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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

く・も・ん・通・信

 共和党系シンクタンクのケイトー研究所が、先月末に「デジタル・ニューディールの誕生」と題する政策文書を発表しました。米国議会が、ブロードバンドの展開やデジタル教育、サイバー・セキュリティ、あるいは研究開発などの分野に、新たな支出を始めたというのです。それは、1930年代の政治家たちがニューディールの政策プログラムを次から次へと案出したのを思い起こさせます。いまや米国には“デジタル・ニューディール”(DND)時代が到来したかのようだというわけです。

 実は“デジタル・ニューディール”(DND)という言葉は、経済産業省が産業知識ベースの構築プログラムにつけた名称でもあります。こちらについては、わがGLOCOMもその初期の構築のお手伝いをしました。しかし、いま米国で起こり始めている新しい政府支出の試みは、はるかに多岐にわたる大々的なもののようです。

 一昨年以来の米国では、単にインターネットやドットコムのバブルがはじけただけでなく、光ファイバ網の敷設に狂奔したテレコム産業や、光通信のための機器を供給する通信機器産業が次々と苦境の淵に沈んでいきました。いまやこれらの産業は、政府の支援なしには立ち行かないと考えるにいたり、さまざまな形のロビイングが行われるようになっていますが、その一つの結果が、このDNDなのでしょう。昨年のいまごろは、米国のハイテク業界は、“ブロードバンド”の展開を国策として推進するよう、ブッシュ政権に働きかけていました。しかし、政権の側には、はかばかしい対応がみられないままに、テレコムやハイテク部門への投資は冷え込む一方となり、議会へのなりふりかまわぬ働きかけになったものと思われます。

 テレコム産業はまた、“規制撤廃”をはげしく迫っています。その意図は、集中排除やネットワークのオープン化を要求するような規制は廃止して、独占的企業の自由にさせろということです。エリ・ノームのように、テレコム産業は“成熟産業”になったのだから、政府としては生き残った企業による競争制限・価格支持型の不況カルテルを容認・支援すべきだと提言する人も現れました。それが正しいとしたら、電話からインターネットへの転換はすでに終わり、既存の電話会社やケーブル会社が支配力を取り戻すこれからのインターネットは――IP電話などもとりこみながら――成熟産業にふさわしい形に“変質”しているのかもしれません。

 他方、すでに1998年のDMCA(デジタル千年紀著作権法)によって著作権の有効期間の大幅な引き延ばしに成功した映画や音楽などのコンテント産業は、さらに一歩を進めて、P2P型のファイル交換システム(やそれが可能にしている海賊行為)を徹底的に取り締まるべく、コピーを不可能にする仕組みをハード的に情報通信デバイスに組み込むことを要求する法案や、P2Pのサイトを停止、妨害、遮断、あるいは機能低下させるような攻撃をかける権利を認める法案などを提出しています。

 コンテント産業のこのような動きに対しては、さすがにその行き過ぎを咎める声も各方面で上がり始めました。家電業界やコンピュータ業界も、反対の姿勢を明確に打ち出しています。しかし、だからといって家電業界やコンピュータ業界が、インターネットへのソフト的な統制、つまり“コードによる規制”の試みを強めないという保証はありません。マイクロソフトによる「パソコンを作り直して、セキュリティとプライバシーと知的財産権を確保しようという野心的でリスキーな“パラジウム”計画」(スティーブン・リービー)などをみても、21世紀に入って以来、“インターネット反革命”(ローレンス・レッシグ)の流れは、少なくとも米国についてみるかぎり、確実に進行しているように思われます。

 しかし、それが本当に望ましい未来の姿なのでしょうか。インターネットに関して米国とは違った路線を歩もうとしているカナダやスカンジナビアの諸国で、あるいは欧米を置き去りにしてしまうほどの勢いでブロードバンドの普及が進んでいる東アジアで、あるいは日本の私たち自身の間で、新しい流れが生まれる可能性はないものでしょうか。

 もっとも、アンドリュー・オドリズコによれば、ブロードバンドの普及が相対的に遅れているといわれる米国でも、実は携帯電話の普及を上回る速度で普及が進んでいます。インターネットのトラフィックも、依然として年々倍増の勢いを失っていません。無線LANにいたっては、爆発という言葉がぴったりするほどの勢いで拡大しています。米国自身の内部から、やがて新しい流れがほとばしりでてくる可能性も、決して否定できないでしょう。

公文俊平

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