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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

情報社会学会設立をめざして

公文俊平
(GLOCOM所長)

 GLOCOMではこのほど所内の組織再編成を行い、山田肇特別研究員(東洋大学教授)に副所長として経営の全般に目配りをしていただくことにした。それに伴い、私は、かねてからの念願だった研究に専念する態勢への移行がようやく可能になった。

 それに先立ち、GLOCOMでは慶応大学の湘南藤沢キャンパスの村井研究室との共働を推進する合意が成立していた。共働の目標は、情報社会を対象とする新しい総合的社会科学のディシプリンとしての“情報社会・学”の構築であり、そのためにできるだけ早い機会に学会の設立を考えるというものである。

 もともとGLOCOMの初代所長村上泰亮のライフワークは、産業社会を対象とする総合的社会科学の構築に向けられていた。つまり“産業社会・学”の構築である。われわれはその後をうけて、今度は“情報社会・学”の構築に立ち向かおうというのである。

 幸い、この夏以来の数回の合宿を通じて、40歳前後の中堅研究者が中核となって、この新しい学問の構築に全力をあげようとする機運が盛り上がってきた。しかし、私自身はといえば、率直なところいささかの息切れをおぼえないでもなかった。“情報社会・学”の根幹部分に関するかぎり、私は、1990年代の一連の著作を通じてある程度の基礎作業をすませており、いまさら老骨に鞭打ってもう一段大きく前進しようとするのはもはや無理かもしれないという危惧が、どうにも拭えなかったのである。

 ところが、この2カ月ほどの間に、2冊の新しい書物に接したことで気持ちが変わった。そのひとつがAlbert-Laszlo Barabasi [2002] "Linked: The New Science of Networks" (Perseus Publishing) であり、もうひとつが Howard Rheingold [2002] "Smart Mobs: The Next Social Revolution" (Perseus Publishing) である(と書いたところで、はたと気づいたのだが、この2冊は同じ出版社から出ている)。

 前者から私は、ネットワークの理論的・実証的研究が過去ほんの数年の間にめざましい進展を見せていることを知った。そして“ベキ法則”に従う事物の不均等でスケール・フリーな分布(つまり同型の不均等構造がフラクタルのように繰り返し現れてくる)が、自然界にも社会にも広く見られることをも知った。そこから、ひとつのヒントが得られた。すなわち、時間軸の上でも、変化が不均等に起こるばかりでなく、その不均等性がフラクタル構造をなしていて当然ではないかというアイデアが浮かんだのである。これは、私がこの数年とても興味深く追求している社会変化のS字波モデルとも、よく符合する。すなわち、“出現・突破・成熟”という三つの局面をもつ変化のS字波の中では、ほとんどの変化は突破局面に集中して起こるばかりでなく、そのような構造が、ひとつの大きなS字波を一連の小さなS字波に分解していくなかで、次々と繰り返し出現しているというモデルがそれである。となると、共時的な存在の次元と通時的な変化の次元が同一の法則によって支配されている可能性があるということになりはしないか。これは、より立ち入った検討に値するアイデアであるように思われて私は興奮した。

 後者から私は、いま出現しつつある情報社会に見られる新しい現象の観察やその理論化の重要性を、あらためて教えられた。著者のラインゴールドは、東京や北欧、その他世界の各地をめぐって、有線インターネットの次に来ようとしているモバイル・インターネット時代の“スマート・モッブズ”の生態(の端緒的形態)を克明に調べてレポートしている。そればかりではない。彼は情報社会を解明するための新しい理論についても探索の網を拡げ、有望な研究があると聞くとその当人たちを直接訪問して面談し、さらに彼らが指定する膨大な“リーディング・アサインメント”の宿題をすべてこなしたうえで、それらの理論の詳しい紹介を試みている。というわけで、彼の新著は、それ自体わくわくするような読み物であるばかりか、さらに研究を進めようとする者にとっての絶好の参考文献集にもなっている。

 この本を夢中になって読みながら、私は、これまで自分が抽象的に措定してきた“智業”や“智民”、“通識”の“通有”や共通の目標を実現するための“共働”、情報社会の基本権としての情報権などの概念に、きわめて豊富な内容が与えられている(と解釈できる)ことに気づいて、心から感動した。同時に、自分の怠惰さをあらためて恥じた。いまからでも遅くない。彼の著書を通じて、“情報社会・学”に再入門し、一歩でも二歩でもこの学問を進めることに全力を尽くすのが、私に残された課題だと思い知ったのである。

 という次第で、来年からは、初心に立ち返った気持ちで“情報社会・学”の研究に専念することにしたい。そしてなんとか来年中に、ウェブ上ででもいいから、学会をまず立ち上げたい。これが2003年の私の抱負である。みなさんのご支援とご協力を切にお願いしたい。

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