く・も・ん・通・信
昨年の日本で情報通信をめぐるニュースといえば、なんといってもブロードバンド、とりわけADSLの爆発的普及でしょう。GLOCOMがADSLの早期導入の必要を最初に唱道したのが1996年の後半だったことを思えば、やっとここまできたのかという感慨もひとしおです。
しかし、全体の流れは、無線インターネットに向かっているように思われます。日本では、FOMAの不調をよそに、“写メール”の愛称がついたカメラ付き携帯電話が、一昨年以来、若い携帯ユーザーの心をしっかりつかみました。最近では動画も送れる機種が登場しています。日本のケータイは、人びとのための“マルチメディア”の双方向コミュニケーション手段としての地歩を確立したように思われます。
これに対し、ブロードバンドやケータイでは“途上国”だともいわれるアメリカでは、ADSLよりはむしろ無線LANの爆発が注目を集めました。しかし、Danger社(www.danger.com)が“ヒップトップ”という名称で売り出した電話とカメラとインターネット・アクセス機能付きのPDAは、少数ながら熱狂的なファンを集め、HipTop Nationという無線ウェブログのコミュニティ(http://hiptop.bedope.com)を生み出しています。名称からもわかるように、このPDAは、ポケットではなく腰につけて持ち歩くようになっています。たしかに、首にぶら下げたり、ポケットに入れて持ち運んだりするよりは、ヒップトップで携帯する方が、はるかに機能的だし、カジュアルな服装にもフィットすると思われます。
となると、次のような仮説をたてたくなります。将来、財布や通帳、パスポートなどの機能も組み込まれるようになるときの個人用の情報通信デバイスとしては、無線インターネット・デバイスが主流になる。日本では、ケータイがより大型化し、アメリカではパソコンが小型化する方向に進むが、到達点は一つになる、という仮説がそれです。ただし、日本の場合だと親指入力の機能をどうしても残したいとすれば、形状は違ってくるかもしれません。
シャープが最近発売した、LINUX OSを搭載したザウルスSL-C700(www.sharp.co.jp/products/slc700/)のシステム液晶(CGシリコン液晶)は、息を呑むような美しさの超高精細画面を見せてくれます。これなら――とくに視力のよい若者には――インターネットのブラウジングも、文書や画像の閲覧や処理も、気持ちよくできるでしょう。しかし、電話機能はまだ予定されているだけです。バッテリーの持続時間の短さは泣きどころです。この種のPDAが、SDR(ソフトウェア・ラジオ)ともなって、携帯電話と無線LANの通信インフラのどちらでも使えるようになったとき、90年代の有線インターネットに代わる無線インターネットの新時代が到来するでしょう。
しかし、そのためには、いまや前世紀の遺物となった“指令・統制”型の周波数配分方式を抜本的に変更する必要があります。昨年以来、各国は、周波数配分方式の検討に向けていっせいに動きだしました。新しい配分方式としては、アメリカの場合、競売型とコモンズ型(免許不要、周波数の共同利用を許すもの)が提案されています。『CODE』や『コモンズ』(いずれも邦訳書名)の著者として知られる、スタンフォード大学の法学者、ローレンス・レッシグはことのほか熱烈なコモンズ型の推進者ですが、ペンシルべニア大学の経済学者、ジェラルド・ファウルハーバーは、二者択一ではなく当面両方式の併用で行くのがいいと提唱しています。日本では、コモンズ型の採用はほとんど表立った論議の対象にはなっていないのが、残念なところです。今年の通信政策論議の焦点は、コモンズ型の周波数配分をどのように進めるべきか、そのさいにはどのような規則を定める必要があるか、という点にあわせられてしかるべきだと思います。
公文俊平