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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

特別国際シンポジウム「無線ブロードバンドが開く新世界」

上村圭介(GLOCOM主任研究員)
土屋大洋(GLOCOM主任研究員)

 2003年1月21日、高輪プリンス・ホテルにて、特別国際シンポジウム「無線ブロードバンドが開く新世界」が開かれた。GLOCOM、慶應義塾大学政策・メディア研究科、スタンフォード大学アジア/太平洋リサーチセンターの三つの研究機関による共催である。村井純慶應義塾大学教授の開会のあいさつの後、三つのセッションが行われた。ここでは第一セッションと第二セッションの主要発言について、その内容を報告する。

●基調講演
[無線アクセスが促進するシームレスなネットワーク]
ランディ・カッツ(UCバークレー教授)

 無線技術の可能性は、端末機器、ネットワーク、サービスのそれぞれにおけるさまざまな多様性(そして競争)を維持しつつ、利用者に対してシームレスな利用環境を提供できるところにある。ここで言うシームレスの意味は、単に利用者が、物理的な配線にかかわらずに機器をもって移動できるということではない。より重要なのは、無線技術が、多様な機器やアクセス技術をオーバーレイする役割を担いうるという点である。職場ではIEEE802.11bを、屋外では3Gデータ通信を利用するということを考えてみよう。物理的なネットワーク(つまり、電波)はすでにシームレスになっているが、これらのアクセス技術をオーバーレイして自動的に切り替えることができれば、利用者は場所だけでなく、ネットワーク環境もシームレスにホップできる。

 また、アクセスのシームレス化の裏側で進む、機器やサービスの多様化にも注目すべきである。「切り替え」を意識せずに使い分けられるということは、機器の多様性をもたらし、さらには市場の多様性(つまり競争)に結び付く。そして、この多様化とシームレス化という二つの波は、サービスにまで及ぶだろう。これまで、無線ISPの間では合従連衡が進んでいた。それは、大きなプレーヤーになることが、市場の支配力をもつという発想に基づいたものである。しかし、これからは一つの巨大化した事業者が利用者のニーズを満たすことはありえない。そのなかでのキーワードは、サービスの多様性である。

 利用者にとってサービスがシームレスに利用できるようになるまでには、技術的あるいはビジネス的に解決しなければならない課題が少なくない。しかし、これからは、無線技術が切り拓いた多様性とシームレス性を前提にしたサービスが、事業者同士の間の相互協調に基づいて提供されていくことが、戦略的に重要さを増すことになるだろう。

[ネットワークサービスの新しいバリュー]
鈴木正誠(NTTコミュニケーションズ社長)

 事業者としての視点から、無線技術が可能にするユビキタスネットワークが、これからの情報通信産業にもたらす新たな価値の構想について話したい。この構想の背景には、ブロードバンド・インターネットの「ビット単価」が、この2年で320分の1にまで低下したという危機感がある。これは、単に、従来の従量課金制が成立しにくくなったということを意味するだけではない。ネットワークサービスの「価値」が、今やインターネットアクセスを提供するだけでは維持できなくなったことも含意しているのである。

 これは、このような変化の中にあるネットワークサービスの新たな価値を、どこに求めるかという問いに対する一つの回答である。ネットワークサービスに今後求められる「ユビキタス性」にも注目したい。そして、ネットワークの新しい価値であるユビキタス性を実現する強力な手段として、無線技術はキャリアにとって重要な意味をもつことになる。

 ネットワークがユビキタスになることによって、さまざまなことが可能になる。その一つとして挙げられたのが、インターネットの「個電」化である。現在のインターネットは、お茶の間だけに置かれていたころのテレビ同様、一家全体で共有されるものとして想定されている。これは、ネットワークや機器という希少な資源を有効利用するためには意味があるが、ユビキタスなネットワークや、操作が容易になった機器の到来とともに、その必要性も低下していくだろう。そうなったとき、インターネットは、一家に一つの「家電」から、一人一つの「個電(KODEN)」へと変化する。

 そして、個電の中でこそ、あるいはパーソナル化したインターネットの中でこそ、通信の質や量、安全性、あるいはユビキタス性といった総合的な価値を保証するという通信事業者のイニシアチブが、あらためて求められるのではないだろうか。

[無線ブロードバンドと新たなビジネス]
リンジー・シュロス(ヤンキー・グループ・アナリスト)

 一足先に無線ブロードバンドが始められ、そして、失敗したアメリカの市場の経験を分析したうえで、日本での無線ブロードバンドを成功に導くための条件についてアナリストの視点から論じたい。

 スプリントやメトリコムといった、「第一世代」の無線ブロードバンドが失敗した最大の理由は、未完全なビジネスモデルである。煩瑣な導入工事、端末機器価格、限定されたサービスエリア、通信速度というどれを見ても、第一世代の無線ブロードバンドはビジネス的に洗練されていなかった。第一世代の失敗は、決して無線ブロードバンドの可能性を否定するものではないということである。そして、現在進みつつある無線ブロードバンドの第二世代は、この欠点をどう克服するかにかかっている。

 すでに、アメリカでも日本でも、無線ブロードバンドサービスは、次の世代を迎えつつある。機器は小型化し、移動性も備えられている今日の無線ブロードバンドは、第三世代携帯電話と並んで、新たな無線サービスの一角を築きつつある。期待が高まる無線ブロードバンドサービスは、機器メーカー、通信事業者、利用者のそれぞれに対してどのようなインパクトをもたらすのか。機器メーカーはブロードバンド対応機器をはじめとする新たな市場を開拓する機会を手にし、通信事業者はVoIPや分散コンテンツ配信といった新たなサービスの可能性を切り拓くことができる。そして、利用者は、いつでもどこでも使えるネットワークや、その上で提供されるリッチコンテンツといった新たな利用価値を見出すことになるだろう。

[無線のためのリテラシー]
村井 純(慶應義塾大学教授)

 インターネット自動車の実験の成果について紹介したい。名古屋の1,700台のタクシーにモバイルインターネット環境を与え、車の計器類の情報を送信するという、この実験は、単に、固定的な点だけから収集されていた情報が、移動する点から収集されるようになったということを意味するのではない。

 たとえば、ワイパーの情報は、ある一点で見れば、それは動きの緩急の程度にしかすぎないが、それが面的な広がりをもって収集されることで、降雨を意味する情報に転化する。速度という情報も、ある一点では車両の移動速度にすぎない情報が、面的な広がりを伴うことで、渋滞情報に転化しうる。さらに、ABS(Antilock Brake System)の稼働状況を面的に集めることで、その地域のスリップ情報になる。このことは、無線通信技術は、情報の量を質へと転化させる役割も果たしうるということを示したと言えるだろう。

 一つの大きな課題がある。私たちの社会が無線技術に大きく依存することになると、私たちはそれまで意識しなかった無線というものの存在について、より意識的にならなければならない。たとえば、近隣に最近建設されたビルによって人工衛星からの電波が遮られ、今まで利用できたところでGPS(Global Positioning System)が利用できなくなるかもしれない。また、昨年末のヒット商品となったワイヤレステレビは、無線LANと同じ周波数帯域を使用するため、お互いが近くにあると、どちらも利用することができなくなることがある。

 こういった事例を十分理解し、自ら解決策を講じるためには、無線の特性についての知識が一般に求められる。無線ブロードバンドの時代には、「ワイヤレス・リテラシー」という新しいリテラシーが必要となるのではないかと思う。

*****

 後半の第二セッションでは、第一セッションの技術の可能性を受けて、それが規制、特に周波数の再分配のあり方に対して与える影響に関して議論が行われた。基調講演は、ジェラルド・R・ファウルハーバー教授とデービッド・J・ファーバー教授の共著論文に基づいて、ファウルハーバー教授が行った。ファーバー教授はパネル・ディスカッションに参加した。

●基調講演
[電波管理]
ジェラルド・R・ファウルハーバー(ペンシルベニア大学教授)

 米国において電波は、1934年以来、連邦通信委員会(FCC)と商務省が行政命令によって配分してきた。その理論的な根拠は干渉と希少性であった。行政によって配分される電波は特定の利用方法に縛られており、一応期限付きだったが、当然更新されるものとされていた。FCCの許可なしにライセンスを売却・譲渡することはできないものの、無料で配布されてきた。これはまるでソ連のゴスプラン(国家計画委員会)のようで、希少な資源の配分にこうしたモデルを使う理由がわからない。

 経済学者たちは1959年のロナルド・コースの論文以来、この統制と命令の体制を批判してきた。1993年にFCCはようやくオークションを開催したが、全電波に占める割合はほんのわずかに過ぎない。電波は行政が配分するには重要すぎるものであり、最大限効率的に配分するためには市場を使うべきである。

 エンジニアたちも違った視点から、統制と命令体制を批判している。つまり、UWB(ウルトラワイドバンド)やアジャイル無線、メッシュ・ネットワークのような新しい技術が出てきており、電波をこれまでのように細分化するのではなくてコモンズ(共有地)として使うべきだというのである。

 つまり、経済学者とエンジニアは効率的な電波利用という共通の目標をもっている。現在の統制と命令体制に代わる体制として、所有モデルとコモンズ・モデルが提唱されている。電波の所有モデルは電波が希少な場合には適切だが、電波が希少でないならばコモンズ・モデルのほうがうまくいくと考えられている。しかし、両者は排他的なモデルではない。全面的にどちらかである必要はない。たとえば、公園のように一部の電波をコモンズ利用に開放しながら、他の部分に所有モデルを適用させることもできる。

 問題はどうやってそこへたどり着くかである。現行のライセンス保有者から強制的に電波を取り上げることが政治的に無理であるなら、利害関係者の誰もが得する方策を考えなくてはならない。そのためにわれわれはビッグバン・オークションを提案する。

 つまり、政府保有の分も含めて「すべての」電波をいったんオークションに出させる。しかし、現在電波をもっている人は売らなくてもよい。あらゆる要素を勘案して釣り合う値段だと思えば売ればいいし、そうでなければ保持することもできる。すべての電波をいったん市場に出すことで、取引市場が成立する。電波を売買、賃貸し、分割、統合することができるようになり、政府は電波管理から手を引くのである。

 所有権モデルとコモンズ・モデルが相容れないというのは嘘である。両方が成り立つ市場ベースの体制を構築することが可能であり、われわれはそうした体制へすみやかに移行すべきである。

[ビッグバンはまだだ]
ロバート・バーガー(GLOCOM客員研究員)

 ファウルハーバー教授とファーバー教授が提案していることは、純粋な私的所有モデルよりはいい。しかし、私的に所有される電波がまだ支配的だと考えていることは問題である。コモンズがもたらす機会をまだ制約しており、私的所有の付与を奨励してしまっている。こうした取り返しのつかない決定をしてしまうには情報がまだ不十分である。

 ロナルド・コースが基準としたのは、コストが恩恵を上回るかどうかという点である。所有モデルでは、システムがダイナミックになればなるほど取引コストが高くなり、効率的な価格付けを阻害し、電波開放の発展の負担になってしまう。電波に所有権を設定していいかどうかを判断するには、短期/長期の研究が必要である。

 UWBのようなスペクトラム拡散技術を使えば、出力と電波の幅をトレードオフにすることで、既存の利用者に負担をかけることなく使うことできる。コストはデジタル信号処理と標準化のプロセスだけである。また、メッシュ・ネットワークではステーションごとの出力はとても小さくてすみ、接続する所有者が増えれば増えるほどシステム全体の能力も向上するというメリットもある。この場合のコストは、コンピュータ処理と標準化のプロセスである。

 無線通信の最適化のために新しい技術を使うべきである。電波はこれまで有限だと考えられてきたが、新しい技術によってそうでもなくなってきている。どれくらいの通信能力があるかは技術が決めるものだが、私的所有は電波を分断し、電波の所有者の政治力がマイナスの制限を生んでしまうかもしれない。

 ファウルハーバー教授とファーバー教授が提案するビッグバン・オークションは、戻れない道を造ってしまう可能性がある。コモンズの技術はまだ新しく、その可能性を見極める時間が必要である。その前に永続的な所有権を配分してしまうことには反対である。

[効率的な電波政策を達成するために]
山田 肇(東洋大学教授)

 日本でもこの1年の間に、政府の中で大きな動きが始まっている。ここで紹介する資料は昨年末に発表されたものだが、メディアであまり大きく取り上げられなかった。そこで、その情報を提供し、アメリカと比較するためにも日本のことを話し、最後に私の意見を述べたい。

 総務省に電波有効利用政策研究会が2002年1月に設置され、第一次中間報告が昨年6月、第一次最終報告書が12月に出た。なぜそのような研究を始めたのか。無線周波数の不足が明らかになってきたが、今までのやり方では迅速に対応できないということが明らかになってきたからである。たとえば、1950年には日本に無線局が5,317局しかなかった。しかし、2002年の9月には7,838万局ある。すなわち1万5,000倍にもなっている。それにもかかわらず、今までと同じ規制の枠組みでいいのかというのが研究会発足の理由である。

 今までも第三世代の移動通信システムを入れる際など、周波数の移行が行われてきたが、さらに需要が増えれば対応できない。10年より短い期間で再配分をやりたいというのがねらいである。その際、代替周波数を与える場合と、与えない場合とが考えられる。

 最も重要だと思うことは、再配分計画の策定にあたって迅速さが求められるということである。一方で既存の利用者の利益を守ることも考慮しなくてはならない。すべての周波数についてどういう使用状況にあるかを3年かけて調査することにし、すでに昨年の11月から予備調査が行われている。使っていない人たちがどれくらいいるかを3年かけて明らかにすることで、既存利用者に圧力をかけようとしている。

 再配分計画の策定に当たっては、パブリックコメントを求めることなどが書かれている。周波数を再配分するということは、別の周波数を単に割り当てるということではなく、光ファイバーなどに置き換える可能性も考えている。これは大変評価できる。

 さらに、5年以内という短い期間で再配分することの考察にページが割かれている。5年以内に再配分しようとすると、免許期間が残っているのに再配分対象になることもある。既存の事業者は継続的に利用できるという仮定に基づいて設備投資を行ってきた。これに対応するために、残存簿価で補償して出ていってもらうことが適当だとしたことが、この報告書の特徴である。

 実は、この報告書は自己矛盾を抱えている。日本国内では地上波のデジタル放送への移行が進もうとしているが、アナログ放送局の残存簿価は0円にもかかわらず、移行の費用が出されようとしている。

 どこからお金を調達すればいいのだろうか。電波利用料を増額することが検討されている。その半分は新規利用者に負担してもらう。残りの半分は既存の利用者に負担してもらう。無免許利用者の負担と、その負担額については研究の余地がある。

 ライセンスの方法についても議論が出ており、オークションは不適切だという結論になった。免許料の高騰やサービスの遅延・撤退の可能性があるからである。長期ライセンスの期待も高くなり、未来永久使いたいという人が出てくる。それでは将来、再々配分が必要になったときにそれを阻害してしまう。

 それに代わる方法として、美人投票に市場原理を導入する。基本的には政府の責任で美人投票を行うが、参入希望者に再配分コストをどれくらい負担し、どこまでの地域をカバーするかといった金銭的支出計画を提出させる。美人投票の基準がはっきりしないことがこれまで問題だったが、それを事前に表明することで公正にする。

 技術開発の必要性も報告書で指摘されている。SDR(ソフトウェア・ディファインド・ラジオ)など周波数共用の技術も示されている。こうした研究を迅速に進める必要がある。

 私は、電波使用状況の公開に動き出したことを評価している。移動しなければならない事業者の補償に、残存簿価を提供することも評価できる。しかし、コモンズにたどり着くにはまだ長い道のりがある。コモンズの技術は研究段階にあると報告書では評価されているが、第四世代の研究が進んでおり、急速にコモンズに進んでいくだろう。第三世代はすでに失敗している。現在の第三世代は特有の技術を使っていない。料金が高すぎるのがその理由である。このような料金体系では、とても支払うことができない。第三世代のデバイスは日本中にばらまかれたが、それをデータ通信に使う人はいない。この料金を下げるには限界がある。もしこれをしようとするなら、より安い値段で提供できるコモンズの技術を使わざるを得ない。その結果、日本の周波数政策もコモンズの方向へ進むだろう。

[新技術が提起する規制環境の変化]
高取 直(株式会社鷹山代表取締役社長)

 電波は公益財である。通信は国家の神経網であり、社会安全保障の観点を軽視してはならない。

 オークションの話、コモンズの話が出ているが、われわれもそれをいずれ修正して受け入れていくことにはなるだろう。効率的な調整機能を受け入れていくことは否定しない。私たちの世代は、アメリカの若者たちと共通の価値観、ものの考え方をもっている。反する価値観をもっているわけではない。しかし、われわれの社会の伝統から、コモンズやオークションを受け入れていく受け皿ができているかどうかはわからない。電波は基本的に公益財として考えるところから始めないと、私たちはきちんとした電波の再配分ができないのではないか。

 それぞれの国に存在する多様な文化、伝統、社会特性に合った仕組みにかんがみて、新しい技術、配分法を受け入れていけるか考えていくことが重要である。なし崩し的な市場経済、市場主義、コモンズの受け入れには反対である。うまくいっていた私たちの金融システムが、急速に国際化することによって変調をきたしたように、電波の世界でも同じことが起きてしまうのではないかと懸念している。

 コモンズにしろ、オークションにしろ、「行政や政府には恣意的な考え方の介入があって、行政は信頼できない、公正な導入が行われない」という前提があるように見えるが、行政をもっと信頼すべきだと思う。今、行政に求められているのは、スピードの向上と効率化、そして情報公開である。基本的には私は行政を信頼していいと考えている。いずれによせ、需要と供給が公正性を監視するのか、それとも政府が監視するのか。われわれの仕組みは行政を中心とする構造をもっている。コモンズやオークションを入れる受け皿があるのか疑問である。受け入れ方のプロセスを重視しなくてはならない。電力の自由化に関しても、カリフォルニアを見ると、われわれが社会的に保持しなくてはならないものが何かを考えざるを得ない。権利と義務の社会調和がとれるのか。われわれの社会とオークションとの間で整合性をとる時間が欲しい。

 電波を考える場合には、公益部門と民間部門を区別して議論するべきである。いずれにも求められているのは、最小のコストで最大の効用をあげることである。両部門のコスト定義は違っているのではないか。公益部門は、オークションや市場原理から見ると無駄かもしれないが、社会のノリシロになっている。コスト定義を一義的に決めてしまうのはおかしい。私はあくまでも日本の状況にあった電波政策を希望している。

 私たちの社会は、外国からいいものと悪いものを区別して吸収するという社会特性をもっている。しかし、これが近年崩れて社会混乱が起きている。電波政策においては慎重な姿勢を保ちたい。社会が変化したときに、瞬間的に対応する能力が日本には欠けている。私たちの世代が時間をかけて新しい技術を受け入れられるよう猶予が欲しい。コモンズとオークションの中間に位置するところで選んでいくことになるのではないか。グループ単位のコモンズや、民間部門のサービスに近いところでのオークションもありえるかもしれない。

 私は、あくまでも電波に関しては、公益財の性格と役割を見失った議論をするべきではないと思う。

[レスポンス]
デービッド・J・ファーバー(ペンシルベニア大学教授)

 私が今日お話しすることは、アメリカ中心的な考え方である。これまで何度も日本に来ているし、日本のことも少しはわかってきているが、アメリカのことがそのまま日本に適用されるわけではない。

 私がお話しすることは、1年半にわたりワシントンD.C.の連邦通信委員会(FCC)でチーフ・テクノロジストをした経験に基づいている。これはとてもおもしろい経験だった。

 私が何か新しい提案をすると、たいてい失敗した。そこで気がついたのは政治の重要性である。政治はどこの国でもやっかいである。特に通信にかかわる政治はもっともひどい。官僚たちは技術を理解していないし、技術者たちは政治を理解していない。両者の間に大きな溝があった。

 技術の世界では大きな変化が起きている。コンピュータの能力はどんどん向上し、われわれの生活を変えてきている。しかし、それに対応した電波規制は達成されていない。問題はそこへどうやって到達するかだ。米国では、インカンベント企業は問題を議会に訴え、議会がFCCをコントロールしている。議会はFCCの予算その他の権限を握っているからだ。技術のリアリティと政治のリアリティの両方を理解しなくてはならない。

 電波が非常に無駄な使い方をされていることに多くの人が気づいていた。しかし、それを市場に引っ張り出す方法がわからなかった。電波を開放し、それに価値を付加することが必要だ。低出力、コモンズ、UWBのような技術が出てきているとしても、技術の問題と政治の問題を混同してしまってはいけない。

 われわれは電波を政府の管理の手から解放したい。技術を最大限に活用して、政治的な手詰まりを何とかしたいのだ。政府の官僚主義から救い出したいのだ。私はフリー・マーケットは危険なものだという考えの持ち主だが、この場合はもっと効率的な電波利用へつながると考えている。確かに未来を予測することは難しいが、市場に問題を解決させるべきだ。これが提案である。

*****

 上記のような基調講演とパネル発表に引き続いて、自由討論が行われた。日米の制度に大きな差があるとしても、新しい無線技術の到来によって需要が大きく増大してきており、それに対応した政策・制度が求められているという点では各論者は合意したが、それがいったいどういうものなのか、そしてそこへどうやって進むかという点についてはさまざまな問題が指摘された。

 第二セッションの議論を受けて行われた第三セッションにおいてはカッツ教授が再び登壇し、技術革命に対応した協調的なモデルを構築する必要があると指摘し、公文俊平GLOCOM所長は、何が先か後かとは言うことはできず、通信政策全体の見直しにつながる議論であったと総括した。

 本シンポジウムは応募多数のため、一般参加申し込みには抽選が行われたが、シンポジウムの模様はネット中継され、閉幕まで継続的なアクセスが見られた。なお、各出演者の主要な発言内容は下記サイトのビデオで見ることができる。

<http://w3.glocom.ac.jp/project/wireless/>

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