米国の特許制度の根幹をなすものは米国独自の先発明主義と非公開主義である。悪名高いサブマリン特許はその申し子といって良いだろう。このサブマリン特許と同じように悪名が高いのは多額の侵害訴訟問題を起こしているビジネス方法特許である。特許対象性が拡大されつつあること自体には問題はないが、当局の審査技術の不足やその他の問題から特許に値しないものまで特許が付与されて大きな問題となっている。当局は、産業界からの強い批判に応えて特許行政を改善するためアクション・プランを策定して公表した。下院においてもビジネス方法特許改正法案が上程されている。 日本は欧州諸国と同じ先願主義と出願公開制度をとっている。特許庁はビジネス方法のアイデアをソフトウェア関連発明の一形態として把握し、特許対象性を拡大してきたが。しかし審査能力の不足のために特許に値しないと思われるものにまで特許を付与してしまった例があり、批判の的となっている。特許庁は、今後は審査基準の明確化、先行事例データベースの充実と強化、審査官・審判官の技術向上を目指して努めることを明らかにしている。
日米ともに問題の多い特許が成立してしまっているのが現状であるが、一旦特許が成立してからの対抗・救済手続きには日米では大きな相違がある。米国においては侵害訴訟で訴えられた被告は裁判所で当該特許の無効を主張して争うことが出来る。これまで日本では特許の効力問題は特許庁の専権事項であるから、米国と違って被告は裁判所の侵害訴訟の場で当該特許の有効性を争うことはできないというのがこれまでの定説であった。しかし半導体の「キルビー特許」に関して最高裁が、「明らかな無効理由が存在する特許に関して、差止めや損害賠償請求を行うのは権利の乱用にあたる」と判決したことは、実質的に裁判所が特許の有効・無効の判断に立ち入ったことになる。したがい、今後は本テーマに関する法環境が変ってくる可能性がある。
これまでの定説の法理論的根拠は大審院の判例と「公定力」、すなわちたとえ行政の行為に瑕疵があると疑われる場合でも、適法性の判断の優先権は当該行政機関にあり、権限を有する行政機関により取消されるまでは適法と推定する考えかたにある。しかし、このような考え方は三権分立及びチェック・アンド・バランスの精神に反するものである。
ビジネス方法特許紛争の本質は、一面においては特許行政の論理とインターネット文化の衝突ということが出来る。特許行政の論理とは、出願という行動をとった者は保護するが、とらない者は保護しないこと、及び過去の有用で新規性・進歩性がある先行技術は全て先行技術データベースに入っている筈なので、入っていない技術は先行技術ではない筈だから特許の対象とするという考え方である。
これに対してインターネット文化においては、発明者は自らの権利を主張しないで多くの人に使ってもらうという市民のボランティア活動が柱となっている。したがって、有用で新規性・進歩性がある技術であっても、発明者は必ずしも特許出願をしていない。特許行政側の不十分なデータと審査による特許付与が大きな問題を起こしているわけで、現代のサブマリン特許ともいうべきである。ビジネス方法特許は適用範囲が極めて広いという特性があるのであるから、審査に当たっては基準をもっと厳重にして対象を高度な技術に限定すべきである。