HOME > プロジェクト > FTMフォーラム > 提言 持続可能なスマート社会づくりを急げ―新しいエネルギー・エコシステムをめざして―

フューチャー・テクノロジー・マネジメント(FTM)フォーラム:未来の技術と社会のための研究と実践<産学共同プログラム>

FTMフォーラム 提言
持続可能なスマート社会づくりを急げ
― 新しいエネルギー・エコシステムをめざして ―

 科学技術の発展による社会の近代化は、人々の暮らしに様々な豊かさをもたらした。しかし、その近代化ゆえに人類は持続可能性の課題に直面することとなった。より具体的には、資源枯渇、環境汚染、気候変動、水・食料といった環境に関する課題、経済格差、財政破綻、教育・就労格差といった社会経済的課題など、あるいはコントロールする智恵の伴わない技術の進歩も、人類の持続可能性を脅かすものである。
 我々はこのような持続可能性の課題を知と技と行動によって解決する社会を目指す。そして、このような社会こそがスマート社会であると考え、2011年にフューチャー・テクノロジー・マネジメントフォーラム(FTMフォーラム)を設立し、その具体化や実現へ向けて産官学による対話を進めてきた。
 今日、日本における持続可能な社会を考える時に避けて通ることができないのがエネルギーの問題であり、より具体的には、電力システムの問題である。2012年4月、我々は、電力システム改革について、再生可能エネルギーの活用による持続可能性の実現を前提とした上で、①発送電の分離による産業構造改革、②スマートグリッドの構築および電力制御のデジタル化など最新技術の投入、③ユーザー参加を可能にする自律分散型電力プラットフォームの構築の3点を提言した。
 その後、2012年末の自由民主党・公明党連立による現政権が誕生し、2013年4月2日には閣議決定により発送電分離の方向が定まった。一方、福島第一原子力発電所の事故により前政権が見直した原子力政策は再度見直しが行われた。また、シェールガスの商業生産が始まると同時に、メタンハイドレートの実用可能性が示され、それまで全世界的に推進されてきた再生可能エネルギー資源から化石燃料に回帰する流れも現れた。
過去1年のFTMフォーラムの活動を通じて、今我々が目指すべきなのは、電力システムを含むエネルギーの需給に関わる体制全体を見据えた、新しいエネルギー・エコシステムの実現であることに合意した。それは、再生可能資源の活用、効率化されたエネルギー利用、地産地消を可能にする分散・小規模発電の活性化、エネルギー利用形態の最適化、需要家・利用者の参加、市場競争を通じた選択、変化と成長によって特徴付けられるトータルなシステムであり、このようなエネルギー・エコシステムは情報通信技術を活用した高度なマネジメントによって実現が可能であるという結論に至った。
 新しいエネルギー・エコシステムを早期に実現するためには、そのための技術の選択を、消費者・需要家を含めたエコシステムの参加者の取捨選択に委ねることを前提とすべきである。そこでは、事業者の上下分離や水平分離といった分社化が前提とされる。しかし、重要なのはそれに加えて、ネットワーク外部性が働き、創意工夫によるイノベーションの成果が投入される環境を創りだすことである。

 このようなエネルギー・エコシステムを実現するため、私たちは、エネルギー・エコシステムをめぐる発想の転換、法制度的な環境の整備、エコシステムを実現する技術への研究開発資金・事業資金の投入、技術革新や事業化を支えられる人材の育成の4つの視点から以下を提言する。

1. 新しいエネルギー・エコシステム

 20世紀は、経済成長と競争を通じた進歩の時代であった。その中で、化石燃料と原子力による電力供給は社会システムの基盤として位置づけられてきた。しかし、21世紀に入った今日、我々に求められているのはバランスと調和である。その中で、我々はエネルギー・エコシステムという視点で、エネルギーの供給や消費・蓄積、それにともなう市場やステークホルダー、さらにはそれら全体を包含する社会像を考える必要に迫られている。
 これまで、電気はもっとも汎用性の高いエネルギーであると見なされてきたが、今後は電気だけでなく水素エネルギーやバイオマスを含めた総合的なエネルギー供給を考えるべき時代である。エネルギー消費の多くが熱需要であることを考慮すれば、熱供給を電力供給と同様にエコシステムの中核に据えることも必要となるだろう。
 さらに、たとえ技術的には先進性が高くなくても、パッシブソーラーハウスや分散小型発電のように、エネルギーの有効活用を実現する技術にも注目すべきである。地球資源の大量消費により躍進的な進歩を実現した技術の時代は終わったと考え、これからは人類社会の持続可能性を高める技術を通じたエコシステムの実現を目指すべきだろう。

2. 制度・市場的環境整備

 持続可能な社会の構築に向けて国民的合意を形成し、数十年にわたり継続できる長期的かつ超党派的なエネルギー政策の方向性を示す基本方針を打ち出すべきである。その下で、再生可能エネルギーの比率や価格、エネルギー自給率に関する数値目標を設定することも検討に値するだろう。
 市場の取捨選択に委ねたエネルギー・エコシステムへの再編には、電力を含むエネルギー供給事業者間の公平な競争環境を政策的に整備することが必須である。その中で、新規事業者の参入促進と競争の推進、そしてグリッド連携設備の認証の簡素化・自由化等を進めるべきである。また、競争に参加するプレーヤーを育てるためには、土地、水利といった地域資源の積極的な活用に関する新たな合意形成や法規制の仕組み、社会制度の見直しを進めるべきである。
 電気通信自由化の経験からは、既存電力事業者のネットワーク資産の開放義務をもとにした競争は暫定的なものだと考えるべきである。長期的には、電力インフラ間競争を実現することを目標とした環境整備が必要である。
 需要家や消費者の選択を通じた技術革新を実現するためには、これまでの電力ビジネスでは考えられてこなかった、情報通信技術の活用等による新しいサービスや製品の登場を促さなければならない。そのためには、電力事業を始めとしたエネルギー分野における各種情報のオープンデータ化の推進が有効である。つまり、電力使用状況を始めとした、電力供給システムにかかわる各種データを原則としてリアルタイムに公開し、それを活用する仕組みやルール作りを進めることが肝要である。

3. 研究開発投資の充実

 新しいエネルギー・エコシステムの実現には研究開発への投資が必要である。基礎・応用研究段階の技術への研究助成に加えて、研究開発の成果を事業化に結びつけるフェーズでの取り組みが求められる。
 例えば、アメリカでは、2009年にARPA-E(Advanced Research Project Agency - Energy)が設立され、エネルギー分野の「ゲーム・チェンジ」を実現する技術に対して事業化を目指した助成が行われている。その結果、蓄電技術や再生可能エネルギーなどの分野で多くのベンチャー企業の成長が促進されつつある。日本でも同様の取り組みを検討すべきである。
 さらに、これらの事業化の推進にあたっては、株式会社産業革新機構や独立行政法人科学技術振興機構の研究開発投資の一定の割合を再生可能エネルギー技術や、その周辺技術、とりわけ蓄電技術の研究開発へ向けるといった目標設定も検討に値すると考える。
 また、技術の選択にあたっては、市民自身も投資行動や消費行動を通じて自らが理想とするエネルギー技術についての選好を表明することが望まれる。

4. 人材の育成と維持

 エネルギー・エコシステムを担う技術は電気、電子、化学、原子力、情報、通信といった多様な分野である。今後は、これまで以上に、これら技術分野間の横断・融合が必要になると予想され、「総合エネルギー工学」の必要性が高まっている。さらに、技術分野相互の連携だけでなく、技術が社会に及ぼす影響、あるいは技術の倫理性について考えをめぐらし、評価することが求められている。そのためには、人文学・社会科学を含んだ様々な分野との連携や交流を進めるべきである。
 エネルギー・エコシステムにおける新しいビジネスを成長させるためには、技術開発の推進やそのための技術者の育成だけでなく、社会システムを考える視点を持ち、エネルギー技術と情報通信技術を幅広くカバーして適正な技術評価ができ、研究開発や事業開発への投資を判断できる人材の育成と維持が必須である。

2013年4月16日

村上 憲郎
FTMフォーラム議長,国際大学GLOCOM主幹研究員/教授
宇治 則孝
日本電信電話株式会社顧問
国際大学GLOCOMエグゼクティブ・アドバイザー
河口 真理子
株式会社大和総研調査本部主席研究員
高橋 秀明
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
田中 芳夫
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授
所 眞理雄
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所会長・ファウンダー
中島 洋
国際大学GLOCOM主幹研究員/教授
永島 晃
東京農工大学客員教授
日高 信彦
ガートナー ジャパン株式会社代表取締役社長
前川 徹
サイバー大学 IT総合学部教授
宮部 義幸
パナソニック株式会社常務取締役
AVCネットワークス社社長

●本提言に関するお問い合わせ

国際大学GLOCOM FTMフォーラム担当
砂田 薫 sunada[at]glocom.ac.jp ,小島 安紀子 akiko[at]glocom.ac.jp / 03-5411-6675