OPINION PAPER No.38(26-001)
「移住議員」は地方議会・地方民主主義を救うのか
「よそ者」が議会にもたらす可能性と課題
地方議会はいま、二重の危機に直面している。第一に、議員のなり手不足である。直近4年間(2019年5月〜2023年4月)に選挙を実施した全国926町村のうち、254町村(27.4%)が無投票、定数割れも31町村にのぼった。また、無投票を辛うじて回避しただけの自治体も多いこと、次の4年間で3分の1超が無投票になる可能性も指摘されており、二元代表制そのものの存続が一部の自治体で岐路に立っている(全国町村議会議長会, 2024a)。
第二に、議会における多様性の不足である。女性比率は市議会17.2%、町議会12.7%、村議会9.8%となっており、若手(49歳以下)も市議会17.6%、町議会9.9%、村議会9.8%となっている(*1)。こうした実態は、地域の利害や経験、何より住民の多様性が議会に十分に反映されていないことを示しており、全国町村議会議長会も、「多様な人材が議会に参画できるようにするためには、・・・志を抱く誰もが議員として活躍できる環境を整備しなければならない(全国町村議会議長会, 2024b)」としている。
こうしたなかで近年、注目されつつあるのが、「地方に移住し、議員になった人びと」、本稿でいうところの移住議員である。ここでは、定年退職後の帰郷などではなく、比較的若い(*2)うちにUIJターン経験者が地方議会議員として立候補・当選するケースを「移住議員」と呼び、Uターン、Iターン、Jターン、転職・起業・結婚・子育て等、さらには地域おこし協力隊のような制度を活用した移住者が議員になるケース(田口,2024)まで含む広い移動を射程に入れる(*3)。
「よそ者」が議会に入ることの意味:ジンメルとシュッツから見る移住議員
移住議員は、しばしば「新しい視点」「橋渡し役」「若者参画」「議会改革の担い手」と期待される(*4)。しかし、時折見られる救世主的な期待には筆者は慎重な立場であり、むしろ移住議員を地方政治が抱える構造的な歪みを可視化する存在として捉えるべきだと考える。なぜなら、移住議員は、地域の内側に住み、暮らし、税を負担しながら、同時に「よそ者(stranger)」として見られ続けるという内と外のねじれを引き受ける存在だからである。
筆者の専門分野である社会学では、よそ者性への着目をめぐる議論は古い。社会学者のゲオルグ・ジンメルによれば、よそ者は、近くにいるが、どこか遠い存在として共同体の境界を照らし出す(Simmel, 1950[1908])。また、同じく社会学者のアルフレッド・シュッツは、よそ者が当たり前の前提(関連性の体系)を再編せざるを得ない状況を描き出している(Schütz, 1944)。移住議員が直面するのは、まさにこの二重性(*5)である。地域の慣習や規範・暗黙知に適応しつつ、しかし完全には同化できず、ときにしないことで客観性や独自性が保たれる。そうした特徴が、閉じた流動性の低い議会を破る契機にもなれば、当人の消耗や対立の火種になることもある。
移住議員はどう増えているのか:地域おこし協力隊・移住政策の副産物として
移住議員が関心を集める背景には、主に地方創生以降の国-自治体が一体となった政策的移住促進(伊藤,2025)の影響が少なからずある。なかでも、地域おこし協力隊は象徴的である。任期終了後の同一市町村内への定住率は55.7%で、直近5年間(2019年4月1日〜2024年3月31日)に任期終了し、同一市町村内に定住した隊員4,477人のうち、363人は自治体職員、議員、集落支援員などの行政関係に就業している(総務省,2025)。こうした人材に対しては、外部視点で課題を把握でき、議会の多様性確保に資するという評価も出ている。
ただし重要なのは、移住者の議員化が目的として設計されてきたわけではなく、移住定住・地域協力推進政策の帰結として、議会への参画が起きているという事実である。この点は、政治家としてのキャリアを意識して、当選しやすい地域に移り住んで立候補する人もいる都道府県議会や国政との違いだろう。
だからこそ、議会制度や地域社会に受け入れる土壌や空気がなければ、移住議員は誕生しにくく、誕生したとしても継続的にその役割を全うし続けることは難しい。実際、筆者らの聞き取り調査のなかでも、地域おこし協力隊から町議会議員になったのち、関係性をうまく構築できず地域との関わりにも疲れ心身を病んでしまったことで、一切の連絡を遮断した移住議員もいるという話を聞いた。もちろん、こうしたことは移住議員に限った話ではないが、そこには期待や希望だけで語れない難しさが横たわっていることは確かだろう。
移住議員がもたらす効用:長期関係の政治、可視化、モデル効果
では、実際、移住議員が現場にもたらす効用とは何なのだろうか。ある移住議員は、当初「変なやつが来た」と距離を取られたが、委員会や議会で質問・発言を積み重ねることで評価が変わり、徐々に関係が縮まっていったという。そこでは、学歴やキャリアよりも草刈りや日々の取り組みなどを通した関係性の積み重ねで人を判断する側面が強く、公約よりも人間性が見られるという特徴が聞かれた。
また、移住議員は次の候補者を生むモデル効果を持ちうる。「モデルとなる存在がいることで、目指す気持ちにつながる」「多様な価値観を政治に入れていく存在が重要」といった語りは、議会の多様性を意識する移住議員の姿と、従来の経路以外の入口が見えにくい地方政治の現実を示している。
なかには、自身が後押し役となり、新たな若手議員や女性議員が擁立から当選へと至っているケースも複数確認された。移住議員の価値は、新しい視点の導入や政策アイデアと同じかそれ以上に、政治参加の回路を可視化し、「自分もなれるかもしれない」という可能性を地域内に増やすことにあるといえる。
ジェンダーと絡みあう移住議員の難しさ
一方で、冒頭で記した通り、移住議員の実践は決してすべてが理想化され、期待に満ち溢れた物語ではない。たとえば、移住者性はしばしばジェンダーと絡み合い、批判が増幅されることもある。ある女性移住議員は、自治会・町内会への説明や報告の場で「嫌味を言われる」「威圧される」経験を語り、伝統的な性別役割分業や地域政治をめぐりジェンダー化された言動が、新たななり手の排除へとつながりうることを示唆している。
また、「女性議員は子育てと議員活動の両立が大変だと思う」「夫の勤務形態による部分が大きい」といった語りも聞かれており、政治参加が家庭内資源に依らざるをえない現実も浮かび上がっている。
ここで問うべきは、「移住議員は増えるべきか」という単純な賛否ではない。増やす方向を目指すのであれば、個人の多大な資源の持ち出しや孤立を前提とした仕組みであってはならないだろう。なぜなら前述の通り、移住議員が直面する課題は本人の問題だけに留まる話ではなく、制度設計と地域の社会構造の問題だからである。
海外の論点:居住にもとづく政治的メンバーシップと代表性
現在、調査している移住議員は日本国籍保持者・国内移動者が中心だが、それは本質的に「どこに属するのか」「誰が代表されるのか」という政治的メンバーシップの問いに直結する。実際、海外では、国籍と参政権を切り離し、居住を基礎に地方参政権を認める議論と制度が展開されている。
象徴的なのは、フランスである。フランス憲法は原則として地方参政権をフランス国民とEU市民に限り、第三国国民は排除してきた。ところがブレクジットにより、フランスで暮らし地方政治に関わってきた英国人が「EU市民ではなくなる」ことで、地方選挙の投票・立候補権を失う(あるいは将来失う)という事態が生じ、国籍中心主義を揺さぶる契機となった。先行研究は、国籍よりも居住・代表・参加・包摂の重要性を実証的に示し、政治的メンバーシップにもとづく拡張的市民権の議論を後押ししている(Ferbrache, 2019)。
こうした事例から、日本が直ちに外国人地方参政権へ進むべきだと言いたいわけではない。問題提起は別の点ある。それは、国内移動であれ国境を越える移動であれ、流動性が高まる社会(Bauman, 2000)で、「住むこと」と「決めること」をどう結び直すかがいま改めて地方政治・地方民主主義の本題になっている、という点だ。
実際、別稿(*6)で論じた政府の「ふるさと住民登録制度」構想は、関係人口や二拠点生活者が行政サービスを受けること、住民税の分割納税が都市自治体の理解を得やすいことなど、居住と負担の再設計に踏み込んだ議論を行ってきた。これは、従来の固定的・非流動的な住民像ではなく、移動するモバイルな住民像を前提に、市民/自治の単位を組み替えようとする試みである。そうであれば当然、政治参加や代表の制度も、同じ地平で再設計の議論がなされていってもおかしくはないだろう。
移住議員から考える、これからの地方民主主義への3つの提案
移住議員は、確実に地方議会に新たな風を吹かし、ポジティブな影響を与えている。ただ、その存在はなり手不足が深刻化する地方議会の危機に対する万能薬ではなく、むしろ、危機の所在を映し出す診断装置と言うほうが正しいかもしれない。
最後に、移住議員の今後と地方民主主義の在り方について、以下の3点をオピニオンとして提案したい。
1つ目は、地方議員への入り口をより一層、開かれたものにしていくことである。聞き取りから、移住して議員になる・立候補するという決断は、意欲・資源と、地域のゲートキーパーや支援者による後押しの相互作用で決まる。政治的リクルート研究でも、立候補は本人の「自発性」だけでなく、周囲からの勧誘や推薦に大きく左右されることが繰り返し指摘されてきた(Norris and Lovenduski 1995; Fox and Lawless 2005)たとえば、英国人の仏自治体参画の事例でも市長から勧誘が典型であった(Ferbrache, 2019)。従来のように自治会や町内会、集落の年長者や地域団体の長を代表して立候補するのとは異なる後押しの道筋をつくっていくことが求められるだろう。
2つ目は、地方議員で食える、もしくは地方議員と他の仕事を両立できる条件を整えることである。なり手不足対策で最も重要なのは、議員職を持続可能な仕事にすることである。先行研究や全国町村議会議長会も、短絡的な対策が悪循環を生むと警告しつつも、報酬や制度面の再設計の必要を繰り返し述べている。聞き取り調査でも、実家が離れた地域にあることが多い移住者からは、子育てや出産時期の議会へのオンライン参加を提案し、実現している人もいた。こうした子育て・介護と政治の両立支援(会議時間、オンライン活用、事務局支援、費用補助)は、移住者に限らず、議会の多様性確保に向けた前提条件である。
3つ目は複数拠点時代の代表を積極的に議論・構想することである。二拠点居住や関係人口の拡大は、地方政治の市民/住民像を揺さぶる。ここで重要なのは、権利だけでなく責任と参加の設計である。たとえば、二拠点住民が政策形成に関われる諮問的な参加回路(各種会議体の設置やオンライン公聴など)を整え、代表制と参加制を組み合わせるといったことがありうる。移住議員は、その議論と構想を先取りしている存在であり、地方議会を開いていくための視点と経験をもった存在なのである。
筆者は今後も移住議員の調査を継続し、その成果を公表していく予定である。関連する取材やご相談は随時受け付けているので、気軽にご連絡いただきたい。
参考文献
Bauman, Z.(2000)Liquid Modernity, Polity.(=2001,森田典正訳『リキッド・モダニティ—液状化する社会』大月書店).
Ferbrache, F.(2019)“Local electoral rights for non-French residents? A case-study analysis of British candidates and councilors in French municipal elections,” Citizenship Studies, 23(5): 502-520.
Norris, P. and Lovenduski, J. (1995) Political recruitment: Gender, race and class in the British Parliament, Cambridge University Press.
Richard L. Fox. and Jennifer L. Lawless. (2005) “To Run or Not to Run for Office: Explaining Nascent Political Ambition,” American Journal of Political Science. 49(3): 642-659.
Schütz, A.(1944)“The Stranger: An Essay in Social Psychology,” American Journal of Sociology, 49(6): 499–507.
Simmel, G. (1950) The stranger. In K. H. Wolff (Ed.), The sociology of Georg Simmel, Free Press, 402–408.(原著1908)
伊藤将人(2025)『戦後日本の地方移住政策史――地域開発と〈人材〉創出のポリティクス』春風社.
全国町村議会議長会(2024a)「町村議会議員のなり手不足に潜む3つの危機――議会の取組と幅広い協働により地方自治の未来を創ろう」. (最終閲覧,2026.1.7
https://www.nactva.gr.jp/php/files/20240514050336_2.pdf )
全国町村議会議長会(2024b)「「議員のなり手不足対策」及び議会への 多様な人材の参画に関する重点要望」(最終閲覧,2026.1.7
https://www.town.minami.lg.jp/fs/6/0/2/9/1/1/_/「議員のなり手不足対策」及び議会への多様な人材の参画に関する重点要望(令和6年11月13日).pdf )
総務省(2025)「令和6年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」(最終閲覧,2026.1.7
https://www.soumu.go.jp/main_content/001003021.pdf )
田口太郎(2024)「「地域おこし協力隊」の地方議会進出――「協力隊出身議員」から始まる地方創生」『地方議会人』55(6): 16-19.
徳田剛(2020)『よそ者/ストレンジャーの社会学』晃洋書房.
*1 朝日新聞(2023)「変わらない議会 変えるあなた 全国1788地方議会調査」(最終閲覧,2026.1.3, https://www.asahi.com/special/chihogikai-diversity/)
*2 筆者らの聞き取り調査では、対象を当選時に49歳以下の人物としている。
*3 本論文の基となる調査は、陸前高田市議会議員の木村あきら氏との共同調査の成果である。
*4 浦谷收(2025)「過去に学び、未来のまちづくりを考える2日間──第38回全国自治体政策研究交流会議・第39回自治体学会 長野大会」『月刊ガバナンス』318.
*5 社会学者の徳田剛は地方における「よそ者歓待」の傾向は1990年代あたりからのことでまだ日が浅く、中には「やむに已まれず」よそ者への期待感を示すけれども、その基底には旧来のよそ者に対する警戒感や排除の気風などが残存したままの地域の少なくないと思われ、実際に地方へ訪問したよそ者たちが遭遇するホスト社会からのリアクションはアンビヴァレンと(両義的)な、デリケートなものとなりやすいとしてきする(徳田,2020: 181-182.
*6 伊藤将人(2025)「関係人口の「見える化」の先へ──ふるさと住民登録制度に関する全国自治体調査結果より(OPINION PAPER_No.35(25-001) )」https://www.glocom.ac.jp/publicity/opinion/11091
2026年1月発行