認知症の人にやさしいまちづくりに関する研究


【連載】高齢者ドライバーと免許証に関する分析-認知症700万人時代に備えてー(4)

5.行政・民間企業の動き
これまで見てきたように、高齢者ドライバーは年々増加傾向にあり、また地方においてその傾向は顕著です。最後に、こういった現状において行政や民間企業の動きを一部取り上げたいと思います。

【行政の動き】
◆認知機能検査と高齢者講習
警視庁・警察などの行政は、これらの状況への対応として、認知機能検査や高齢者講習を実施しています。下記の図は、「運転免許統計」のもので、認知機能検査の受検者数及び高齢者講習の受講者数の年別推移が載せられています。

(運転免許統計平成28年版p.38)

また、高齢者講習を行い、75歳以上は認知機能検査と高齢者講習を受講しないと免許更新ができなくなるなどの措置がとられています。

◆免許返納制度
免許返納制度は1998(平成10)年から始まりました。免許返納後、代わりに「運転経歴証明書」が交付されます。同証明書は、免許証と同じように身分証(本人確認書類)として使用することができます。このような自主返納は、管轄の警察署で手続きを行います。
自主返納後は、各地方自治体などで様々な特典を受けることができます。例えば、福井県福井市などでは、バス回数券の交付や、福井市内のタクシーが1割引き(75歳以上)になる制度があります。各地方自治体の自主返納者特典は。高齢者運転支援サイトの一覧をご覧ください。

【民間の動き】
総務省で行われた「ICT超高齢社会構想会議ワーキンググループ(第5回)」の配布資料には、トヨタ自動車株式会社が「超高齢社会における安心・安全な移動の実現に向けて~ICTを活用したITSとスマートコミュニティ~」というプレゼンを行っています。これによれば、超高齢社会における安心・安全な移動の実現に向け、①「高齢者ドライバーの特性に対応した安心、安全なクルマ作りと普及」②「高齢者の移動(生活)を支えるモビリティを軸とした社会システム構築」という形でICT技術を利用した新しい車づくりを行うようです。

6.まとめ
これまでの調査をまとめると以下のようになります。

①近年は交通死亡事故は減少しており、高齢者による事故も減っている。
②しかし、認知症者は増えていくと予想され、そういった方々による交通事故は未然に防ぐ必要がある。
③地方では特に高齢者ドライバーが増えつつある。
④行政は、高齢者及び認知症ドライバーに対する対応として「認知機能検査」「高齢者講習」「自主返納制度」を行い、民間企業はICTを活用したクルマの開発などを始めつつある。

高齢者が増加し、認知症又はその予備軍が700万人と推定される2025年は遠い未来ではありません。高齢者による事故は減っているとは言え認知症者の増加によって状況がどうなるかは未知数です。来るべき認知症者700万人時代に備え、官民が共同し、認知症者による交通事故を未然に防止するよう様々なアイデアを提出していく時代となっているのではないでしょうか。
【作成:杉内寛幸】

2017-07-07