2016.12.01

OPINION PAPER_No.7(16-007)「シェアリングエコノミー育成は「大都市のシェアリングシティ化」から」

OPINION PAPER No.7(16-007)

シェアリングエコノミー育成は「大都市のシェアリングシティ化」から

庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員/准教授)
川崎のぞみ(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)

シェアリングエコノミーが、日本国内でも広がりつつある。その国内市場規模は、2016年には360億円に達する見込みである(*i)。本稿では、シェアリングエコノミーの展開の海外事例を比較検討し、また、国内事例と発展の経緯等を俯瞰することを通じて、今後の国内展開に向けた提言を行う。

◆ シェアリングエコノミーとは何か

総務省は、「シェアリングエコノミー」の定義を「典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービス」とし、「貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。貸し借りが成立するためには信頼関係の担保が必要であるが、そのためにソーシャルメディアの特性である情報交換に基づく緩やかなコミュニティの機能を活用することができる」ものだと説明している(*ii)。共感や助け合い等の心理的な側面を脇に置けば、シェアリングエコノミーとは、どこに何があるかを細かく識別したうえで、稼働状況を把握し、多様なニーズとマッチングすることにより、様々なモノの稼働率向上・有効活用を可能にするものである。

こうしたサービスが登場した背景には、ソーシャルメディアやスマートフォン、センサー機器の普及といったICTの発達の影響も大きく、加えて、先進国の経済成長鈍化と格差の拡大、生活様式の多様化や環境への配慮等の価値観の変化等がある。シェアの対象は、モノ、空間、お金、スキルなど、あらゆるものに広がっている。

2016年にピュー・リサーチ・センターが米国の成人男女4,847人を対象に行った調査(*iii)では、個人が自家用車に他人を乗せて目的地まで送る「ライドシェア」利用者の年齢中央値は33歳、個人宅の空き部屋等に他人を泊める「ホームシェア」利用者の年齢中央値は42歳であった。どちらも大都市とその周辺に住む大卒以上の高収入層の利用が多く、お金のない若者が中心ではないことが明らかになっている。

一方、シェアリングサービスの担い手には、フルタイムの仕事に就くことが難しい人々が含まれている。彼らに収入がもたらされることが社会的な安全網となる反面、社会保険や退職金などがないため、働けなくなると無収入に陥るリスクがある。待遇改善を求める団体交渉もできない。こうした不安定性については、「サービスの成立に不可欠な『提供者』にも経営権を分け与え、利益を分配するべきではないか」という批判があり、「プラットフォーム・コーポラティビズム」と呼ばれるこれらの意見は、主に米ニュースクール大学の教授らが提起している(*iv)。

サービスの安全性や犯罪については、すでに欧米で事件や訴訟が起きており、安全確保のための厳格な基準を順守している既存タクシー・ホテル業界等からの反発もある。シェアリングサービスが普及するためには、安全性の確保と、既存業界・行政・社会が折り合う制度作りが求められる。

◆ 海外の「シェアリングシティ」

シェアリングエコノミーは、ヒト・モノ・カネを活用し、都市の持続可能性を高める政策としても注目されている。海外の「シェアリングシティ」事例から3つの類型を考察する。

アメリカでは、UberやAirbnbなどが大企業に急成長し、世界中に展開している。タクシー業界のデモなどはあるが、創業地のサンフランシスコではすでに市民に浸透しており、市はこれに追随して2012年にワーキンググループを設置、障害となる条例や制度の調査・改正を始めた。2013年には全米市長会議でシェアリングエコノミー推進が承認され、「企業主導型」で進んでいる。

一方、韓国のソウルは「行政主導型」である。市長主導で2012年に世界初の「シェアリングシティ」を宣言・制定した「共有促進条例」に基づき、都市政策として企業・地域社会・学校への導入を進めている。企業・団体には情報提供や財政支援、学校では体験授業や普及啓発等を行っている。市が認証するカーシェア事業「ナヌムカー」では、公共施設の駐車場を利用地点として事業者に提供する代わりに障害者割引を設けさせ、社会福祉の一端を担う。また、公共施設の空室や備品を安価に貸すほか、文書のオープンデータ提供も行っている。障害となる条例を調査・改正する専門チームを設置し、産業と雇用の創出、社会福祉の向上、モノやサービスの利便性向上、駐車場不足や渋滞の解消、環境保護等の効果を見込んでいる。

オランダのアムステルダムも2015年に「シェアリングシティ宣言」をした。ソウルとは、ソフト・ハード両面のインフラが整う人口過密都市である点が共通している。仕掛けたのは2013年に市民により設立された「ShareNL」である。彼らの意識調査で84%の市民がシェアに積極的だと分かり、2009年からスマートシティに取り組むアムステルダム経済委員会とともに本格的にプロジェクトを開始した(*v)。また、市はAirbnbと協定を結び、利用者が宿泊税の納税と併せ、希望に応じて寄付も行える制度を始めた。アムステルダムは「市民主導型」といえよう。

以上のように、先進的な3都市は、主な担い手が異なり、発展の仕方にも差異がある。

◆ 日本での展開

国内では2016年が「シェアリングシティ元年」といえる。大田区(2月)と大阪府(4月)は国家戦略特区として民泊事業を開始した。2月からは都内4区が合同(10月から5区)で「自転車シェアリング広域実験」を開始(*vi)。5月には京丹後市がUberと提携して「ささえ合い交通」を開始し、タクシー会社が撤退した地方の公共交通を代替している。8月1日には宮崎県日南市がシェアリングシティを宣言し、スキルシェアサービスのエニタイムズと共に「ご近所お手伝いサービス」を開始した。

これらは地方自治体単位の散発的な試みだが、2015年12月に発足した「シェアリングエコノミー協会」では、内閣官房IT総合戦略本部や観光庁・厚生労働省・経済産業省等と協議し、業界全体のガイドライン制定を進めている。4月の改正旅館業法で規制緩和された民泊については、さらに包括的な新法が準備中だが、一方で、東京都台東区や長野県軽井沢町は民泊を禁止する条例を制定している。日本のシェアリングエコノミーは、行政の関与が比較的強く、社会課題解決志向が強いといえる。

◆ 最後に

一般の人々の受け止め方はどうか。総務省・みずほ情報総研の報告によると、ライドシェア、民泊ともに「利用したくない」「あまり利用したくない」との回答が4分の3にのぼり、年代が上がるほどこの傾向が強い(*vii)。いずれも「不安」が原因である。安全性に対する不安感の除去が課題だ。

国内の事例は、眼前の地域課題解決への志向が強く、小規模で、対症療法的である。中長期的な社会変化としてシェアリングエコノミーを位置づけていくには、包括的なビジョンと政策、ビジネスを育てるための取引量増加が不可欠だ。特に本格的なビジネス展開のためには、大卒以上・高収入層の多い大都市とその周辺での実施が求められる。

*i 矢野経済研究所(2016)プレスリリース「シェアリングエコノミー(共有経済)市場に関する調査を実施 (2016年) ~訪日外国人客によるシェアリングエコノミーサービスの利用が拡大~」
*ii 総務省・みずほ情報総研(2015)「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究-報告書-」
*iii Pew Research center, ( May 19, 2016) ,“Shared, Collaborative and On Demand: The New Digital Economy.”
*iv 瀧口範子(2015年11月12日)「シェアリングエコノミーに異議を唱える『Platform Cooperativism』(瀧口範子のシリコンバレー通信)」、『IT Pro』日経BP社.
*v ShareNL, (October 13, 2015), “Opportunities and Challenges for European Cities: ‘Amsterdam Sharing City.”
*vi 東京都(2016年4月14日)報道発表資料「自転車シェアリング「広域実験」の実施状況について」
*vii 総務省、前掲書。

2016年12月発行

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