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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

<パネルディスカッション 1>今後の情報インフラのあり方

【パネリスト】
浅羽登志也((株)インターネットイニシアティブ常務取締役議事湯津本部長)
中川郁夫((株)インテック・ネットコア取締役CSO)
三須 久(関西ブロードバンド(株)社長)

【モデレータ】
関口和一(日本経済新聞(株))

 パネルディスカッション1では、地域の視点を念頭に今後の情報通信インフラのあり方について議論を行った。

 浅羽氏は日本を代表する大手ISPであるインターネットイニシアティブ(IIJ)の技術面を統括する立場で、日本のインターネットの初期からインターネットのバックボーンを作って来た人物の一人である。中川氏も技術者で、分散IXの研究などさまざまな活動をされているが、富山県出身で、富山の情報化を担う中心人物の一人でもあり、今回は地域で活躍する技術者の立場で参加していただいた。三須氏は関西ブロードバンド(株)で、新しいモデルにより地域のアクセス網整備を進めている。今回のパネルには、全国バックボーン、地域の情報化、アクセス網整備の立場の方に参加していただき、日本のインターネットを総合的に見ることのできる布陣となった。

 パネルの冒頭で、関口氏は現在の日本の状況をまとめて、次のように述べた。

「e-Japan戦略が始まって丸2年になり、ADSLについては3,500万世帯に導入可能、FTTHについては1,500万世帯が加入可能で、すでに当初の目標を達成しているといわれている。しかし、導入可能な数についてADSLは15%、FTTHについては1%であり、個人的にはとんでもないと考えている。現在、今後の戦略について考え直す時機に来ている。日本が遅れているという状況は克服された。これからは、いかにそのうえでコンテンツ・アプリケーションを作っていくかが重要だ」

 この状況を踏まえて、3氏に意見を求めた。

全国インフラ構築の立場

 浅羽氏は、バックボーンプロバイダの立場から、これまでどのような取り組みをしてきたか、ブロードバンド化が進むなか、どういう意識を持っているかについて語った。まず、日本のインターネットは大変な勢いで伸びていることを述べたうえで、「IIJのバックボーンは全国津々浦々をカバーするところまでは行かず、主要都市をカバーする程度である。各地域の中にもデータセンタとアクセスポイントがあり、それを複数の経路で結ぶ大容量のバックボーンを持つ構成になっていること」を説明した。さらに、状況がどのように変化し、それに対するIIJの戦略はどうかについて、次のように述べた。

「かつて、インターネットはおまけのサービスだった。電話が主要な通信手段で、そのネットワーク上でデータをやりとりしていた。しかし、今は逆転してデータが主体になっており、データ通信に適したインフラを作ろうというふうになっている。そのことによって、ネットワークの作り方も変わり、課金の考え方も変わっている。

このような試みのなかで、e-Japan戦略などによりアクセス回線がブロードバンド化してきている。2005年には典型的なアクセス回線速度は10Mbps以上といわれているが、そのときバックボーンに必要な容量を計算してみた。単純に2000年末のデータを元に計算すると、2005年にまったく同じバックボーンとトラフィックのパターンという仮定の下では、IIJのバックボーンは44.5Gbpsの回線が必要であるという結果になった。おそらく、現在の技術ではこのバックボーンを作るのは難しい。

今はデータがアメリカ・東京などに集中するというモデルになっているので、非常に太いバックボーンが必要という計算になる。データを分散させ、バックボーンの負担を軽減しながら、ユーザは同等のサービスを受けられるようなサービス作りを始めている。これがわれわれの取り組みのひとつだ。

また、日本のブロードバンドユーザ数は非常に伸びており、IIJの統計では、1ユーザあたりの帯域は、ブロードバンドユーザ数に比例するように、指数関数的に伸びている。一方、帯域あたりの収入は、右肩下がりでどんどん下がっている。IIJの統計では、この5年間で約10分の1になっている。データのことをだけを考えたネットワークというのはコストを下げられるはずで、2005年に向けてそれを真剣に考え始めている。IIJで考えているのはこの2点だ」

地域活性化のための地域インフラ

 次に中川氏が、特に地域インフラの役割という観点から、地域IXの話に重点を置いて発言した。最初に中川氏は、浅羽氏の全国のバックボーンを考える視点とは異なり、地域から見たときには「地域情報化」をまず考える必要があることを指摘した。地域情報化のゴールは地域活性化そのものにあると述べたうえで、地域情報化の役割として、「個人の生活が向上すること」「地域産業を元気にすること」「人材を育てること」の三つを挙げた。これらを前提として、次のように述べた。

「地域インフラの要素として四つほど挙げる。ファーストワンマイルの話。それからデータセンタあるいはデータファームといわれているもの。これは情報を蓄積したりサービスをしたりする拠点になる。地域の中でコンテンツを育て、それに付随して人材が育つことが大事だが、そのためには地域にデータセンタが必要となる。三つ目はバックボーンで、これはユーザ同士、あるいはユーザとサービスを結ぶ通信網になる。地域の中のバックボーンという見方をする場合もあるし、外部との接続性を伴って考える場合もある。最後は、地域IXである。これは、地域内の通信を地域内で流通させようということだ。

この仕組みによって、コンテンツを地域内で育てることができるというメリットが出てくる。よく、コンテンツは東京に置けばよいという議論になるが、地域の視点から考えると、これは必ずしも正しくない。地域内にコンテンツを置くことによる波及効果があり、そのことによってコンテンツそのものが地域内で育ち、クリエイターが育つ。サービスを提供する事業者や技術者が育つということが重要だ。そのために地域内でインフラを作っていく必要がある。

地域IXの効果として、地域内通信の性能の向上がある。また、コミュニティ的な議論になるが、地域内の技術者の交流を生むという効果もある。

富山で地域IXを作ったときにも、地域だけでは何もできないということが問題になった。新しい実験をやりたいというときに、上流のISPにおうかがいを立てなくてはならず、実質的にはできない。自分たちのインフラを持っていないがために、自分たちのオリジナルのサービスを作れないという状況だった」

 中川氏は、地域だけでは自由な活動ができないことを指して、「東京依存症」と呼んだ。続けて中川氏は、富山県での試みを紹介した。富山県では現在、地域インフラを構築しており、これはCATV事業者間相互接続、県の構築する多目的ネットワークの「マルチネット」、および地域IXからなるものであり、これによって地域コンテンツも集まり始めているという。最後に中川氏は、富山の地域コンテンツの例として、「インターネット市民塾」という、オフライン・オンライン両方を活用して学習機会を提供するe-Learningシステムを紹介した。このシステムは延べ数万人に利用されており、コミュニティネットワークを形成しているとのことであった。

地域密着型のアクセス網整備

 一方、三須氏は、自身が経営している関西ブロードバンド(株)の取り組みを紹介した。関西ブロードバンドは兵庫県にある通信事業者で、地域に密着して兵庫県の隅々までブロードバンド接続を提供しようという試みを進めている。

 関西ブロードバンドのネットワークには、兵庫情報ハイウェイを利用している。これは5年間の期限付きだが、無料で利用できる。情報ハイウェイを整備している府県は多いが、その中から関西ブロードは兵庫県を選んだ。兵庫県は課題のひとつとして情報環境の南北格差を持っており、ハイウェイを民間に貸し出すことによってそれを解決しようとしているためである。これに加え、各NTT局舎を回ってダークファイバの有無を調査し、ハイウェイとダークファイバとを組み合わせてネットワークを構築することによってコストダウンを図っている。

 他社は神戸や兵庫県南部を中心にサービスをしているが、県の中部・北部はサービスのないまま取り残されている。しかし、関西ブロードバンドは情報ハイウェイとNTTのダークファイバ・メタル線・MDF(Main Distributing Frame)の開放によって、今後4年で兵庫県全域にサービス展開をする予定だそうだ。

 三須氏は関西ブロードバンドの取り組みの特徴として、地域密着型であることを挙げた。

「兵庫県内の88の市町をすべて訪問して、消防団・青年団・商工会議所の方々と話をした。その代表的な事例が淡路町だ。淡路町から明石海峡大橋を渡れば5分の神戸市はブロードバンドの宝庫なのに、淡路町側ではISDNもやっと、という状況だ。行政や事業者に申し立てても、人口が少ないという理由で開設できなかった。そこで、自治体が2,200万円の費用を投じ、関西ブロードバンドと協力して全員がADSLを利用できるようにした。2,200万円の費用と3カ月の期間で、自治体とベンチャーでADSLを開設したという画期的な事例だ。

すでに通信ベンチャーを呼び込もうという動きが13の町で起こっている。青年団や商工会などの小さな単位の組織が、自分たちの力でやっていこうと、通信ベンチャーと協力して取り組む動きが兵庫県にはある」

 「ただし、これは情報ハイウェイありきの話だ」とも述べた。三須氏は「西日本では、高知・岡山・広島・愛媛・山口・福岡・兵庫・鳥取・京都などでハイウェイが作られており、これらを連結すれば、兵庫県のような試みが他府県にまで及んでいく可能性がある」と指摘して、発言を終えた。

東京 vs. 地方

 関口氏は3氏の話を受け、まず浅羽氏に対し、東京中心のネットワークでは地域は困るという意見と、つながっていさえすればよいという二つの意見があることについて、コメントを求めた。

 浅羽氏はこれに対し、大手ISPの企業としての立場からは、顧客さえ確保できればネットワークの構成は東京中心でも地域分散型でもかまわないという観点があることを述べたうえで、理想的には地域IXがすべての地域にあるという状況がよいと思うが、技術的には現時点では難しいと述べた。また、企業である以上、事業展開の順序は収入との関係で判断せざるをえず、地域により整備状況に濃淡が出てきてしまうのはやむをえないことだと説明した。

 次に関口氏は、asahi.comのコンテンツが最初はサンノゼに置かれており、需要が増えるに従って日本に移されたことを挙げ、本当に初期の段階からIXは必要なのか、商業主義にのっとったネットワークのどこに問題があるのかを中川氏に尋ねた。

 これに対し中川氏は、地域情報化の観点から考える際には、地域活性化への貢献を第一に考えなければならないことを前置きしたうえで、次のように述べた。

「地域内にコンテンツ・クリエイター・事業者・人を育てるということを、地域として考える必要がある。そのためにはどうすればよいかという話になる。規模の経済の問題もあるので、大手ISPの言っていることもわかるが、われわれの議論はまったく別の視点から始まっていて、交わらない。これを『ねじれの位置』にあると言っている。

技術やプロトコルはユニバーサルだが、コンテンツはローカルなものだ。時間が経てば経つほど、コンテンツはローカルに落ちてくるだろう。歴史的に見ても、以前は日米間のトラフィックが多かったが、最近は国内のトラフィックのほうが多い。コンテンツ・コミュニケーションがローカル化していったときに、地域内のインフラが重要になる」

 続いて三須氏は、経営上の数字を挙げつつ、情報ハイウェイを利用した地域インフラ構築の状況について次のように述べた。

「料金の3割は上位ISPに払うコストになっている。上位ISPの方には考えて欲しい。情報ハイウェイを1,400km使っているが、これで年間1億7,000万円の経費節減につながる。情報ハイウェイを利用できる期限は5年で、それまでに全域で開局しておくこと、企業として十分な力を備えることが重要だと考えている。

情報ハイウェイを使う際の悩みは、地域内に閉ざされてしまい、その先に延長していけないということだ。横のつながりと上位との関係を作っていかないといけない」

 また、コンテンツについては、今後、地域内コンテンツが8割になると予想し、インフラがあれば必ずコンテンツができてくるのだから、まずインフラを作る必要があると主張した。

 ここで、関口氏は「インターネットはつぎはぎで作っていける技術なので、最初から計画的に大規模なものを作る必要はない」という意見を紹介し、会場の村井純慶應義塾大学教授に、「東京主導でも需要があればネットワークは作れる」という意見と、「地域からやらなければいけない」という二つの対立する意見へのコメントを求めた。

 これに対し、村井氏は次のように説明して、両方のアプローチが必要だと述べた。

「(日本の)インターネットができてきたときからWIDEとIIJがあったように、非営利のネットワークは必ず必要で、そのハーモニーが必要だ。そういう『分散』ができるから、カバレージができる。ここでいう分散には地域的な分散、方法論的な分散、プレイヤーのタイプの分散もあり、これらが並存できるところにインターネットの強さがある。

(村井・公文対談にもあったように)アジアのネットワークを作る際にも寄付してもらったり、コマーシャルなものを使ったり、それを組み合わせることで非常に早く基盤の構築ができる。これがインターネットの良さだ。したがって、両方のアプローチが必要だ」

アクセス網整備の今後

 最後に関口氏は、アクセス網整備の今後の方針について取り上げた。総務省ではADSLが3,500世帯、FTTHは1,500万世帯に普及可能な状態になっているとしているが、実際の利用者数はこのごく一部だと指摘し、これは何が原因で、本当に縁をつなぐために、技術的には何をしなくてはいけないかを尋ねた。

 これに対し浅羽氏は、ADSL、FTTHの基盤が通信事業者にとって十分使えるようになっていないという問題があること、ローカルのネットワークといえども、ブロードバンドで作ろうとすると新しいやり方が必要となる場合があることなどを原因として挙げ、「遅れているというよりは、今やっているところだ」と述べた。

 一方、中川氏は、ポイントは人材だとしたうえで、「アクセス系の話については、これからは地域自身がどうやっていくかということを考えていかなければいけない。ユニバーサルサービスといわれていたものは通用しなくなっている。ADSLがだめなときどうするかということは、地域が考えていかないといけない」と述べた。さらに、CATV事業者が意外と元気だということを強調し、それを地域でバックアップすることの必要性にも触れた。

 三須氏は「今の日本のメタルケーブルを0.5mmから0.9mmに変えるだけで、日本国民全員がブロードバンドになる。これは全部FTTHにするよりもはるかに安い。調べてみると、(NTTの)メタルは端に行くと太くなっており、7kmくらいまではカバーできる」としたうえで、地域社会から作る自治体中心の結集が第三勢力となって今後のインフラを作っていけるように、少しでも貢献したいと話した。

 最後に関口氏は、村井氏の話を引用したうえで、「さまざまな方法でのインフラ構築が始まっていて、すでに自律運動に入っているのではないか。日本のインフラについては、かなり初期の目的は達成したのではないか。人材とか、高速インフラ上のコンテンツ作りとか次の課題にいっていて、それがうまくいけば、新しい循環運動ができてくるのではと感じられた」とパネル全体をまとめた。

 本パネルでは、日本のインフラ全体を見て構築する立場と、地域からの視点を持って活動する立場との両方から、多角的に現在、および今後の日本のインフラ構築のあり方について議論することができた。地域からの視点によるインフラ構築の先進的な試みの一端が明らかになった点、また、その意義が明らかになった点で成果があったと言えるだろう。

報告/石橋啓一郎(GLOCOM研究員)

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