<基調発表>地域情報化とポストe-Japan戦略
丸田 一(GLOCOM主幹研究員)
基調発表は、2002年10月に地域情報化研究会で発表した「ポジション・ペーパー」をもとに、その後の研究会および日経デジタルコア三重合宿での議論を踏まえたものである。
e-Japan戦略の評価
第三のインフラ、あるいは新しいライフラインともいわれる情報通信インフラの整備は、e-Japan戦略において中心課題に位置づけられている。e-Japan戦略では、「5年以内に世界最先端のIT国家」という目標達成のため、@民間(市場)主導で、A既存の電話網をフルに活用した、効率性最重視のインフラ整備が進められている。最近では基幹網整備は充実し、規制緩和による開放も進み、またアクセス網もミドルバンドを中心に充実してきた。しかし、それに伴い問題も生まれている。たとえば、「@」に関連して、条件不利地域などのサービス空白地域の存在である。e-Japan戦略では、民間主導で整備を進めることから地域間格差をある程度是認している。また、「A」に関連して、東京を頂点とした既存電話網を援用したことから、地方では通信の遅延等の欠陥が生じる確率が高く、また、優秀なエンジニアや企業の東京集中が進んでいる。
「公」「民」を超えた「共」の取り組み
これらの問題は、主に地方に位置する地域の問題である。これまでも地域IXや自設網整備など、地域自身による問題解決が進められてきた。特に、地方自治体による自設網整備は、「公」による問題解決の典型例である。最近では三重県や福岡県のように、公と「民」がリスク分担を行う例が増えている。ただし、これらの事例は、利用者からみれば市場の代わりに公共がサービスを与えてくれるもので、利用者がサービスを受けるために自発性を喚起し、自ら行動することはない。こうしたなかで、「関西ブロードバンド(株)」は地域の自発性を促進させる絶妙なビジネスモデルを持ち、「みあこネット」は地域のパトロンにより、公衆無線ネットワークが維持されている。
これらの新しい事例は、地域構成員である市民自身の自発性がサービスを呼び込み、そして維持することに特徴がある。「公」でも「民」でもなく、「共」と呼ぶにふさわしい。
ITは何に活用するのか
目標である2005年を目前にして、いよいよ「作られた広帯域のインフラをどのように活用するのか」、また「何のためにITを活用するのか」について真剣に考える必要がある。
インターネットを中核としたITの活用目的を考えるうえで重要なのは、インターネットにおける“決定権の所在”である。そもそもインターネットは、「何を運ぶのか」という決定をネットワークの縁にいる人々の手に委ねる。このため、縁にいる人々が活発に利用することが、道具としてのインターネットをより有効なものに変え、縁にいる人々が抱えるさまざまな課題を解決する道具として巧みにITを活用することが、新しい需要や、新たな技術革新に直結する。つまり、ネットワークの縁を活性化することがIT活用の重要な目的である。とりわけ地域の人々にとっては「地域活性化」、つまり地域を元気にすることが狙いである。ここでは、ITを活用して地域活性化を推進することを「地域情報化」と呼ぶ。
このように、e-Japan戦略には、縁を活性化するという視点、地域情報化の視点が欠けている。そのため、IT活用の目的も明らかにならないといえる。
ポストe-Japan戦略
それでは、次期国家政策として「ポストe-Japan戦略」を考えてみよう。e-Japan戦略は、社会のあらゆる側面にITを導入しつつあるが、インターネットを中核とした自律・分散・協調というITの特徴を引き出しきれていない。
一つは、ネットワークの縁(特に地域)の活性化を促進することである。今後は、地域で展開される自発的な活動をITによって可能な限りサポートするとともに、これを地域が抱える課題の解決に結びつけていく必要がある。ただし、こうした縁の活動は、どれ一つとして同じものはなく、固有の事情をつぶさにみていくことが重要となる。
もう一つは、自律・分散・協調型の国土デザインである。具体的には、地方分権あるいは地方主権社会を構築していく必要がある。地方分権化は1970年代から始まり、1999年には地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)が成立したが、現在でもなお、東京一極集中社会が形成されている。「下からの分権(主権獲得)」を後押しするITと出会うことで、地方分権はようやく現実のものとなる。
このように、ポストe-Japan戦略は、もはや中央(国)が主導する範囲はきわめて限定的である。あくまで主役は縁(地域)であり、進めるべきは縁(地域)の活性化である。
問われる地域のあり方
こうしたなかで、最大の受益者である地域こそ、意識と行動パターンを変えねばならない。そこで、先進地域を参考にしながら、地域が進めるべき大まかな方向性を整理すると、「地域の経済的自立からスタート」「地域固有の事情を考慮したIT化」「人財」「自治体の役割」が重要であることがわかる。
日本再生モデル
現在の日本は、60年前の1940年代に匹敵する「底」に位置づけられる。経済再生のための試行錯誤を続けるものの、金融政策をはじめとしてこれまで打ち出されたオールジャパンの政策は、残念ながらどれも効果がきわめて低かった。真に日本(全体)が再生するには、地域(部分)が自力再生することが求められている。
部分から全体へ、地方の回復が日本全体の回復を牽引する。これが、新しい日本再生モデルとなる。そのために、地域を元気にさせる地域情報化は、最も有効な手段の一つである。