2018.11.13

OPINION PAPER_No.23(18-006)「人口減少社会における地域×ビジネス 人が集まる地域づくり」

OPINION PAPER No.23(18-006)

人口減少社会における地域×ビジネス 人が集まる地域づくり

櫻井美穂子(国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)

◆ 人口減少と地域

21世紀は「都市」の時代といわれる。1950年に世界人口の30%が都市圏に住んでいたのに対し、2050年には68%が都市圏に住むと予想されている(*i)。

日本国内においてもこのトレンドが当てはまる。日本の総人口は2008年にピークを迎え、その後減少に転じたが、地域ごとのデータを見ると、それ以前に戦後人口のピークを迎えたところが多い。

1955年から1995年の間に人口減少に転じたのは全国で13県、1995年から2015年の間では36県に増加した(*ii)。出生率は大都市ほど低いことを鑑みると、地方から大都市圏への人口流出現象が顕著であることが分かる。1955年と比較すると、大都市圏とそれ以外の地域の人口割合は逆転している(図1)。図中の■線で示した三大都市圏は、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)、名古屋圏(愛知、岐阜、三重)および大阪圏(大阪、兵庫、京都、奈良)を指す。

 

図1 地域別総人口割合の推移および推移予測(*iii)

 

藤田他(2018)は、大都市の成長は、規模の経済を背景とした市場メカニズムによって達成される一方で、人口流出の起こる地方ではその恩恵を享受できないため、地方では、市場の力を借りつつもそれを補完する何か、具体的には「地域コミュニティ」が果たす役割が大きいと説いている。

日本政府においては、情報提供(共有)・人材育成・財政支援を柱とする地方創生策を打ち出している。一方で、地域コミュニティを核とした「まち」を稼ぐツールとして捉え、地域の自立を目指すアプローチもある(木下、2015(*iv) )。国等の補助金に頼らずに、徹底的な経費削減に加え、地域にある既存リソース(公共施設や商店街)の有効活用が価値を生み出す。

◆ 持続可能な社会を支えるTriple bottom line

ここで、地域の再生を別の視点から捉えてみたい。「持続可能な社会」という考え方がある。もともとは、有限な地球資源へ工業社会が与える影響への危惧から提唱された概念であり(*v)、環境に配慮した優しい社会を指す言葉として定着した。近年は、都市部への人口流入という世界的潮流を受けて、人口増がもたらす様々な都市課題(大気汚染、ゴミ処理、住環境および交通網整備等)を情報技術の利活用により解決する「スマートシティ」の文脈で語られることもある。

経営学では、持続可能な社会を経済、環境、社会の3つの概念軸によるトリプルボトムラインとしてとらえる(*vi)。この3つの持続可能性が実現して初めてサステイナブルが達成される(図2)。

経済的な持続性のためには該当地域において商品やサービスを創造あるいは提供し、対価を得る仕組みをつくる必要がある。地域資源の商品化の事例としては、徳島県上勝町の葉っぱビジネス「いろどり」が有名だ。

環境の持続のためには、できる限り地球環境に負担をかけない形での活動を心がける必要がある。富山市では“コンパクトシティ”を掲げて、車がなくとも市街地を便利に移動できる交通網の整備に取り組んでいる。

そして、社会の持続性のためには、そこに住んでいる「人」を中心とした、先に登場した地域コミュニティの構築と運営が鍵となる。東日本大震災からの地域復興では、女川町や釜石市等で地域コミュニティを起点とした取り組みが注目されている。

 

図2 Triple bottom line

 

トリプルボトムラインの3つの軸を満たす事例として、民間主導で持続可能な街づくりを進めるパナソニックの例を紹介したい。今年創業100周年を迎えるパナソニックは、2014年から街づくりの領域でビジネスを展開している。神奈川県藤沢市で操業していた19ヘクタール(約19万平方メートル)に及ぶ工場跡地に、約1,000戸の戸建て住宅及び商業施設と集合住宅などを建設し、計画人口約3,000人のスマートタウンを誕生させた。

「100年続く」「くらし起点」の街づくりをコアコンセプトとして、エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティの5つの分野でサービスが提供されている。ビジネスとして街づくりに取り組むにあたり、パナソニックは、工場で製造した商品を販売する従来型のビジネスモデルとは異なる新たなモデルを構築する必要があった。5つの分野でのサービス提供をパナソニック1社で行うことは不可能だったため、他業種18団体との協働によるまちづくり協議会が組織化された。

新たなビジネスモデルは、タウンサービスの概念に基づいた「場」を抑えることで収益を生み出し、経済的な持続性の柱となった。スマートタウン内の住居で利用される家電等は、省エネ対応の商品が使われている。街内部の移動はできるだけ自動車に依存しない設計であり、環境への配慮も十分なされている。多様なサービスを通じた住民コミュニティの形成にも力を入れている。100年続く街を、サービス提供による収益性、環境配慮、および住民コミュニティの力で達成しようとする意欲的な取り組みである。

◆ 「地域×ビジネス」を成功させるには

トリプルボトムライン概念を基に、持続(自立)可能な地域を実現するためのアプローチを類型化すると、次のように考えることができる。

①地域の空間資源・コンテンツにより人を呼び込む
岩手県紫波町では、バレーボール専用体育館を呼び水として全日本チームの誘致に成功した。地域にある空間資源×コンテンツ(*vii)を武器に人とお金の流れを変えることができる。

②民間によるサービス提供を促進する
人口減少に直面する地域でも、ある程度人口を集約することで民間のサービス提供によるビジネスモデルが成立する。

③協働によるエコシステムを作る
上記①②の方策では、多様なステークホルダーとの協働が重要となる。個人や企業の専門性を有効活用できるエコシステムが事業成功の鍵となる。

④IT活用可能業種へ積極的に投資する
人手不足に悩む地場産業でITが活用可能な業種には積極的に投資する。筆者が数年働いていた北欧のノルウェーは、人口規模が500万人と小さいものの、ITの利活用により人手不足をカバーしていた。例えば、税務署、市役所や銀行等のサービスは基本的にインターネットか電話で受け付ける。窓口対応の概念が強くなく、実際に役所に足を運んでもネットでの手続きを強く推奨される。

アプローチは単一の定型的なものではなく、多様なものの組み合わせが効果を持つ。前述のパナソニックの例でも、人を集める地域づくりによってビジネスモデルが成り立っている。「地域×ビジネス」の今後の展開に注目したい。

*i  United Nations, Department of Economic and Social Affairs, World Urbanization Prospects: The 2018 Revision. (https://population.un.org/wup/Publications/Files/WUP2018-KeyFacts.pdf)
*ii  藤田昌久、浜口伸明、亀山嘉大(2018)『復興の空間経済学 人口減少時代の地域再生』日本経済新聞社出版
*iii  総務省 平成24年版情報通信白書。
*iv  木下斉(2015)『稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則』NHK出版新書
*v  Milne, M. J., & Gray, R. (2013). W(h)ither ecology? The triple bottom line, the global reporting initiative,
and corporate sustainability reporting. Journal of business ethics, 118(1), 13-29.
*vi  Elkington, J. (1997). Cannibals with forks: The triple bottom line of 21st century business. Oxford:Capstone Publishing.
*vii  岩手県紫波町「オガールプロジェクト」補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図(https://www.huffingtonpost.jp/2014/09/10/shiwa_n_5795002.html

2018年11月発行

  • totop