ロンドン雑感
澁川修一
(GLOCOMリサーチアソシエイト)
Center for Global Communications,International University of Japan
ロンドン雑感
澁川修一
(GLOCOMリサーチアソシエイト)
12月はじめに英国のe-democracy事情を調査するためにロンドンに出張した。ロンドンを訪れるのはこれが初めてであったが、書物などで見るロンドンとは違い、日々街が変化している姿をかいま見ることができた。在住経験がある皆さんには釈迦に説法かもしれないが、印象をいくつか記してみたい。
爆発する「写メール」
ご存じの通り、欧州では携帯電話キャリアと機器メーカーが独立している。O2, Orange, Vodafone等が独自にショップを出しているほか、各キャリアの製品を扱う携帯電話ショップもあちこちで見かけた。iモードに相当するWAPサービスが人気を集めるにはまだ至っていないようだが、Short Messaging Service(SMS)はかなり普及しているとのことだった。また携帯電話自体は、若年層の所持率はかなり高いようで、そこかしこで小さめのGSM端末を手に話す人々が見られた(若年層に影響力が強い、フットボールチームの胸スポンサーにもO2(BT)やVodafoneが進出している)。そして、なかでも注目されるのが、NokiaやSharp, Sony Ericsson等が投入し始めた、いわゆる「カメラつき携帯電話」である。
これは、日本で言うところの「写メール」で、SMSにピクチャ送信機能をつけたものである。また、Vodafoneはそれに加えて、iモード的なコンテンツサービスを行うMMS(Multimedia Messaging Service)を "Vodafone Live!" として売り出している真っ最中で、Sharpとはカメラ付き、カラー液晶のGX10端末の独占販売契約を結び、"Vodafone端末"として売り出していた。テレビでもスポンサードするManchester U.のスター選手ベッカムを起用して、スーパーでベッカムと出会い、一緒に撮って友達に写メールするというCMを大量に流しており、売り込みに躍起であった。
プレミアリーグの試合会場では、日本ほどではないものの、携帯端末を選手に向けて撮る姿が散見された(そういえば、12月3日に出かけた横浜でのトヨタカップでは、レアル・マドリーの選手たちへの写メール攻勢が凄かった…)。ただし、携帯電話と日常生活との結びつきについては、日本ほど密接ではないようだ。あくまで、まだ電話としての役割がメインであるようで、それがWAPサービスの低調さにも反映されているようだ。しかし日本ですでに実証されているように、カメラ付き携帯電話の持つコミュニケーションの道具としての新奇性は非常に影響力が強い。Picture Messagingが、欧州におけるモバイルシーンにどのような影響を与えるかが非常に興味深いところである。
クレオールが進むロンドンと、 進行するドーナツ化
英国料理は「まずい」として忌み嫌われている、というのが定説になっていることから、ご飯探検もするつもりであったのだが、実は5日間の滞在中、ホテルでの朝食を別にすると、ローストビーフ等のいわゆる「英国料理」は一度も食していないのだ(大量のフィッシュ&チップスとギネスを別として…)。チェーン系のファストフードで済ませてしまったことも多いが、ロンドン中心部では高級店を別にして、いわゆる「イギリス料理」という店をあまり見かけなかった。その代わりに幅を利かせているのがイタリア料理(ただし、東京のイタリア料理店のレベルに比べるとやや落ちるとのこと)等に代表される他国の料理店である。なかでも私が愛用していたのがケバブ屋である。東京でも、ミニバンで丸焼きの肉を回しながらピタサンドを売る店をよく見るが、そのケバブが、ロンドンの至る所に目に付くのである。聞けば、トルコ系の移民が手がけている例が多いのだという。意外に脂身も少なく美味しい。しかし、ケバブ屋が多いエリアは、必ずしも治安のよろしくない地域でもあることは確かなようで、ケバブ屋が充実していたエリアであるTottenham Hotspurのホームスタジアム、White Heart Lane周辺は、確かに夜に一人歩きはしたくないような所であった。
意外にも、「英国っぽい」雰囲気を味わえたのは郊外のレディングにDivision 1の試合を観戦した際である。この辺り、ヒースローにも近いことからOracleの英国本社が所在するなど、ハイテク企業の立地が進んでおり、必然的に高級住宅地となっていた。スタジアムの駐車場には年間シート保有者の高級車が所狭しと並んでおり、ある種異様な雰囲気を漂わせていた。
つまり、高額所得者は郊外の裕福なエリアに引っ越し、低所得者層が(都心以外の)ロンドンに居住している、というある種のドーナツ化現象が生じているように思えた。クレオール(混血)化を街の中にも感じさせることもあるロンドンに比べて、レディングやオックスフォードには、まだいくばくかの「ガイドブックにある英国」が存在していたようだった。
生活としてのフットボールと「ライブ」の迫力
今回の出張は週末を挟んでいたので、その間、上記レディングでのDivision 1を含めて合計3試合、フットボールを観戦してきた。なかでも北ロンドンの名門Tottenham Hotspurでは、スタジアム施設の見学やVIPルームでの観戦、試合後の選手ラウンジへの入室など、通常では考えられない歓待を受けた。
現在、プレミアシップはSkyでしか見ることができず、それも毎節2試合のみである(BBCは今や、イングランド代表の試合以外は一部のFAカップの放映権を持っているにすぎず、長らく続いてきた "Match of the Day" というダイジェスト番組の放映権もITVに握られてしまっている)。故にスタジアムに行くか、近くのパブでSkyを見ながら一杯やるというのが通常の観戦スタイルとなっている。携帯電話でも、試合速報をSMSサービスで行ったり、Vodafoneは動画の配信なども企画しているようだが、やはりイングランドでは試合は「生」で見に行くというのが流儀のようだ。
しかし、ライブでのファンのかけ声(チャント)は凄まじい。良いプレーには敵味方問わず拍手が飛び、ふがいないプレーには罵声が飛ぶのだが、スタジアムの一角に押し込められたアウェイ側ファンが、自己存在を示すかのごとく猛烈に歌を歌うのだ。それに負けじとホーム側が、それを揶揄する歌を反対に歌う*1。このようなライブ感は、とても日本でテレビ観戦していては感じ得ない(聞けば、意図的にスタジアム音声は絞っているとのこと)。
このようなライブ感をどのようにブロードバンド時代に伝えていくのか、また果たしてそれが可能になるのかが気になるところである。
*1 この試合、ひどいブーイングを浴びていたTottenhamのロビー・キーンがゴールを奪い、アウェイ側ファンの前で両耳に手を当てて「お前ら、もう一度ブーイングして見ろ」というポーズを取った。もちろんアウェイ側応援席は怒り狂い、即座に100人ほどの警察官が押し寄せて鎮めるという光景も見ることができたが、その直後にスタジアム全体から"You're not singing, you're not singing, you're not singing anymore!" という歌声が沸き起こった。