第一弾:デジタル社会における人々の意識を探る、意識別クラスター分析編
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、サイバーエージェント、セールスフォース・ジャパンの3者共同調査
2022年10月11日(火)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)のレジリエントシティ研究ラボ(東京都港区、所長:松山良一、ラボ代表:櫻井美穂子)は、株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:藤田晋、東証プライム市場:証券コード4751)の官公庁・自治体への DX 推進支援を行う「デジタルガバメント推進室」および株式会社セールスフォース・ジャパン(本社:東京都千代田区、代表取締役会長 兼 社長:小出 伸一、以下「セールスフォース・ジャパン」)と共に、社会のデジタル化に対する人々の意識について、全国15~80歳代までの4,128名を対象に調査し、その調査結果を踏まえて様々な統計分析および機械学習を用いた共同調査研究を実施いたしました。
本調査発表の第一弾では、人々の社会のデジタル化に対する姿勢を「デジタル積極層」「中立層」「置き去り層」「反デジタル層」の4分類に分け調査研究を行う「意識別クラスター分析編」を、第二弾では、社会のデジタル化における「全体分析編」をお伝えします。
このたびの第一弾では、「意識別クラスター分析編」として各層がどのような暮らしへの価値観を持っているかなどを分析し明らかにしました。
なお本調査研究は、国際大学GLOCOMの30周年記念事業の一環として実施し、サイバーエージェントは利用者にとって使いやすい行政サービスを追求する観点から、セールスフォース・ジャパンは行政が住民一人ひとりのニーズに合ったサービスを再構築するのを支援する観点から、3者共同の調査実施に至りました。
<調査結果報告イベントのご案内>
本調査の結果に基づき、「誰一人取り残されないデジタル社会」の実現に向け必要な方策について議論を交わす公開イベントを、10月31日(月)16:00~17:30 にYouTubeにてライブ配信いたします。
当日は、前デジタル副大臣・衆議院議員の小林史明氏や磐梯町長の佐藤淳一氏を迎えてのパネルディスカッションを予定しております。
ライブ配信の視聴には事前申込みが必要となります。
詳細はこちら(https://peatix.com/event/3361853/view)をご覧ください。
本調査研究の目的と概要
本調査研究は、デジタル社会に対する人々の考え方やイメージ、またどのような生活の価値観がデジタル技術でサポートされてほしいかというニーズの把握を目的として、インターネット調査による結果をもとに、様々な統計分析および機械学習を用いて回答傾向の分析を行いました。分析手法の詳細は後述の注釈(※)にて説明いたします。
意識別クラスターとして、デジタル化の進展に対する人々の姿勢を「デジタル積極層」「中立層」「置き去り層」「反デジタル層」の4つの層(クラスター)に分類し、デジタル技術に対して各層がどのようなニーズや暮らしの価値観を持っているのかについて深掘りしました。
調査結果から見えたトピックス:意識別クラスター分析編
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本調査研究の主なFINDINGS
FINDINGS①:「年齢」や「生活への満足度」が、「デジタル積極層」「デジタル消極層」などのデジタル社会への意識の形成に影響を与えている。
社会のオンライン・デジタル化の良し悪しと関心の有無、また自身がデジタル化についていけているかどうかを尋ねた質問への回答をもとに、回答者のデジタル社会に対する意識を分析した。
デジタル化への姿勢が積極的か消極的か、あるいはデジタル化に肯定的な意見を持っており関心もあるが自分はついていけていないと感じているかなどの基準で、「デジタル積極層」「中立層」「置き去り層」「反デジタル層」の4つの層に分類した。
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回答者全体に占める各クラスターの割合は以下のとおりであった(図)。
図:デジタル積極層・中立層・置き去り層・反デジタル層の割合
また各層を性年代別にみてみると、「デジタル積極層」の割合が、男女ともに50代が最も少なく、50代を底辺にU字カーブを描いていることが分かった(図)。
「置き去り層」において最も多い割合である約2割を占めたのは男性80代、女性40代、女性60代、女性80代であった。
また、「反デジタル層」において最も多い割合である2割を超えたのは女性50代であった。
社会のデジタル化の進展に「積極的な人」「ついていきたいがついていけていない人」「消極的な人」と様々な層がいることから、一律のデジタル活用ではなく、各層の特徴を捉えたデジタル化の推進が求められている。消極的な人に合わせる、あるいは積極的な人だけが使えるのではく、多様な意見や利用者の文脈を考慮したい。
図:デジタル積極層・中立層・置き去り層・反デジタル層の性年代別の割合
社会のデジタル化への意識分類に影響を与える項目を、機械学習の一種であるランダムフォレストを用いた分析(※2)により抽出したところ、「年齢」「行政のオンラインサービス利用意向」「居住地域」「行政オンラインサービスの認知度」「生活への満足度」「職業」「世帯年収」「1日(平日)に最も時間を割いている活動」などが上位となった(図)。
年代による影響があることは先述のとおりだが、加えて「居住地域」や「職業」「世帯年収」といった、利用者の属性に関連した項目がデジタル化への意識形成に影響を与えている。
「行政オンラインサービスの利用意向や認知度」も影響を与える項目の上位に入っており、社会全体のデジタル化を考える上で行政分野が重要な役割の1つを担っていることが分かる。
図:デジタル積極層・中立層・置き去り層・反デジタル層の形成に影響を与える項目
加えて、毎日の「生活への満足度」もデジタル化への意識に影響を与えている(図)。
満足度が高いほど「デジタル積極層」の占める割合が高くなり、満足度が低いほど「反デジタル層」の占める割合が高くなることが分析結果からも分かった。
「反デジタル層」においては、1日に使える自由時間が「ほとんどない」と回答する人が他の層の人々よりも多い傾向にあったため、生活の満足度や日常生活の時間の使い方の違いは、「誰一人取り残されない」デジタル社会の実現において考慮すべき観点だと考えられる 。
図:生活への満足度(クラスター別)
FINDINGS②:行政のオンラインサービスをいかに継続的に使ってもらうか、サポート体制を充実できるかが、「誰一人取り残されない」デジタル社会の実現において重要
デジタル社会への意識形成に影響を与える項目の一つである「行政のオンラインサービスの認知度」について各層の回答を見てみると、「使ったことがある」「使ってみたがその後使わなくなった」と回答した人に占める「デジタル積極層」の割合が5割を超えた(図)。
「使ってみようと思ったが分かりにくくて使えなかった」「オンラインでどのような行政サービスを提供しているか知らない」と回答した人では、「置き去り層」の占める割合が約2割を占めた。
図:行政オンラインサービスの認知度(クラスター別)
サービス提供側である行政がオンラインサービスを十分に提供していると思っていても、利用者にとって“継続的に使えるサービス”として認識されていなければならない。
どの点が充実・改善されれば使いたいと思うかという質問に対して、「デジタル積極層」の占める割合が高かった回答項目は「デザイン・操作性」であった(図)。この回答を踏まえ、行政オンラインサービスにおけるUI・UXの改善を継続的に行うことで、まずは「デジタル積極層」の人々にオンラインサービスのファンになってもらうことが重要だと考えられる。
「置き去り層」の割合が最も高かった改善点は、「分からないことがあった場合のサポート体制」であった(図)。 2021年に実施した「デジタルガバメントに関するニーズ調査」(※4)でも、オンライン手続きを使わず市役所の窓口に行く理由として「何か分からないことがあった時に聞けるから」と回答した人が多かった。「置き去り層」を置き去りのままにしないためにも、オンラインサービスの拡充を進める際には、いかにオンライン上で“気軽に聞ける環境”や“サポート体制が万全であるという安心感”を醸成できるかが重要だと考えられる。
図:行政オンラインサービスに求める改善点(クラスター別)
FINDINGS③:民間オンラインサービスと行政オンラインサービスに対する人々の意識や態度はデジタル積極層・消極層によって異なる
民間のオンラインサービスを日ごろよく使う理由を尋ねたところ、「デジタル積極層」の割合が最も高かった回答項目は「新しいサービスを使うのが好きだから」であり、「置き去り層」の割合が最も高かったのは「周りの人が使っているから」であった(図)。
行政のオンラインサービスを使うとしたらどのような理由であるかの質問において、「デジタル積極層」の割合が最も高くなった回答項目は「新しいサービスを使うのが好きだから」であった。民間のオンラインサービスを日ごろよく使う理由においても同じ傾向だった。
一方で、同質問における「置き去り層」の割合が最も高くなった回答項目は「困った時に丁寧にサポートしてくれるなら使いたい」であった。
先述の行政オンラインサービスの改善点においても「サポート体制」が挙げられていたように、「聞きたいときに気軽に聞けない」ことが、「置き去り層」にとってデジタルサービスに「ついていけない」と考える理由の1つだと考えられる。ライトな質問も含めて「置き去り層」の人々が気軽に聞ける環境をどのように整えていくか、また「デジタル積極層」との関係性を日常でどのように醸成していくかが重要である。
「反デジタル層」は、「デジタルサービスはほとんど使わない」と回答した人の約65%を占めた。さらに、「反デジタル層」の回答を見てみると、そのなかでも利用しているデジタルサービスは、「ニュース」「地図サイト」や「メッセージサービス」「オンラインショッピング」などが目立った。
図:民間オンラインサービスを使う理由(クラスター別)
図:行政オンラインサービスを使う理由(クラスター別)
FINDINGS④:理想の暮らしは、デジタル積極層と消極層で異なる。「デジタル積極層」は祭りやイベントに日々触れる暮らしやワークライフバランスを、「置き去り層」は地域の人とのつながりを、「反デジタル層」は家族みんなの幸せを重視
理想の生活について尋ねたところ、「デジタル積極層」の割合が高かった回答項目は「祭りやイベントに触れる暮らし」「ワークライフバランス」、「置き去り層」の割合が高かったのは「地域の人とつながる暮らし」「医療・介護サービスへのアクセスがしっかりしている暮らし」、「反デジタル層」の割合が高かったのは「家族みんなが幸せな暮らし」となった(図)。
2021年に実施した「デジタルガバメントに関するニーズ調査」(※4)では、祭りやイベント、地域の人とのつながりとデジタル活用にニーズに相関関係があることが分かっている。この調査では、「お住まいの自治体との「近さ」を感じるのはどんなときでしょうか?」という質問に対し、「地域のイベント(お祭りや屋外での催し)に参加したとき」との回答項目が、デジタルガバメントのニーズの高さにプラスの影響を与えていた。
図:理想の暮らし(クラスター別)
今回の調査では、人々のデジタル社会への意識別に暮らしの理想を尋ねることで、「デジタル積極層」「置き去り層」「反デジタル層」が重視する生活の価値観が異なっていることが分かった。これらを踏まえ、多様な価値観を大切にしながら、社会のデジタル活用を進めていきたい。
※1 社会のオンライン化・デジタル化の進展に対する意見を尋ねた質問(Q1)と、社会のデジタル化の有意義な点を尋ねた質問(Q3)の回答によってクラスター分けを行った。
デジタル積極層:Q1の3つの問いに1もしくは2と回答した人からQ3の12にチェックを入れた人を除外
置き去り層:(Q1のS1に1もしくは2と回答した人、もしくはS3に1もしくは2と回答した人)+(Q1のS2に4もしくは5と回答した人)からQ3の12にチェックを入れた人を除外
反デジタル層:Q1のS1に4もしくは5と回答した人もしくはS3に4もしくは5と回答した人、または Q3で12にチェックを入れた人
中立層:デジタル積極層、置き去り層、反デジタル層に入らなかった人
Q1:現在のオンライン化・デジタル化の進展についてどう思いますか。
Q1S1:良いと思いますか
Q1S2:自分はついていけていると思いますか
Q1S3:関心がありますか
(選択肢リスト)
1.そう思う 2.少しそう思う 3.どちらでもない 4.そう思わない 5.全くそう思わない
Q3:社会のデジタル化に対してあなたが有意義だと思うことを教えてください。
12. 有意義だと思うことはない
※2 ランダムフォレストは機械学習でよく用いられる分類器の1つである。選択肢に対してYES/NOを答えていくことで分類を行う決定木を組み合わせたもの。通例、このような問題設定では統計分析としてロジスティック回帰分析が用いられることが多いが、当該調査のサンプル内に潜むパターンを探索するという目的に限っては、非線形の分類を行えるランダムフォレスト分類器を用いた方が、より深い知見が得られると判断した。なお、このモデルの性能はprecision 0.85、 recall 0.82、f1-score 0.79であり、ロジスティック回帰モデル(同0.79、同0.78、同0.78)よりも高性能であった。
※3 クラスター別の各図は、各質問項目に「はい」と答えた人の各クラスターの割合を示している。
※4 2020年12月から2021年1月にかけて国際大学グローバル・コミュニケーション・センターおよび株式会社サイバーエージェントが共同で実施したデジタルガバメントに関する住民ニーズについてのアンケート調査。
当該調査票(インターネットパネル調査:デジタル社会意識調査)および本調査票(インターネットパネル調査:デジタル社会意識調査)の全質問項目および回答項目の一覧情報をご要望の方には、本情報をPDF形式にてお渡しいたしますので下記「本リリースに関するお問い合わせ」の「国際大学グローバル・コミュニケーション・センター」宛にご連絡ください。回答項目の一覧についてはご相談の上の対応となることご了承ください。
共同研究について
共同研究主体
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) レジリエントシティ研究ラボ
GLOCOMは国際大学付属の研究所として1991年に設立され、学際的日本研究や情報通信技術の発展・普及に根ざした情報社会の研究と実践を活動の中心におき、産官学民の結節の場として、常に新しい社会動向に関する先端研究所であることを目指す研究所です。当ラボは、持続可能な社会や街づくりを目指し、地域課題の解決策の実践や、レジリエントでスマートな街づくりのデザインについて、デジタル活用の観点から研究しています。
研究代表者:櫻井美穂子
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授/レジリエントシティ研究ラボ代表
ノルウェーにあるUniversity of AgderのDepartment of Information Systems准教授を経て2018年より現職。専門は経営情報システム学。スマートシティ、DX、レジリエンス、サスティナビリティなどをキーワードに自治体や地域コミュニティにおけるデジタル活用について研究している。Hawaii International Conference on System Sciences (2016)およびITU Kaleidoscope academic conference (2013)にて最優秀論文賞受賞。実践研究活動として、ヨーロッパ7か国の大学や自治体が参加するEU Horizon2020「Smart Mature Resilience」プロジェクトに参画。日本では、自治体や企業との協働による「災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会」や「DX街づくり/ビジネスデザイン勉強会」を主宰。
株式会社サイバーエージェント デジタルガバメント推進室
官公庁・自治体向けに、行政の推進するデジタル化支援全般を行う専門組織です。
株式会社セールスフォース・ジャパン
Salesforceは顧客関係管理(CRM)のグローバルリーダーであり、あらゆる規模や業種の企業がデジタルトランスフォーメーションを行い、顧客を360度で見られるよう支援しています。公共部門においても、市民中心の行政サービスの基盤を世界で提供し、住民、行政機関、ステークホルダー、パートナーのニーズに対応し、デジタルファーストの世界において、行政機関のDXの推進を支援しています。Salesforceの詳細については、salesforce.com/jp をご覧ください。
調査概要
◆インターネットパネル調査
- 調査主体:国際大学GLOCOM、株式会社サイバーエージェント、株式会社セールスフォース・ジャパン
- 調査委託先:株式会社マクロミル
- 調査時期:2022年6月24日~6月27日
- 調査方法:インターネットリサーチ
- 調査対象:全国15歳~89歳 4,128人(マクロミルのパネル30,875人を対象として、全国15歳~89歳の4,128人を人口構成比に基づく割当法により抽出。)
※以下内訳
15-19才:220人
20代 :466人
30代 :537人
40代 :700人
50代 :636人
60代 :598人
70代 :621人
80代 :350人
本リリースに関するお問い合わせ
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
E-mail : g-pub[at]glocom.ac.jp