)<http://www.toyama.net/~ikuo/ribb/>

*2 通信放送機構が研究開発用に開放しているネットワーク<http://www.jgn.tao.go.jp/>

*3 次世代IX研究会<http://www.distix.net/>

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