2019.06.14

企業調査のサンプリングバイアスの推定の試み―回答するのは成功した企業ばかりなのか?

企業調査の場合、調査テーマに関し失敗した企業は回答をしぶり、成功した企業は積極的に回答するというバイアスが考えられる。このバイアスがどれくらいかをデータ活用を事例にして推定を試みた。手法は、同じ問いを従業員に対して行い、すでにある企業調査の結果と比較する方法である。従業員は匿名でたずねられれば勤務先の企業がデータ活用に失敗していても気にせず回答するだろう。だとすれば二つの調査の結果のずれはサンプリングバイアスから生じたと解釈できる。この方法で比較したところ、データ活用が成功したという答えの率は、企業調査の方が従業員調査より7.1%ポイント程度高かった。これがサンプリングバイアスによって生じたとすると、成功企業はそうでない企業よりも3割程度多めに回答したことになる。補正ウェイトに換算すると、回帰分析などをするときは成功企業に1/1.3すなわち0.77程度を乗じることになる。ただ、この程度のウェイトで結果が大きく変わる例は限られると思われ、そうだとすれば本稿の推定結果は、今回の事例については成功バイアスはあるにはあるが、それほど深刻なものではないことを示唆している。事例がひとつだけなので、本稿の結果が直ちに一般化できるわけではなく、一般的な結論を得るためには今後の研究の蓄積が必要である。ただ、今回の事例は官庁によるビジネス分野の調査だったという点で比較的サンプリングバイアスが小さいケースと考えられる。それでも一定のサンプリングバイアスがあったということは、企業の評判に関わるようなセンシティブな調査ではバイアスは大きくなる可能性があり、留意が必要であろう。

著者 田中辰雄、山口真一
掲載先 情報通信政策研究
リンク https://www.jstage.jst.go.jp/article/jicp/3/1/3_107/_article/-char/ja
出版社・発行元 総務省情報通信政策研究所
ページ数 22ページ
執筆年月日 2019/06/14
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