全国自治体ICTサミット2020 ~災害時コミュニケーションとICT利活用~

イベントレポート

 


パネルディスカッションに先⽴ち、登壇首長から、災害時の情報収集および発信に関する問題意識や取り組みについてプレゼンテーションがあった。

石井市長(西宮市)

「市」としての情報発信と「市⻑」としての情報発信の違い、バランスのとり⽅を日々考えている。市⻑としては市⺠の不安を和らげるための情報発信が求められている。市としての情報収集は市⺠からの連絡と、技術職員が現場を回り収集する情報がメインとなる。2018年の西日本豪雨の際は市内で⼤規模停電があり、市民から問い合わせが殺到した。市民は、まず市役所に問い合わせる。市⺠からの情報の重要度を咀嚼し、優先順位をつける能⼒が必要だと感じている。市としての情報は個別メール、LINEの通知機能を使いながら、なるべくプッシュ式で発信しているが、市⺠の状況に応じた個別化発信ができていないという課題がある。「この裏山が⼟砂崩れを起こしそうだ」という情報が当該地域の市民に伝えられるようになると良い。

大西市長(熊本市)

2016年の熊本地震の際、まず知りたかったのは被害の全容。情報収集と全容の把握が極めて困難だった。トップとしては第⼀に救命の体制構築をする必要がある。ライフラインの状況がどうなっているかによって発災後の対応が大きく変わってくる。経験を踏まえ、現在は防災訓練でドローンを飛ばして情報を収集したり、職員が参集する際に写真を撮って災対本部に報告している。クラウドを使って避難所と災対本部間で物資などに関する情報を共有できるようにしている。市長の情報発信は、市民に安⼼を与えるために重要だと考えている。⽇常的に情報を発信することで、いざという時に災害関連の情報を効果的に伝達できる。平時から、職員間の情報共有はLINEやTeamsを使⽤している。普段からツールをいかに使いこなすかが有事の対応に大きく影響する。

神達市長(常総市)

2015年の関東・東北豪雨の際、市役所が水没し、災対本部に情報が入らず結果として市民に適切な情報を発信できなかった。突発的な地震ではなく水害であるので、前日の夜にはある程度被害を予測できた面もある。この反省を踏まえ、現在タイムラインの整備に力を入れている。情報発信手段はITを活用しながら多角化を進めている。防災行政無線の戸別受信機を設置したり、「常総市防災アプリ」を開発している。緊急時用のアプリであるので、LINEと協定を結び平時の情報発信との接続を図っている。一番の課題と考えているのは、情報のトリアージ。災対本部で議論するべき情報を、どのようにして庁内で吸い上げるのか考える必要がある。市と市長としての情報発信は明確に分けている。昨年の台風時には防災無線で市長が「逃げろ」と呼びかけると避難者が急増した。

松尾市長(鎌倉市)

昨年の台風15号の際、市民から1,153件の問い合わせがあった。職員20名でさばいても対応が追い付かない。情報整理班として職員6名をアサインし、問い合わせのあった情報をPCに打ち込んで重複を確認、内容を整理して災対本部に提供する体制を組んだ。大変な人海戦術だが、そうせざるを得ない状況であった。台風19号時にはAIチャットボットを導入して市民との問い合わせに対応した。職員間の情報共有ではLINE Worksが有効だった。幹部職員全員でリアルタイムに情報を共有していった。スマホを持たない市民に対してAIスピーカーの導入支援をしている。加えて、日ごろ地域のつながりを強化するための「みまもりあいプロジェクト」を始めた。課題として、市民がハザードマップ等に基づき、住宅や最寄り避難所の危険性をいかに事前に認識できるのかが重要だと考えている。

 

パネルディスカッションでは、まず首長としての情報発信を行政の情報発信とどう切り分けているか、首長が情報発信する上で必要な情報とは何かについて議論した。石井市長は「市役所はマニュアルに沿った情報発信であり、市長は市民の不安にどう寄り添うかが大切。想定外が起きたときにどうするのかが市長の役割」、大西市長は「市民に現状を正確にお伝えし、冷静に行動していただくことが市長としての情報発信の目的。安心感、信頼感、正確性が重要。行政の発信と異なり、市長の発信にはメッセージ性がある。非常事態が起こったことをいかに冷静にトップが発信できるかどうかにつきる。リスク情報は、パニックにならない程度に、広めに評価する癖をつけるべきではないか」、神達市長は、「今は大分改善されたが、以前は、行政は確かな情報でないと出せないという恐怖感があり、リアルタイムに情報が出てこなかった。市民が知りたいのは河川の決壊現場ではなく、その水がどこまで来ているのか。市長として、現場のリアルタイム情報を伝えることを心がけている。収集した情報の分類と優先順位があると、災対本部でも冷静に対応できるのではないか」、松尾市長は「災対本部長には様々な情報が入ってくる。これらの情報を会議にかけて発信する手順を踏む前に、リアルタイム性を重視して市長として今発信しよう、というスタンスで発信している」との発言があった。

続いて、住民の個別ニーズに即した情報発信の可能性について議論が展開した。松尾市長は、「本人の同意が必要となるが、位置情報に基づきその人に必要な情報の発信はできそうという感触がある。AIスピーカーは普段使いできることがメリットであり、市民の生活の身近なところにテクノロジーが入って、個人の嗜好をキャッチしながらその人に合わせた情報提供ができていくのではないかと思う」、石井市長は「山ごとにセンサーをつけて、土砂崩れの危険が迫っている地域に、個別に情報を提供することは可能性としてあり得る。一方、市民からの問い合わせで多いのが“うちは大丈夫か?”というもの。事前にハザードマップを確認していれば問い合わせる必要がなかったケースもあるので、事前準備として意識をどこまで高めていけるかも重要」、大西市長は「現在は、公助の部分にかなりテクノロジーが入ってきている。自助・共助を強くするためのテクノロジーが必要だと考えている。行政に問い合わせる前に、どこに逃げる必要があるか、避難所開設状況などの情報が市民に提供されれば、自助を強化することにつながる」、神達市長は「自分の避難行動計画をマイタイムラインに入力し、気象情報と連動させることで避難準備を促す、ひいては自助を促していきたい。公助ではなく、自助・共助がいかに命を救うのかを全国で認識する必要がある」と述べた。

最後に、ハザードマップの広域化、多言語対応などについて議論があり、サミットが終了した。

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