2023.12.11

DISCUSSION PAPER_No.23(23-002)「日本はなぜAIに好意的なのか」

日本はなぜAIに好意的なのか

田中辰雄(横浜商科大学 教授/国際大学GLOCOM 主幹研究員)

 

要旨

日本が欧米に比べてAIに対して好意的な傾向がある。その理由をサーベイによって検討した。検討したのは雇用安定説、アニミズム説、アトム・ドラえもん説の3つである。雇用安定説は、長期安定雇用の日本企業では、人々はAIによって当面の仕事がなくなっても配置転換されるだけで解雇されないためAIを警戒せず受け入れるという説である。サーベイによれば、雇用が安定している大企業並びに日本企業に勤務する人ほどAIに好意的であり、この仮説に適合的な結果が得られた。アトム・ドラえもん説は、国民的キャラクターであった鉄腕アトムとドラえもんに触れていたことで、日本人はAIに友好的な気持ちを育んでいたという説である。サーベイしてみると、アトムとドラえもんに愛着を持つ人ほどAIに好意的であることがわかり、この説も支持された。ただし、AIに好意的なゆえにアトム・ドラえもんに愛着を感じるという逆因果の可能性もあるので注意が必要である。アニミズム説は、日本は山・岩・大木などの自然物あるいは人工物に魂を見出すアニミズムの思想があり、これがAIのような人間ならざるものが人間のようにふるまう事への違和感を弱め、好意的な気持ちを育んでいるという説である。この説はそのままでは検証されなかった。しかし、アニミズムには自然物に宿った魂に親しむ面ばかりではなく、大木を切ると祟りがあるなど宿った魂を恐れる面もある。この2つの面を分離してやると、前者はAIに好意的な評価を、後者は警戒的な評価を生み出していた。アニミズムはAIと無関係ではなく、好意的な面と警戒的な面を共に強める点で両義的である。

キーワード

AI、生成系AI、テクノアニミズム、長期安定雇用

 

2023年12月発行

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