2017.02.03

OPINION PAPER_No.11(17-002)「「フリー」と「プラットフォーム」でビジネスを飛躍せよ」

OPINION PAPER No.11(17-002)

「フリー」と「プラットフォーム」でビジネスを飛躍せよ

山口真一(国際大学GLOCOM研究員/講師)

Choudary, Van Alstyne, & Parker(2016)(*i)は、プラットフォームの拡大が多くの主要産業の構造を変え続けていると主張している。ここでいうプラットフォームとは、商品・サービス・流通通貨を超えたユーザと企業の間の完璧なマッチングを目的としたものである。そして、自分たちが所有・制御していない資源を用いて価値を創造するので、従来のビジネスよりも非常に速く成長出来ることが指摘されている。実際、昨今の検索エンジン、SNS、ECサイト等の急速な成長は、それを証明しているといえるだろう。

◆ ネットワーク効果が巨人を作る

そのようなプラットフォームが持つ特徴の一つとして、ある財のユーザ数が増えることにより、ユーザ1人1人の効用が増加する、いわゆるネットワーク効果(外部性)が挙げられる。ネットワーク効果は、直接的ネットワーク効果と間接的ネットワーク効果の二つに分類することが出来る(*ii)。直接的ネットワーク効果とは、前述したとおり、ある財のユーザが増えることにより、ユーザ1人あたりの効用が直接増加する効果である(ユーザ間の正のフィードバック)。電話を想像するとわかりやすいであろう。一方で、間接的ネットワーク効果とは、ある財のユーザが増えることにより、その財の補完財が充実し、結果的にユーザの効用が増加する効果である(ユーザ・補完財間の正のフィードバック)。スマートフォンをプラットフォームと見た時の、アプリとユーザの関係が典型例である。

ネットワーク効果は、従来の経済学でいわれるようなブランド効果や価格効果とは全く異なる性質のものである。これを、Choudary, Van Alstyne, & Parker(2016)は、産業時代の企業は供給側の規模の経済(*iii)によって誕生したが、現在の巨大企業は、需要側の規模の経済によって誕生していると表現している。

このようなネットワーク効果が働くプラットフォーム・ビジネスの特徴として、以下の三つが挙げられる。第一に、先行者優位となること。プラットフォームの質に関係なく、ユーザや補完財が多いものの方がユーザ1人当たりの効用が高まるため、先に市場に参入した方が有利となる。第二に、ロックイン効果(*iv)が働くこと。ひとたびプラットフォームに参加すると、そこで構築した人間関係や利用出来る補完財を他に移行できないことから、スイッチングコストが高まる。第三に、Winner-Takes-Allとなること。蓄積されたユーザ数と補完財数によるネットワーク効果によって常に競争優位に立つことが出来る。

◆ ネットとフリーミアムによる革新

このようなプラットフォームは、電話・パソコン・ゲームハード等、ハイテク産業を中心に以前から存在していた。しかしながら、その環境を根本から変え、プラットフォームが製品を凌駕する時代を築く要因となったのが、インターネットの登場とそれに伴うサービスのフリー化である。

ネットワーク効果の働く市場で最も大きな課題となるのが、一定以上のユーザの獲得である。それに必要なのが、「①潜在的ユーザが大量にいること」、そして、「②参加コストが低いこと」である。

インターネットが世界中に普及し、大量の人々が繋がったことは、①を完全に満たした。インターネット上のプラットフォームは、ゲーム等と異なりデバイスの制約を受けないため、潜在的ユーザ数はインターネット利用者数となる。

もう一つ、インターネットは、ビジネスに「フリー」の潮流をもたらした。フリー・ビジネスには、基本機能を無料で提供して付加機能に対して課金するフリーミアムや、広告モデル等がある。フリー・ビジネスは、インターネットと非常に相性が良い。なぜならば、インターネットを介して提供されるデジタル財は、限界費用が限りなくゼロに近いため、無料で多くの消費者にコンテンツを提供しても、非常に小さいコストしかかからず、広範囲の消費者に提供可能だからである。無料は究極の参入コスト低減であり、②の条件に革命をもたらした。

◆ 日本にまだチャンスはあるのか

日本は、プラットフォーム競争において劣勢である。多くのメジャーなSNS、デジタルストア、ECサイト、検索エンジン、コンテンツ配信サービス等において、海外、特に北米のものが、世界的に広く使われているのが現状である。

この要因は様々考えられる。一つの要因として考えられるのが、元来、日本は物理的なものづくりには長けているが、物理的でないサービスによって大きな価値を創造するというのは不得手であるという点である。Appleがプラットフォーム・ビジネスで成功している中、SONYは難航している。ゲームハードでは成功しているが、それもハードそのものの質が重視されている。

では、先行者優位の働くプラットフォームでは、もう日本が参入する余地はないのであろうか。実は、近年の研究によって、先行者優位は永続的なものではなく、差別化がされていれば十分に後発でも勝てることが分かっている。

山口(2016)(*v)は、ゲーム産業の実証研究によって、ネットワーク効果の時間による効果減少を証明している。つまり、従来の理論では、それまでに加入したユーザや補完財全てがネットワーク効果を持ち、いつまでも先行者優位は崩れないとされていた。しかしながら、実際には、効果は減少するため、最初に加入したユーザや補完財のネットワーク効果は永続的なものではなく、最近加入したそれらの方が大きなネットワーク効果を持つ。そのため、初期戦略だけでなく、中期以降の戦略も普及に影響を与える。

さらに、IoT等の新技術の登場により、プラットフォームを構築する余地は次々と生まれている。日本がこれからプラットフォーム・ビジネスで成功する可能性は多分にある。

◆ プラットフォーム・ビジネスで躍進せよ

以上のように、ネットワーク効果を生かしたプラットフォームの設計こそが、高度情報化社会における最も重要なビジネス領域になるといえる。また、ネットワーク効果に加え、昨今の人工知能による分析技術の向上は、データによる規模の経済もプラットフォーマーにもたらすであろう。

プラットフォームで成功する要因は何か。それは以下の4点である。

1.フリーによる参入コストの低減
2.オープン化によるユーザや補完財の充実
3.クリティカルマス(*vi)を超えるまで利益度外視
4.消費者相互要素の導入によるネットワーク効果の最大化

また、フリー・ビジネスでの収益化を考える際には、まず誰から収益を得るかを考える必要がある。広告主から得るのか、ユーザから得るのか、第三者にデータを販売して得るのか、それらの組み合わせなのか。さらに、収益化で重要なのが、従量課金制であることが指摘されている(*vii)。例えば、大量のユーザ数を誇るTwitterは未だに赤字である一方で、モバイルゲームは高い利益率を誇る。

日本は、質の高い製品やコンテンツを保持していながら、多くの分野で1プロバイダーにとどまってしまっている。マインドを変え、それらを生かしてプラットフォーム戦略でビジネスをリードしていく必要がある。領域としては、医療プラットフォーム、コンテンツプラットフォーム、教育プラットフォーム等、様々考えられる。また、海外への展開については、現地企業との提携・買収と、現地社員に多くの部分を「任せる」ことが重要という指摘もある(*viii)。世界に広がる潜在的ネットワークと、そこから得られる外部性を上手く活用し、プラットフォーム・ビジネスに積極的に参入していくべきだろう。

*i Choudary, S. P., Van Alstyne, M. W., & Parker, G. G. (2016). Platform revolution: How networked markets are transforming the economy–and how to make them work for you. WW Norton & Company.
*ii Katz, M. L., & Shapiro, C. (1994). Systems competition and network effects. The journal of economic perspectives, 8(2), 93-115.
*iii 生産規模や生産量を高めるほど、生産コストが減少して企業の利潤が増えること。
*iv 消費者がある財を購入した際、それ以降、他社の財への乗り換えが困難となり、いつまでもその財のユーザであり続ける現象。
*v 山口真一(2016)「ネットワーク外部性の時間経過による効果減少と普及戦略」、『組織科学』49(3), 60-71.
*vi サービスが普及する際、爆発的に普及するために最低限必要とされる市場普及率のこと。
*vii 田中辰雄・山口真一(2015)『ソーシャルゲームのビジネスモデル: フリーミアムの経済分析』、勁草書房
*viii 総務省情報通信政策研究所(2014)「ICT 新興分野の国際展開と展望に関する調査研究報告書」

2017年2月発行

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