『令和4年版情報通信白書』読書会【公開コロキウム】

講師:小熊美紀(総務省 情報流通行政局 情報通信課 情報通信経済室長)
コメンテータ:庄司昌彦(GLOCOM主幹研究員/武蔵大学社会学部教授/『情報通信白書』アドバイザリーボード)
日時:2022年9月26日(月)16:00~17:30

概要

1973年に刊行され、令和4年版で50回目の刊行を迎えた『令和4年版情報通信白書』。今年度版から大幅な見直しを行い、スリム化され、分かりやすく、データが充実した内容となったため、小熊氏から大きく変わったポイントや注目すべきトピックについての解説があった。続く質疑応答では高齢世代で大きく減少するICT利活用の実態やDX、ICT産業の課題、海外との比較状況等についての質問が多数寄せられた。

講演1「令和4年版情報通信白書 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」(小熊美紀氏)

はじめに 「令和4年版情報通信白書」内容見直しのポイント

昭和48年から情報通信白書を刊行しており、50回目の刊行となる今回、大幅に見直しを実施した。見直しのポイントは大きく3点である。1つ目は白書本体を大幅に簡素化したことだ。従来の半分となる250ページ程度まで圧縮して、重要なポイントに絞った分かりやすい内容としている。2点目は白書の主軸を特集テーマから情報通信市場の現状分析などに移し、政策の背景や課題に踏み込んだ記載を充実させたこと、3点目はデータを充実させていることだ。令和4年白書では国内外におけるICT端末関連の動向やICT利活用に関する諸外国との比較などを含め、100項目のデータを追加した。また白書本体にQRコードをつけ、詳細なデータについてはウェブ上のデータ集で閲覧できるようになっている。

第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~

第1部第1章「過去50年での変化を時系列で振り返る」では情報通信白書の刊行から50年間を5期に分けて、それぞれの時代の制度やサービス、端末などの変化を整理した。第1期、1973年~1985年頃に掛けて先進国を中心にICTが普及する土壌が育まれた。米国や英国では通信の自由化が進展し、我が国でも固定電話やテレビ放送の普及が進むと共に電電公社が民営化されるなど、今日の情報社会の基礎となる変化が見られた時期である。1985年~1995年頃にかけては冷戦の終焉に伴い、米国ではインターネットが民間開放され、インターネットを中心とする情報化社会の基礎が培われた。我が国でも長距離通話サービスや放送サービスの高度化を中心として大量の通信放送サービスの提供に向けた動きが見られた。1995年~2005年はインターネット、携帯電話が急速に普及した時期で、1995年のWindows95の販売を契機に、日本でもインターネットが急速に普及した。2000年には移動電話の契約者数が固定電話サービスの契約者数を上回っている。一方で、この頃、いわゆるICTの負の側面が認識され始め、2001年にはプロバイダー責任制限法、2003年には個人情報保護法など制度的な対応も行われている。第4期、2005年~2015年頃はネットワークインフラの高度化、大容量化が進展している。2007年に米国でiPhoneが発売されて以降、我が国でもスマートフォンが急速に普及し、モバイル端末の利用シーンが大幅に拡大した。放送についても2012年にデジタル放送に完全に移行している。第5期、2015年~現在は、コロナの感染に伴いテレワークやオンライン授業など非接触非対面の生活様式を可能とするICTの利活用が一層進展し、ICTはあらゆる経済活動を支えるインフラとして社会生活に定着している。また、グローバルプラットフォーマーの市場支配力が一層高まりを見せており、データの寡占やその取扱いに関する課題も顕在化してきている。

第2章では、今後の日本社会で予想される変化を展望しながらICTに期待される役割や、顕在化しつつある課題への取組状況について整理している。近年、国際情勢が複雑化する中で基幹的なインフラやサプライチェーンの脆弱性などのリスクが認識されている。これを受け、本年5月、経済安全保障推進法が成立している。そして、先端技術の研究開発の加速化を図るために新たな技術開発戦略を策定している。また、グローバルプラットフォーマーへのデータの集中やデータの取扱いへの懸念も増大している。本年5月には電気通信事業者に、取得する利用者情報の取扱規程の策定、届出等を義務付ける改正電気通信事業法が成立している。さらにSNSなどの普及により違法有害情報や偽・誤情報の拡散も深刻化している。そのため、プロバイダー責任制限法の改正や侮辱罪の法定刑の引上げなどの制度的な対応や、多様なステークホルダによる様々な取組みが行われているところである。

第2部 情報通信分野の現状と課題

第2部の「ICT市場の動向」では世界と日本のICT市場の動向をコンテンツアプリケーション、クラウドデータセンター、ネットワーク、端末機器のレイヤー別に解説している。2020年の情報通信産業の名目GDPは51兆円であり、前年比2.5%の減少となっている。また2020年の我が国の民間企業による情報化投資は15.2兆円、内訳ではソフトウエアが8.9兆円で全体の6割近くを占めている。2020年度の我が国の企業の研究費13.8兆円のうち情報通信産業の研究費は3.5兆円で、近年、減少または横ばいの傾向が続いている。電気通信事業分野では、2020年度末の光ファイバの整備率は99.3%である。我が国の固定系ブロードバンドに占める光ファイバの割合はOECD加盟国中第2位であり、デジタルインフラの整備は国際的に見ても非常に進んでいるといえる。また、我が国の固定系ブロードバンドのダウンロードトラフィックの推移を見ると、コロナの感染拡大に伴いトラフィックのベースが拡大に早くなっている。一方、電気通信サービスの普及高度化に伴い、それらに伴う苦情相談件数は増加傾向にある。違法有害情報に関して相談センターで2021年度に受け付けた相談件数は2010年度の約5倍となっている。放送分野では、放送事業者の売上高は減少しており、2020年度は3.6兆円、地上系民間基幹放送事業者の売上高総計は約2兆円で前年度比11.7%減となっている。一方で日本のデジタル広告市場は大幅に成長していて、2021年にはインターネット広告がマスコミ4媒体広告を初めて上回っている。

本白書から国内外におけるICT機器・端末関連のデータを充実させている。世界の情報端末の出荷額は2016年以降増加傾向にあり、2021年には79兆6,625億円となっている。ICT機器の輸出額は中国が急激に増加している一方、日本は減少トレンドとなっている。ICT機器の輸入額は中国、米国の増加が顕著であるものの、日本の増加幅は小さく米国、中国との差が開いている状況だ。各ICT機器端末の事業者シェアを見ても、世界市場で日本企業が大変苦戦しており、日本市場では海外企業がシェアを占めている。世界のICT市場における時価総額ランキングの上位をグローバルプラットフォーマーが独占しており、2021年7月にはGAFAの時価総額の合計が日本株全体の時価総額を上回っている。2020年の売上高を比較すると、最も大きいのはアマゾンで、2013年比で5.2倍、中国アリババも13.3倍と高い成長となっている。一方、日本企業は規模も小さく、LINEは2013年比で5.1倍、ヤフーで1.7倍と、残念ながら成長面でも見劣りするという状況だ。世界のデータセンターシステム市場規模については2020年に一時的に減少したものの、2021年には増加に転じ、約24兆円となっている。また、2020年の世界のパブリッククラウドサービス市場は35兆円で今後も高い成長が予測されている。2020年上半期は上位5社、マイクロソフト、アマゾン、IBM、セールスフォース、グーグルが全体の48.1%を占めており寡占化が進行している状況だ。2021年の日本のパブリッククラウドサービスの市場規模は前年比28.5%増の1兆5,879億円となっており、こちらも今後の成長が続くことが予測されている。

白書では国民生活、企業、および公的分野でのデジタル利活用に関するデータを整理した。まず国民生活を見ると、個人のスマートフォンの保有状況は増加傾向にある一方で、スマートフォンを除く携帯電話の状況は減少傾向にある。また、インターネットの利用率は13歳~59歳までの各階層では9割を超えているが、60歳以降の年齢が上がるにつれ利用率は低下する傾向にある。インターネットについて、利用者の7割が、特に40歳以上の年齢層で不安を感じる割合が高いという結果が出ている。不安の具体的な内容としては、個人情報やインターネット履歴の漏洩が最も高く、次いでコンピュータウイルスへの感染、インターネットなどを利用した詐欺となっている。

日本、米国、ドイツ、中国の企業におけるDXの取組み状況を比較した結果も紹介している。DXによる効果を新規ビジネス創出と生産性向上の観点に分けると、各観点に共通して日本では期待以上との回答が他の3カ国と比べて少ない。さらに、DXの課題障壁として、日本企業はCIOやCDOなどを含めたデジタル人材が不足しているという回答が50%を超え、他の3カ国と比べて非常に多い。人材不足の理由について、日本では人材の採用・育成体制の未整備を挙げる企業が多いが、米国や中国では社内で不足する人間は外部から積極的に登用しようとする姿勢が見られる。各国のテレワークの実施状況を比較すると、テレワークの利用経験者は米国やドイツでは60%弱、中国では70%を超える一方、日本では30%程度となっている。また、日本でのテレワークの利用率は20歳代が35%程度で最も高く、世帯収入が高い層の人ほど利用したことがあると回答する割合が多い結果が出ている。

公的分野におけるデジタル利活用の状況を見ると、電子行政サービスの利用経験者の割合は諸外国では60%以上であるのに対して日本では23.8%に留まる。その理由として、日本ではセキュリティへの不安が最も多い。20歳代から50歳代では30%以上が利用したいと答える一方で、60歳代では必要としていないと回答する割合が多くなる。わが国において公的サービスのデジタル化進展への期待として、時間や場所の制約がなくなることや障害のある方でも行政サービスが受けられるという回答の割合は多い。不安についてはデジタルを利用できる人とできない人の格差が生まれるという回答が最も多く挙げられていた。

最後に第4章では総務省のICT政策の最新動向を紹介している。部局横断的な取組みとして、「デジタル田園都市国家構想」推進のため、昨年11月に総務大臣を本部長とする推進本部を設置し、デジタル基盤の整備促進を行っている。その他、ソサイエティ5.0の実現や経済安保の確保、そして2030年を見据えた情報通信政策の在り方を公表したことなどを紹介している。また、個別の政策領域における現状の取組みや今後の課題なども整理している。


写真1 小熊美紀氏

講演2「令和4年版情報通信白書から考える」(庄司昌彦氏)

今、政府では「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を進めようとしている。今までのデジタル技術はどちらかというと先端的な部分に注目が当たっていたが、皆にとって必要なデジタルを見定めて、皆が恩恵を享受できるようにしようということを意味している。このような観点から、関心を持ったデータを中心に見どころをコメントしたい。まず、コロナ禍でトラフィックが増えたということだが、見どころは2020年からの増え方だ。コロナに入ってから動画視聴やウェブ会議などがかなり定着し、今後もこれが減少することはなく、ある程度の勢いで伸びていくと思う。次に、スマートフォンの世帯保有率が9割弱となっている。一家に一台はスマホがあることになるが、高齢者がどのような使い方をしているのかということが気になってくる。今後、使い方についてのデータがあると良いのではないだろうか。

次に、白書のウェブサイトにしかないデータから主なメディアの平均利用時間と行為者率(1日の中でその行動を15分以上した人の割合)を紹介したい。10代のテレビ視聴時間は年々減っており57.3分、20代は71.2分となっている。ネット利用では10代が191.5分、20代は275分と非常に長い。一方、60代のネット利用時間は少しずつ伸びており、60代で107分である。行為者率を見ると、テレビをリアルタイム視聴する割合は全年代で高いものの、10代は56.7%、20代は51.9%、ネット利用は10代も20代も非常に高くて91%、96%になっている。新聞購読率は非常に少なく、10代が1.1%、20代で2.6%だ。一方、60代はテレビが92%、ネット利用は72%、新聞は55%だ。端末別で見ると、ネット利用行為者率のモバイルの60代が年々大きく伸びている。産業の見どころという点では、ネット広告がマスコミ4媒体広告を初めて上回っている。また、サイバー攻撃が3年前の2.4倍、5年前の3.7倍に増加しているという、変化量が多いことも今年の特徴として覚えておく必要があろう。

テレワークの活用に対する意識を聞くと、日本は米、独、中に比べて一番低い。気になるのが、いろいろな国際比較データで日本人は非常に消極的だという傾向が出がちなことだ。ある調査会社の解説記事で、10点満点をつけるときに「普通」を何点とイメージするかを聞いた国際調査が紹介されている。日本人は5点だが、インド人は10点をイメージすると答えている。インドが特殊というわけではなく、インドネシアは7点、フィリピン、タイは8点、イギリス、アメリカでは7点をイメージする人が多いようだ。もしかすると、日本人の普通の感覚として、他の国よりも厳しめに評価してしまうところもあるのではないか。国際比較はこうした点も注意した方が良いだろう。


写真2 庄司昌彦氏

質疑応答

――インターネットの利用率を年齢別階層で見ると、70代以上で急激に下がる。これは「業務で使ったか、使わずに逃げおおせたか」による世代間の差に見える。団塊の世代とそれ以上が問題なのではないか。

小熊:内閣府のデータでは、年齢が上がるにつれて、使い方が分からない方とか、そもそも使う必要がないと思っている人がたくさんいる。そのあたりのマインドセットをどうしていくのかということが、高齢者のICT利活用を進めていくうえでの課題だと思う。
庄司:今後、高齢者の方が移動するのが難しくなると、家でいろいろなことができることが大事になる。利便性を高めるということでICTを使う場面が多くなれば良いと思う。

――令和元年の情報通信白書では産業界での投資が少ない産業、活用できていない原因をSlerなどの産業構造に言及して踏み込んだと思うが、今回の白書では言及がないように見える。ICT産業構造についての議論は行っているのか。

小熊:4年版白書では日本のICT投資は低迷しているということはコメントしているが、なぜ低迷しているのかという原因まで踏み込んだ調査は実施していない。5年版白書では言及できればと考えている。

――デジタル庁と総務省の情報通信担当の役割分担はどのように整理されているのか。

小熊:デジタル活用支援のような大元の取りまとめや制度全体はデジタル庁で、具体的な支援の実施は総務省を含む各省庁でというようにうまく連携しながら政策を進めている。
庄司:デジタル庁の組織はまだ小さい。議論の整理、方向付けは行っているが、実施というところになると、各省と連携するということになるのだろう。デジタル庁はトランスフォーメーションに力が入っているが、通信と放送のサービスを遍く安定的に普及させるなど、実際に動かす部分で総務省の役割が非常に大きいと思う。

――「誰一人取り残されないデジタル化」には異論はないが、米国ではさらに踏み込んで格差社会是正のためICTによる格差解消、デジタル公平が唱えられている。今後日本でもICT活用による格差解消、デジタル公平に踏み込んでいくという方向性はあるのか。

小熊:私見だが、そういう方向性を政府全体で進めていくのはあり得るのではないかと思う。
庄司:デジタルのサービスが得意な人のためのものという位置づけから、全員がメリットを享受するものになるのなら、こうしたウェブ会議のようなものを使うということは積極的な格差是正の取組みだといえる。デジタルの良いところを積極的に使っていくようなサービスデザインへの取組みはもっと重要になるのではないか。

――情報通信機器、情報通信サービス共に需要は高まっているのに日本のサプライヤーの地盤沈下、外資の台頭を読み取れるが、白書では要因分析、原因追及は行っているのか。

小熊:白書では現状を提示するということでデータのみ提示したが、総務省情報通信審議会で、日本のデジタル敗戦についての要因分析や今後について議論していただいている。委員の先生方からは敗戦の要因として、上位レイヤーの開発工程に対する日本の投資が遅れ、早期の段階でGAFAに抑えられてしまったことで、後から参入することが難しくなってしまったことが挙げられている。
庄司:白書の内容に関連する研究会や会議があれば、リンクで飛べると良いかもしれない。

――行政デジタル化へのポジティブな意見が少ないことに驚いた。原因をどのように考えているか。

庄司:過去の白書でも言及されているが、国際比較でも、日本は実際にセキュリティ上の何かトラブルに巻き込まれていないが、最も不安を持っている。日本人は厳しく消極的に答えるという傾向が出ているのかもしれないが、デジタル技術を不安がるという傾向も強い。では、セキュリティ対策をしっかりすれば不安が解消して使ってくれるのかということは検討が必要かもしれない。

――行政側に、基礎自治体の公務員は住民の個人情報を扱うためテレワークに馴染まないという考え方が根強いと思うが、公務員のテレワークは難しいという考えなのか。新たなテクノロジーを使うことによって乗り越えられると思うか。

小熊:業務上難しいことは承知しているが、総務省、私個人としても自治体のDXは重要な課題だと思っているので、自治体でもテレワークを推進していただければと思う。
庄司:個人情報を扱うから馴染まない、馴染む業務が少ないというのは事実だと思うが、全員が個人情報を扱うわけではない。あるいは個人情報を扱う部署であっても交替でテレワークをやれるようにしたら良いのではないか。できるようにしていく、あるいは、できる人を増やしておくという工夫の余地はあると思う。積極的にほぼすべての職員がテレワークをできるようにしている自治体もあるので、できないということはないと思う。

庄司:時間となったが、ご質問などいただいているので、一通り紹介させていただく。

――地方でDXについて後押しをしようとしても、財政の問題から新しいものになかなか手を出したがらない。規制など、半強制的な縛りをすることは考えているか。
――技術的にセキュリティの度合いを挙げつつ、セキュリティ不安を解消するアナログな手段などは検討できるか。
――海外事業者への依存度、国内市場のサービスや剤の輸入額を図示いただけると嬉しい。
――セキュリティ人材育成に関して、上司担当者の一定のレベルに達した人向けのトレーニングはもったいない。社会に参画できていない若年層がゲーミフィケーションで参加できるサイバーセキュリティ研修などの取組みが必要ではないか。

小熊:自治体DXの縛りについては、まずは自治体DXの現状について白書でも見ていく必要があると思う。データ収集が白書の役割の一つだと思うので、次の白書に活かしていきたい。セキュリティ不安については漠然とした不安感が広がっている。そのあたりはデジタルメディアリテラシーの向上等の面で国としてもサポートできるのではないかと思う。海外依存度の可視化は非常に有用なご意見だと思うので、可能な限り次の白書で、データで可視化できたらと思う。セキュリティ人材には非常に貴重なご意見なので、担当にも共有したい。いただいた重要な意見を次の白書に活かしていけたらと思う。

執筆:井上絵理(国際大学GLOCOM客員研究員)

アーカイブ動画(YouTube)

  • totop