HOME > プロジェクト > FTMフォーラム > 提言 持続可能なスマート社会づくりを急げ
情報通信技術は個人、家庭、企業、社会、国家の在り方を大きく変容させて、なお変革を進展させているが、さらに技術による次の変革が待ち受けている。そのイノベーションの 領域は言うまでもなく、エネルギー、とりわけ電力を中心にした領域である。既存のエネルギー体系を大きく作り直す過程で、多くのビジネス機会が生まれ、雇用を生み、経済の活性化をもたらすものと我々は確信している。
一方、「スマート社会とは持続可能性と豊かさが両立した社会である」と我々は考えている。「持続可能性と豊かさの両立」とは、永続的に人類の幸福を追求するために、多様な生態系ネットワークからなる現在の地球環境を維持し、人間が人間らしい暮らしを送りつつ社会を発展させていくことを意味している。そのためには、資源・エネルギー、科学技術、経済・産業、安全保障など、様々な側面において世代間を超えた長期的視点からの持続可能性を保つことが求められる。
我々は、このような長期的課題に対して、単純に過去の時代へと時計の針を巻き戻すのではなく、持続可能な技を過去から学びつつ、最新のあらゆる知とノウハウを結集して、問題の解決にあたるのが望ましいと考える。人間とテクノロジーをベースにしたイノベーションはそのための有力な手段となるだろう。
スマート社会を実現するためには、エネルギーと情報通信技術の融合によって、エネルギーの効率的利用を推進していくことがきわめて重要である。
我々がとくにエネルギー供給の持続可能性を重視する理由は、日本にとって喫緊の課題であるばかりでなく、集中的・閉鎖的・硬直的な体系という日本の構造的矛盾が凝縮されているので、この問題に対し解決策を見出すことが、スマート社会を目指して日本を大きく変革していく突破口となると考えるためである。
2011年3月11日の東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故によって、原子力発電の安全性と日本の電力の安定供給体制はともに崩壊した。電力の需給バランスが揺らいだのを機に、電気製品や情報機器の省エネルギー化を一段と進めるべきという議論が起こっている。世界に冠たる「省エネ大国」として、日本の技術が世界に貢献するのが望ましい方向である。
さらに、日本のエネルギー政策が歴史的に大きな転換点を迎えたことを踏まえ、再生可能エネルギーの潜在的可能性を引き出す方向へと舵を切り、電力インフラとその産業構造を 変革すべきである。
そのさい、通信産業の過去の経験から学べる点があるだろう。電力や通信は官民の密接な連携と独占的な経営形態で産業が発展してきた歴史をもつ。その後、通信産業では自由化によって競争が導入され、デジタル化が進み、そしてオープンで自律分散型の新しいネットワークインフラとしてインターネットが普及した。このような変化に伴って、イノベーションが促進され、新しいビジネスと仕事が創出されて、今日に至っている。
電力の世界においても通信と同様に、長期にわたる大規模投資を要する集中的・垂直統合型インフラという前提は崩壊しつつある。今後は、多様な技術革新と新規ビジネスの活力と消費者の選択によって、エネルギー産業を変革していくことが求められる。
目指すべき方向へと進むためには、まずは発送電分離による電力自由化への道を選択する必要がある。また、エネルギーの効率的利用を推進するためにスマートグリッドを構築するなど、電力制御のデジタル化を進めて、電力分野に根本的な技術革新の成果を投入すべきである。
通信分野では、固定電話網とは別に新しいインフラとして構築されたインターネットが イノベーション創出のプラットフォームになった。電力分野でも同様に、ユーザー参加型、自律分散型、イノベーション創出型の全く新しいプラットフォームとして、直流の電力ネットワークの構築を促すべきである。直流体系は、東日本と西日本で周波数が異なる「50Hz/60Hz問題」の解決手段の一つであり、交流体系に比べて電力変換ロスが少なく効率がよいという特徴を有するため、中長期的には、宅内・ビル・データセンター更には地域での利用が拡大されていくと考えられる。
また、省エネ、再生可能エネルギーによる発電、消費者生成型の小型発電、蓄電、デマンドレスポンスをはじめとする電力調整や節電の新しいアイデアをベースにした新規ビジネスを創出するだけでなく、電気自動車、スマートハウス、直流体系に適合する各種 電気製品といった関連産業の成長も同時に促すべきだろう。
2012年4月24日
●本提言に関するお問い合わせ
国際大学GLOCOM FTMフォーラム担当
砂田 薫 sunada[at]glocom.ac.jp ,小島 安紀子 akiko[at]glocom.ac.jp / 03-5411-6675
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