認知症の人にやさしいまちづくりに関する研究


「認知症による事故は家族に監督責任なし」という最高裁判決が出されました(2016/3/11)

3月1日、最高裁で「認知症患者による事故の賠償責任は監督者である家族にはない」とする判決が出されました。

本件は愛知県で2007年、認知症で徘徊中の男性(当時91)が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求めていた訴訟の上告審判決で、最高裁判所は介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示しました。

重い認知症の人のように責任能力がない人の賠償責任を「監督義務者」が負うと民法は定めており、家族がこれに当たるのかが争われました。民法では「夫婦には互いに協力する義務がある」とも定められていますが、最高裁は「夫婦の扶助の義務は抽象的なものだ」として妻(93)の監督義務を否定。20年以上別居している長男(65)についても監督義務者に当たる法的根拠はないとして、JR東海の逆転敗訴が確定しました。

一方で、監督義務者に当たらなくても、日常生活での関わり方によっては、家族が「監督義務者に準じる立場」として責任を負う場合もあると指摘。生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ、との基準を初めて示しました。この判決は高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうです。

この判決は「認知症の人の介護をする家族の救いになる」と概ね高く評価されています。しかし、家族に必ずしも監督義務や賠償責任がないとなると、認知症の人が起こした事故や事件の被害者救済を誰がどのように行うのか、といった指摘も出されています。

徘徊防止や見守りなどの対策を行うことで、そもそもこうした事件を防止できる地域づくりが必要となります。

■参考URL
認知症患者による過去の鉄道事故まとめ(認知症ねっと、3月16日)
認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決(朝日新聞、3月1日)
認知症事故、最高裁初判断 高齢社会を考慮 責任、線引き難しく(毎日新聞、3月2日)
JR認知症事故訴訟の最高裁判決要旨(産経新聞、3月2日)
認知症が原因の損害、補償枠組みを検討 自民党・特命委(朝日新聞、3月4日)
<考えよう徘徊>(下) どう守る事故被害者(中日新聞、3月4日)
厚労相 認知症の人や家族支える取り組み強化へ(NHK、3月6日)
「認知症事故 家族責任なし」最高裁判決の今後の影響(読売新聞、3月9日)
認知症列車事故訴訟の最高裁判決に大瀧弁護士「責任の押し付け合いは、もう古い」(医療NEWS、3月9日)
JR、事故死の認知症老人の遺族に7百万円請求…85歳妻は要介護者、最高裁がNO (Business Journal、3月11日)

2016-03-11