認知症の人にやさしいまちづくりに関する研究


【連載】高齢者ドライバーと免許証に関する分析-認知症700万人時代に備えてー(1)

はじめに
近年、高齢者ドライバーの増加に伴い、高齢者による交通死亡事故が多発しているというような報道が見受けられます。実際に事故がどの程度増加傾向にあるかは後述しますが、少なくとも、日本社会では高齢者ドライバーや認知症を持つ方の車の運転に関して関心が高まっていると考えられます。
本稿では、高齢者ドライバーの増加と免許証の関係から、認知症が増加する将来の社会に対し、何が提言できるかを探っていきます。

1.高齢社会と認知症700万人時代
厚生労働省の発表によれば、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症またはその予備軍としており、2025(平成37)年には約700万人(5人に1人)が認知症又はその予備軍となると見積もっています。
このような将来に向け、政府は認知症対策のための国家戦略「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(厚生労働省)を策定しました。同プランには、重点的に取り組むべき七つの柱が提示されていますが、その柱の一つに「認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進」があります。これは、高齢者の方や認知症の方のために①生活の支援(ソフト面)、②生活しやすい環境(ハード面)の整備、③就労・社会参加支援、④安全確保をといった環境を整備しつつ、地域が形成されることを推進するという趣旨です。この中の④安全確保には、「高齢歩行者や運転能力の評価に応じた高齢運転者の交通安全の確保」という項目があります。国が高齢化社会に向けた取り組みの課題の一つとして、高齢者ドライバーの運転と交通安全に注目しているということの証左でしょう。高齢者の方、認知症の方が増加することで起こり得る交通事故を防ぐ取り組みが、今後課題とされていくことが予想されます。

2.データから見る交通事故と高齢者の関係
このように、将来の高齢社会及び認知症700万人時代の到来に備え、高齢者の交通安全への対応が社会全体の課題となっていますが、そもそも高齢者ドライバーによる交通死亡事故は増えているのでしょうか?ここからは、公開されている統計データ及びグラフを用いて検証していきます。

(内閣府「平成28年版交通安全白書」より)

これは、内閣府が公表している「平成28年版交通安全白書」に掲載されている、1951(昭和26)年から2015(平成27)年までの交通事故数・交通事故死亡事故者数などの統計グラフです。注目しておきたいのは、交通事故死亡者は1970(昭和45)年の16,765人が最も多く、その後減少を続け、1979(昭和54)年には8,466人とほぼ半減しているということです。のちに一旦増加し、1988年には再び1万人を超えて1992年には11,452人とりましたが、近年はピーク時の約4分の1の4,117程度に減少しています。このグラフから、交通死亡事故の総数が近年は減少傾向にあるということが理解できます。

次に、警察庁交通局の資料「平成27年における交通事故の発生状況」(平成28年3月30日発表)から、年代別交通事故発生件数のデータを見てみましょう。

(警察庁交通局「平成27年における交通事故発生状況」より)

この資料からは、平成17(2005)年以降の事故の発生件数は減少傾向にあるが、80歳以上が微増傾向であることが窺えます。しかし、「全世代の中では、高齢者による事故の発生件数は少ない」ということも理解できます。

では、年齢層別の免許保有者10万人当たりの交通事故件数の推移について見てみましょう。このように、「該当年代の免許証保持者10万人あたり、どのくらいの事故を起こしているのか」を調べることで、各年代の人口規模と切り離してより正確に、該当年代の人の事故の起こしやすさを知ることができます。

警察庁交通局「平成27年における交通事故の発生状況」

このグラフを見ると、10万人あたりの免許保持者で交通事故を起こす割合は「16-19」歳の年代が突出して高く、次いで「20-29歳」、その次が「80歳以上」の高齢者ということになります。一般的に高齢者とされる65歳以上の人を含む「60-69歳」や「70-79歳」の件数は、ほぼ30歳代と変わらない結果となりました。このようにグラフを読み解いていくことによって、高齢者による交通事故は他の年代と比べて総数として多くなく、高齢者年代における事故を起こす割合(10万人あたりの事故件数)も低下しているということが分かりました。

ではさらに、高齢者ドライバーの死亡事故が増加しているかについて検証してみましょう。

(内閣府「平成28年版交通安全白書」より)

このグラフは、「自動車又は原動機付自転車運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数の推移」を表したものです。

ここから理解できるのは、実は最も「死亡」事故件数が多いのは「16-19歳」で、次に「80歳以上」の高齢者であるということです。また、「20-29歳」の方が、「60-69歳」よりも死亡事故件数が多くなっています。このように、高齢者による交通死亡事故も増えているというわけではなさそうです。

これら資料から理解できるように、高齢者の交通事故が多発している・増えているということには大きな疑問が付きます。
一方、先述したように、高齢に伴う認知症患者の増加が交通事故の発生状況に影響を与えるのではないか、という指摘もあります。(続く)
(執筆・杉内寛幸)

2017-04-24