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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

アジアの街角のインターネット

上村圭介
(GLOCOM主任研究員)

 インターネットを中心にすえた情報通信技術への注目が高まり始めたころ、情報通信技術は距離の制約を克服し、資本や技術力に乏しい開発途上国も、他の先進国と互角にグローバリゼーションの中で競争に参加できるのではないかという淡い期待が抱かれることがあった。しかし、一部のむしろ例外的な成功事例を除けば、情報通信技術はこれまでの経済的・技術的優位性を上からなぞっただけになったというのが現実ではないか。

 では、何をすればよいのか。一つは、実際に途上国の中で、情報通信技術のインパクトを吸収し、自らの力とすることのできる人材を育成することだろう。このような視点から地道に国際協力の活動を続けている組織の一つが、財団法人国際情報化協力センター(CICC)である。CICCは、情報通信技術の導入を通じた開発途上国の経済社会の発展を支援する目的の下、途上国の技術者や標準化担当者に向けたIT研修、情報技術移転、共同研究開発、国際標準化などの事業を行っている。

 筆者は、このCICCが11月7日〜8日にラオス人民民主共和国の首都ビエンチャンで開催した第1回アジア情報技術フォーラム(AFIT)に参加する機会を得た。

 今年の会議では「電子政府」がテーマとして取り上げられ、AFITに加盟する19ヵ国のうち、ラオス、日本、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナム、パキスタンからの代表者が参加し、各国の情報化や電子政府に向けた取り組みを紹介した。

 AFITの参加国における情報化の状況は、当然のことながら、それぞれの国によって大きく異なる。ブロードバンド普及で世界のトップに躍り出た韓国のような国が参加している一方で、今回のホスト国であるラオスのように、一人当たりGDPが300ドルに満たない国も参加している。電子政府への取り組みといっても、全国的に電子政府が動きだしている韓国のような例から、ラオスのように省庁間ネットワークが先決だという例まで幅広い。

 そのようななかで筆者にとって印象的だったのが、パキスタンとスリランカという二つの国が、ITリテラシーという課題について極めて積極的だったことだ。もちろん、他の国の発表者も、電子政府あるいは国全体の情報化計画の中でITリテラシーがもつ重要な役割を認識していたことだろう。しかし、ITリテラシーについては、他の国よりもこの二つの国が特に積極的な取り組みをしている印象を受けた。パキスタンからの参加者に筆者が尋ねたところでは、パキスタンのITリテラシー推進には、学者出身の科学技術大臣の強いイニシアティブがあるという。さらに、彼は、隣接国のインドがひと足先にIT産業を立ち上げたことへの競争意識も当然あると述べた。一方、スリランカの発表者も、発表の中で、専門的なITリテラシーを備えた人材の育成について強調した。彼によれば、スリランカはもともと識字率や教育水準が高く、また、インドと同じく英語を公用語の一つとしていることから、情報産業への期待も高まるのだという。しかし、この二つの国のITリテラシーへの強い関心は、そのような表層的な原因だけではなく、この二つの国が属する南アジアの長い人文的伝統の反映なのではないだろうか。そして、そうだとすれば、他の国では見られないITリテラシーの強い基盤をもつということになるのではないだろうか。

 さて、今回の会議の開催地となったラオスのインターネット事情について触れよう。ラオスでは他の多くの途上国と同じように、インターネット接続サービスを提供するためには政府からの免許が必要となる。現在は三つの商用ISPがサービスを提供しており、それとは別に、各政府機関に対してインターネットサービスを提供する専門の政府機関がある。

 ラオスにおける本格的なインターネットの利用は、IDRC(International Development Research Centre)が1996年に開始した「パンアジアネットワーキング(PAN)」計画から始まる。ラオスの科学技術環境機構(STENO)が受け入れ国パートナーとなって、電子メールの配送を最初に開始した。この時点では、シンガポールへのダイアルアップでUUCPによる電子メール配送を実現したようである。これに先立って、国際通話によるダイアルアップで海外ISPに接続するなどの自発的な試みもあったようだが、どれも短命に終わっている。STENOはその後、科学技術環境庁(STEA)と改組され、政府機関に関するインターネット接続などのサービスは、現在STEAが統括している。

 民間でISPサービスを提供しているのは、GlobeNet、PlaNet、LaoTelの三つである。GlobeNetは、在米ラオス人により国内ISPとしてはもっとも早い1998年8月に設立され、PlaNetは1999年2月にサービスを開始し、現在はインターネットカフェ事業も展開している。国営電話事業体のLaoTelは、1997年に免許を受けながら実際のサービス開始は他2社に大きく出遅れた。

 ラオスのインターネット利用者は、ある統計によると2,482人と報告されている。ラオスの人口は、2000年の統計で524万人とされているが、それと比べても国内の利用者は極めて少ない。そもそも、電話網の整備も十分でなく、電話の100人当たり普及数は1.46台と、アジアではミャンマー、バングラデシュ、ネパールに次いで低い(2001年ITU調べ)。

 1990年にビエンチャンで最初のコンピュータショップを開いたマイクロテックコンピュータのスタッフの話では、売れ筋の平均的な構成のマシンの販売価格は600〜700 USドルだという。一人当たりの年間所得が300 USドルに満たないラオスの人びとが手にできるものではない。そのスタッフの話では、国際機関や外資系企業が彼らの顧客だということだった。機器の多くは隣国のタイから部品として輸入され、現地で組み立てられている。いわば一台ごとのカスタムメイドである。インターネットにつなぐには、衛星回線を利用する方法もあるが、電話回線によるダイアルアップが一般的である。マイクロテックのスタッフの話では、回線の品質が悪く、300bps(kbpsではない!)程度の速度しか出ないこともあるという。

 ビエンチャン市内の中心部では、街角に一つ必ずあるというぐらい多くのインターネットカフェが営業している。利用料金の相場は1分100キープ(1.2円程度)である。利用客のほとんどは外国人旅行者で、現地人の利用者は稀に見かける程度である。ラオスの人びとにとってインターネットとは、アメニティーの整ったホテルと並んで、外国人旅行者が喜んでお金を落としてくれるサービスの一つに過ぎないのではないだろうか。

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