OPINION PAPER No.41(26-004)
関係構築だけじゃない、関係を途絶えさせない政策へ
――和歌山市とFAVTOWNの取り組みに学ぶ関係人口・移住促進
関係人口政策に求められる実態調査と官民連携
いま、関係人口が、地方創生・地域政策における重要なテーマとなっている。2026年度末には関係人口を全国一律のデジタル・プラットフォームで把握・管理し、各自治体の取り組みを推進させていく「ふるさと住民登録制度」の本格実施に向けた動きが加速している。
一方、関係人口の制度化をめぐっては、いくつかの課題もある。たとえば、関係人口という移動する人々の実態を把握することは未だ十分に進んでいない。住民登録制度の目的の一つにはこの実態把握も含まれるが、何を目的に、どのような方法で調査すればよいのか、調査の目的や方法に迷う自治体担当者の声もよく聞かれる。
こうした課題の背景には、関係人口概念の曖昧さという論点もある。そもそも、関係人口概念は制度化を念頭において登場したものでも、学術的に厳密な定義を伴って登場したものでもない。この概念の提唱者の一人の言葉を借りれば、「曖昧だからこそよい」というわけだが、制度化しつつあるいま、その曖昧さを行政が測りやすい形に整えようとするアンビバレントな要請が否応なく働いており、困惑しているという現場の声が聞こえてくる。
また、果たして自治体単独でできるのか、という問題もある。もともと自治体行政は、住民を対象として制度や施策を構築してきた――それが本来の役割である――ため、地域外への発信や継続的な働きかけは得意としない傾向がある。それは、自治体が、住民への行政サービスや自治を中心に成立してきたことを踏まえれば、当然のことである。
しかし、人口減少社会を迎え、人口流出や担い手不足が課題となるいま、観光政策やふるさと納税、移住政策、そして関係人口政策と、地域外の人々にアプローチすることが急速に求められ始めている。こうした状況を打開するための一つの方法が「官民連携」であり、筆者らが全国の自治体を対象に実施した調査でも、約半数が移住促進施策の一部または全部を外部委託していた(伊藤・包・堂免, 2025)。ふるさと住民登録制度の創設を進める総務省も、制度の推進にあたっては民間組織と積極的に連携するよう促している(*1)。
というわけで、関係人口政策、その延長線上にときに位置づけられる移住政策という一連の流れでは、地域外へのアピールが不可欠である一方で、自治体は元来、それを得意としていない。また、そもそも曖昧な概念である関係人口から、曖昧さを取り除こうとする過程でジレンマが生じている。そこで求められるのが、実態把握のための調査と民間事業者との連携というわけである。
では、具体的にどのような連携が可能なのか。本稿では、和歌山市とシナジーマーケティング株式会社の先行事例から、スキームや成果、今後の議論のポイントを探ってみることとしたい。
転出後も若者とつながる
和歌山県は、過去に約40年連続で高校生の県外進学率が全国ワースト1位という、若者流出を巡る大きな課題を抱えてきた。近年、県と和歌山市が連携した大学誘致の取組などを通してその流出率は低下し状況は改善したが、とはいえ、高校卒業後の進学者のうち約80%が県外へ進学しているという状況があった。
そこで、和歌山市は、2022年10月にシナジーマーケティング株式会社と連携協定を締結し、関係人口創出モデルの実証事業を開始した。2023年2月には「FAVTOWN wakayama」のサービスを開始し、同年10月から本格運用へと移行している(*2)。
シナジーマーケティング株式会社は、2023年2月に、「地元が好き」という想いで人と地域をつなぐ、ふるさとファンメディア「FAVTOWN」を立ち上げた。進学や就職で地元を離れた若者が、ふるさとと関わり続けるためのきっかけを届けるという事業目的のもと、自治体や企業と連携し、定期的にふるさと登録した自治体の産品が届く「ふるさと便」や、地域の魅力発信を通して、関係人口創出、UIターン創出に取り組んでいる。

図1は、FAVTOWNの概要である。登録者は、ふるさと登録した自治体(出身自治体以外も含め、3自治体登録可能)から、新生活を応援するギフトがもらえたり、企業見学や地域のお祭りへの招待といった会員限定のイベントに参加することができたりする。結果、遠方にいながらも、地元を含む縁ある地域とのつながりをもつことができるというわけだ。
シナジーマーケティング、そして自治体はそうしてつながりをつくった若者を中心とする会員に対して、定期的なアンケート調査を実施したり、施策への意見を募ったりすることで、実態把握が難しい関係人口、とくに地元を離れた後も、地元とつながり続けたいというUターン潜在層の実態を把握している。自治体単独では難しい地域外に住む関係人口に対して、マーケティング会社ならではのデータ収集・分析の強みを生かしてアプローチしているというわけである。
登録者を対象とした調査から見えてきたこと
では、具体的に調査からどのようなことが見えてきたのか。その結果は、どのような施策への含意を有しているのか。今回、2026年に和歌山市とシナジーマーケティング株式会社が、和歌山県内の自治体をFAVTOWN上でふるさと登録している会員397人を対象に行なったWEB調査(FAVTOWN内で案内)の結果から、その実態と成果をみていくこととしたい。ちなみに、回答者のうち、和歌山市に移住した登録者は61人である。
なお、気になる点として、回答者の母集団がどのような集団かという点があるだろう。この点については、和歌山市サイドでは、和歌山市内の高校を中心に卒業前のタイミングでFAVTOWNの周知を行い、地元を離れる前に登録を促している。教育現場と密に連携したこのアプローチは企業には難しく、行政だからこそできるアプローチだ。一方で、シナジーマーケティング社は、Instagramでの広告掲載などを行っている。ターゲティングを行い、若者層を中心にアピールを行っており、行政では難しく、得意としない部分を民間企業ならではの専門性を生かして実施している。このことから、基本的にFAVTOWNの登録者は地域とのつながりやUIターンに前向きな層であるという事実は、押さえておく必要があるだろう。
FAVTOWNは移住をどのように後押ししたのか
はじめに、FAVTOWN登録者のうち、和歌山市に移住した61人の実態をみてみよう。今回の調査は、毎年FAVTOWN会員へ実施する移住に関する定点的な効果測定及び移住に関する移住者・非移住者の動向調査においてこれまでの項目に「FAVTOWNが、和歌山市への移住判断をどのように後押ししたか。後押しを強く感じた人に、属性や引越し理由の偏りが見られるか。」の項目を加え、実施されたものである。
回答者61人の属性は、男性が20人、女性が40人、その他が1人である。職業は、学生が13人、新社会人が22人、その他社会人が26人である。移住動機は仕事関連が中心であった。
調査の結果、回答者61人のうち67.2%(41人)が、FAVTOWNによる何らかの後押しを感じたと回答した。

最も多かった後押しは、「歓迎されている安心感で前向きになれた」(28人, 45.9%)であり、FAVTOWNを通じた接点の維持が、地域から受け入れられている感覚や安心感と関係していることが示唆された。また、中には「就職活動の一歩になった」(7人, 11.5%)という回答者もいた。この結果から、関係人口創出を目的とするオンライン・プラットフォームを通して、現地企業への関心や応募につながった事例が確認された点は重要な知見である。
移住の決め手は補助金よりも「つながり」
では一体、登録者のうち和歌山市に移住した人々は、何が移住の決め手となっていたのだろうか。調査から見えてきたのは、「この地域が好き」「地縁・ゆかり」といった地域とのつながりや地域への前向きな感情が重要な要因であるという点だ。移住の決め手として最も多かったのは「地縁・ゆかり」(34人)であり、そのうち76.5%がFAVTOWNをきっかけに前向きになった、または就職活動の一歩になったと回答していた。次いで「この地域が好き」(26人)も73.1%と高く、地域への好意や既存のつながりが、移住判断を支える基盤になっていたことがうかがえる。

一方、「補助金・助成」は回答数が1人にとどまっていた。これは、移住の決め手が経済的・制度的支援ではなく、地域との関係性や感情的な部分に大きく依っていることを示唆している(*4)。筆者らが過去に行った別自治体での類似の調査(*5)においても、支援施策を動機とするものは極めてわずかであった。国や自治体は現在も金銭的支援策の拡充を進めているが、少なくとも本調査では、補助金・助成が移住の決め手として挙げられることは少なかった。こうした実態も、意外と現場感覚ではわかりづらく、調査によって顕在化するものだろう。
県外在住者の約9割が和歌山への移住を選択肢に
つづいて、県外在住者の和歌山県へのUIターン意向をみてみよう。対象は200人で、内訳は、和歌山県内出身で県外へ移住した者が83人、和歌山県外出身で県外在住の117人である。県内出身の県外在住者から83人の回答が集まっている点はポイントであり、自治体としては、いかに出身者と転出後もつながりつづけるかが大きな課題となっている。なぜ出ていったのか、地元に帰りたいと思っているのかいないのか、その実態は属性によって異なるのか、こうした点を捉えることは重要である。
調査の結果、和歌山県外に住む設問回答者197人のうち、「移住したい・帰りたい」が121人(61.4%)、「条件次第」が57人(28.9%)、「考えていない」が19人(9.6%)であった。つまり、条件つきを含めると、約9割が和歌山への移住に前向きだといえる。これは、一般的な転出者の傾向を代表する結果ではないと考えられるが、逆に言えば、和歌山県へのUIターンに積極的な層と確実につながれていることを示す結果だとも言える。
また、注目すべき点として、男女間のUターン意向にわずかだが差がある点も挙げられる。男性の帰りたい率は65.9%なのに対して、女性は57.9%となっている。近年、地方創生政策においてもUターンを阻むアンコンシャス・バイアスの問題が指摘されている。比較的、UIターンに前向きな集団を対象とした場合にも、女性のUターンをめぐっては、就業機会に加え、地域のジェンダー規範や暮らしやすさも今後検討すべき重要な論点となるだろう。
短期ではなく、中長期の成果を目指す
調査では、「いつ和歌山県に移住したいか(移住したいか)」も尋ねた。その結果、希望時期は、「2〜4年以内」と「いつか(時期未定)」がいずれも58人(32.6%)で並び、比較的近い時期(1年以内・良い条件があればすぐ)は合わせて28人(15.7%)にとどまるという結果であった。

回答者に占める学生の割合が59%と高いため、大学卒業等のタイミングを見据えての回答が多いことが示唆されるが、この結果は、予算編成や地方創生におけるKPI導入との関連で、昨今とくに短期的な成果が求められる関係人口政策、移住政策に対して中長期的な視野で取り組むべきである、と警鐘を鳴らすもののように思える。移住行動はライフステージの変化との関連が大きい。そのため、こうした実態を把握・可視化することは、短期的な成果が求められるなかで、中長期的に取り組む意義を庁内や議会に説明する根拠となるだろう。
関係構築だけでなく、途絶えさせない政策へ
関係人口政策は、「つながりづくり政策」や「ファンづくり政策」と呼ばれることもある。では一体、私たちはどんな人、組織とつながりたいと思い、ファンになりたいと思うだろうか。「この地域・人と付き合うとこんなメリットがある」といった合理的・実利的な理由もあるだろうが、今回の調査結果が示唆しているのは、「この地域から必要とされているんだ、歓迎されているんだ」と感じられること自体の重要性である。
最後に、今回の事例から得られる具体的な学びを、いくつか挙げてみることとしたい。たとえば、行政としては地元を離れた後につながりをつくろうとするのではなく、転出を否定せず、地域外で経験を積むことを後押ししながらも、それでも「いつか戻ってきてほしい」という姿勢であらかじめ関係を形成していくことが求められる。つまり、転出前から接点を設計し、転出後も関係を切らさない仕組みを整えることが重要なのだ。高校や大学、地元企業、地元メディアなどと連携して登録を促し、その上で受動的であっても自然と地域の情報が届く、といった具合である。ふるさと住民登録制度が本格化していくなかでは、こうした継続的な接点づくりがますます鍵となるだろう。
そして忘れてはならないのは、政策上の時間感覚と、関係人口・移住希望者の生活上の時間感覚には大きな差があるということである。関係人口政策に限らず、関係をつくるには時間がかかる一方で、関係が途切れるのは一瞬である。実際、移住は進学、就職、転職、結婚、子育て、子どもの進学、住宅購入など、ライフステージの変化と深く結びついている。そうした機会は、頻繁には訪れない。
だからこそ、すぐに成果を求めたくなるところを堪え、どれだけ中長期的な目線で、実際の移動者の時間感覚に寄り添って関係を継続できるかが問われている。そして、こうした時間がかかることを理解してもらうためにも、本稿で見てきた通り、定点的な実態把握が重要なのである。関係人口政策に必要なのは、短期的な関係人口や移住者数だけを追うことではなく、人と地域との関係がどのように維持され、どのタイミングで具体的な行動へと変化するのかを、継続的に捉えていく視点である。官民連携によって継続的な接点と実態把握を支えることが、関係をつくるだけでなく、途絶えさせない政策につながっていくだろう。
謝辞
本稿が参照している調査は、和歌山市とシナジーマーケティング株式会社が共同で実施したものである。筆者は、調査項目の設計や分析にアドバイザーとして関わった。データの利用については、両組織より了承を得ている。また、和歌山市とシナジーマーケティング株式会社の連携に関する説明は、筆者と両組織が登壇したセミナー「関係人口ラボ #1 関係人口、その先へ―移住・Uターンはどう生まれるか~和歌山市の歩みから~」で語られた内容を参考にしている。セミナーの模様については、下記URLから視聴可能である。https://www.gdx.or.jp/works/kankei1.html
本稿の執筆に至る過程でご協力いただいたすべての関係者の皆さまに感謝申し上げます。
注釈
*1) そこには『過疎ビジネス』で描かれたようなリスクがあることも忘れてはいけない。
*2) https://www.city.wakayama.wakayama.jp/shisei/hasshin/1001156/1049491/1052755/1052762.html
*3) シナジーマーケティング株式会社から提供
*4) この点は、20代の若年層、未婚者層が回答者で多いことと関連しているかもしれない。子育て世代や住宅購入希望者の場合、より補助金や助成金を意識する可能性は高い。
*5) 具体名をあげることはできないが、筆者が福岡県の人口10万人規模の自治体と連携して行った調査などで、類似した結果が得られた。
参考文献
・伊藤将人, 包薩日娜, 堂免隆浩(2025)「地方移住促進施策と地方創生の調査研究に関する報告書」.
2026年9月発行