認知症の人にやさしいまちづくりに関する研究


データヘルス計画に関わる近年の動向


1、はじめに
データヘルスとは、特定健康診査(特定健診)や診療報酬明細書(レセプト)などから得られるデータの分析に基づいて実施される、効率のよい保険事業です。2013年6月のの閣議決定により、厚生労働省は2015年度からすべての健康保険組合に対してデータヘルス計画の作成と実施を求めています。

データヘルスが導入される背景には、高齢化や生活習慣病の増加に伴う医療費の高騰が社会問題化していることが挙げられます。特定健診やレセプトの情報を活用することで、保険事業をより費用対策効果の高いものにすることができ、医療データの電子化を加速させ、いわゆる”医療ビッグデータ”を生み出す素地となる可能性が期待されています。

データヘルスには、3つの骨格と7つの特徴があります。
【データヘルスの骨格】
①特定健診結果の把握
②レセプト病名と治療内容の関連付け
③特定健診およびレセプトデータの分析
【データヘルスの特徴】
①レセプト・特定健診データの活用による組合や事業所における全体的な健康・医療状況の把握と、保険事業の効果が高い対象者の抽出
②費用対効果を追求した保険事業の実施
③PDCAサイクルによるレベルアップ
④「松」「竹」「梅」の身の丈に応じた事業範囲
⑤外部専門事業者の活用
⑥加入者個人への情報提供とインセンティブ付与
⑦コラボヘルス(事業主との協働)
(日経デジタルヘルス2014年3月26日http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20140326/342201/?ST=health

厚生労働省は、このデータヘルス計画のモデルを2014年度に作成し、さらにすべての健康保険組合でデータヘルス計画の作成に着手するよう指導しました。この計画は、2015~2017年度を第1期として実施されています。こういった国の動きと連動し、データヘルスの基盤となるデータベースを構築するという動きが民間からも出ています。日立健康保険組合と日立製作所は、2014年3月に特定健診やレセプトの情報を活用し、集団における生活習慣病の発症率と医療費総額を予測するモデルを開発しました。前者組合の約11万人のデータを用いて有効性を検証すると、平均誤差5%という精度で予測することができました。

2、地域包括ケアシステム構築と「見える化」
政府の日本経済再生本部で2016年4月12日に行われた、第5回「未来投資に向けた官民対話」において、2025年の地域包括ケアシステム構築計画に向け、健診結果・レセプトデータ・医療機関の持つ医療技術・介護情報などのナショナルデータベース(NDB)を集約した「ビッグデータ」を活用した、医療の「見える化」を進める方針を決定しました。この方針は、以下の3つの柱があります。
①データ分析・推計により、各都道府県の2025年の医療機能別医療需要と病床の必要量を「見える化」
②NDB分析により、各都道府県の受療率・1人当たり日数・1人当たり点数等の地域差を「見える化」推進
③介護について、年齢調整後の1人当たり介護費・要介護度別認定率の地域差を「見える化」

同年4月19日に行われた「経済財政諮問会議 経済・財政一帯改革推進委員会」の社会保障ワーキンググループにおいては、「医療・介護分野等における徹底的な『見える化』を行い、給付の実態やその地域差等を明らかにしていくことで、保険者や行政はもちろん、サービス利用者であると同時に費用負担者でもある国民や、サービス提供者である医療・介護等関係者が自らの行動を見つめ直す契機とすることが重要である」と同計画が強調され、国が初・再診、検査などの診療行為や医療費の地域差の「見える化」を進め、都道府県にデータを提供することにより、医療専門職に地域の傾向などへの「気付き」を促す考え方が示されました。同ワーキンググループでは、以下の3点を「見える化」の目的に設定しています。
①医療費適正化に関する取り組み状況と「適正化効果」の相関関係を分析し、可能な限り、取り組み効果の算定式を設定する
②各保険者による個々のレセプト分析(高額レセプトの実態分析含む)で医療の実態把握を進める
③1人当たり介護費などの地域差を各市区町村が自ら分析できるよう、地域包括ケア「見える化」システムの開発・活用を進める

これらに先立つ同年4月8日に行われた経済・財政一帯改革推進委員会の社会保障ワーキング・グループの議論においては、「医療+介護」の「見える化」について資料が公開されました。同資料には、1人当たりの入院医療費と介護費(施設・居住系サービス)の都道府県分布データから、「1人当たり入院医療費(75歳以上)」が高い都道府県は、「1人当たりの介護費(施設・居住系サービス)(75歳以上)」も高い傾向があると分析されています。

(内閣府第10回 社会保障ワーキング・グループ資料)


この「見える化」に関して、経団連榊原会長は4月4日の第5回経済財政諮問会議で、「医療サービスの地域差は非常に大きい。見える化を進め、エビデンスを集め、今後、概算要求、予算編成においては、エビデンスに基づいて、より精査な検討を行う制度に変えていく必要がある」とコメントし、また、塩崎厚労相(当時)は、ビッグデータ活用した医療・介護の「見える化」について、「予防程度のデータヘルスであれば10万人でも良いが、医療の中身を分析するとなると、50万人ぐらいは必要だというのが、世界的な常識である」と、ビッグデータの活用には50万人以上のデータ収集が必要であることを強調しました。

3、「見える化」とデータヘルス
上記の「見える化」の深化を進めることによって、データヘルスを強化することができるとしています。データ分析を踏まえた適正化施策の実施や、地域差等の「見える化」を起点とする医療の質の改善など、「見える化」の深化に基づく効果的な施策を検討・実施を進めています。

具体的な取り組みとしては、
①入院・外来医療 地域医療構想の着実な策定と実現、「気づき」を通じた質改善
②医薬品の適正使用 後発医薬品の使用促進、都道府県による重複投薬の是正目標の設定
③保険者機能の強化 データヘルスを通じた保険者機能の連携・共同化の推進
④データヘルスの強化 データに基づく効果的疾病予防、疾病管理、重症化予防、介護との連携
⑤健康づくり・健診等 日常生活の動線上での健康づくり推進、高齢者のフレイル対策
⑥その他 たばこ対策、人生の最終段階における医療の在り方

特に③④のように、データヘルスの強化に関連して「見える化」の深化が取り組まれています。(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/280419/shiryou2.pdf

4、データヘルス改革とICT・AIの活用
これまで見てきたように進められてきたデータヘルス計画ですが、厚生労働省では「データヘルス改革推進本部」が設置され、2017年1月12日に第1回会合が開催されました。同会合では、健康・医療・介護分野のICT利活用がこれまで「さまざまな縦割り構造を背景に、その前提となるデータが分散し、相互につながらない形で取り組みが進められてきた」と指摘。ICT利活用が「供給者目線から患者、国民、利用者目線になるようICTインフラを作り変え、健康・医療・介護施策のパラダイムシフトを実現しなければならない」としました。

2017年4月14日には、塩崎厚生労働大臣によって、「データヘルス改革」が発表されました。これは国民が世界最高水準の保健医療サービスを効率的に受けられる環境の整備を目的にしており、ICTを活用した「個々人に最適な健康管理・診療・ケア」の提供を目的、健康・医療・介護のビッグデータを連結した「保健医療データプラットフォーム」を2020年度に本格稼働させるとしています。

また、データヘルスの今後の方向性として、
①最先端技術の活用…がんゲノム医療の実現、保健医療分野のAIの開発加速化、遠隔診療・介護ロボット
②ビッグデータの活用…ビッグデータを活用した保険者機能の強化、科学的介護の実現
③ICTインフラの整備…保健医療分野のデータ利活用基盤の構築
を目標にすることを決定いました。
さらに上記の計画の実現に向け、ロードマップも発表されました。


(厚生労働省「第1回 データヘルス改革推進本部 資料」)


この方向性に関しては、2017年8月3日に新しく厚生労働大臣となった加藤勝信氏は、「(データヘルス改革に力を注いできた)塩崎恭久前厚労相と思う所は一緒だ。これまでの取り組みを、さらに加速させていきたい。」(日刊工業新聞2017年8月8日)と述べています。

また、2018年度の厚生労働省の予算概算要求では、要求額が31兆④298億円と過去最大の予算規模となる中、「データヘルス改革に向けた情報分析環境整備」の要求額が92億円となることが明らかとなりました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170825-16000000-cbn-soci

参考HP
・日経デジタルヘルス2014年3月26日
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20140326/342201/?ST=health
・内閣府第10回 社会保障ワーキング・グループ資料
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/280408/agenda.html
・社会保障ワーキング・グループにおける「見える化」の更なる深化等に関する議論のまとめ(概要)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/280419/agenda.html
・第1回 データヘルス改革推進本部 資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000148424.html
・日刊工業新聞2017年8月8日
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00438639
・厚労省、来年度予算31兆4298億円要望へ – 認知症やAI関連なども
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170825-16000000-cbn-soci

2017-08-28