2017.10.02

OPINION PAPER_No.16(17-007)「デジタルグリッドで加速する第4次産業革命」

OPINION PAPER No.16(17-007)

デジタルグリッドで加速する第4次産業革命

砂田薫(国際大学GLOCOM主幹研究員)

デジタルグリッドが実用化に向けて着実に動き出している。2011年から2014年にかけて国際大学GLOCOMが主催したフューチャー・テクノロジー・マネジメント(FTM)フォーラムでは、スマート社会について議論を行い、「地域が主体となって再生可能エネルギーを中心とする自律分散型エネルギー・エコシステムに転換すべきである」と提言した。それを実現する中核技術として注目したのが、阿部力也氏が提唱するデジタルグリッドだった。既存の電力系統とは全く異なるアイデアであるが、現在では大手電力会社も実証実験に参加し、産官学共同プロジェクトが各地で実施されるまでになっている。

筆者は、デジタルグリッドを新たに始まりつつある第4次産業革命(*i)を支える基盤技術と位置づけて、推進していくべきだと考えている。以下、そう主張する理由について、GPT(General Purpose Technology)と社会インフラの視点から産業革命を分析することで示したい。

◆ 社会インフラを構成する4分野とGPT

産業革命を特徴づけるのは、蒸気機関・電気・コンピュータといった、時代によって中核となる技術が存在するという点にある。なかでも、長期間にわたって経済や社会の構造を根本から変化させる汎用的な技術はGPTと呼ばれている。Richard G. Lipseyらは、GPTには紀元前9000年頃の「植物の栽培」から21世紀の「ナノテクノロジー」に至るまで計24の技術があると指摘し、それらを鉄道・自動車・コンピュータ等の「プロダクト」、バイオテクノロジー・ナノテクノロジー等の「プロセス」、工場制度・大量生産・リーン生産といった「組織」の3種類に分類した。

筆者は、24のGPTが「情報・コミュニケーション」「動力・エネルギー」「移動・輸送」「生命・生物(食・医療・環境)」という4分野に大分類できることに気づき、産業革命の分析にあたってはむしろ社会インフラを構成するこの4分野に注目すべきではないかと考えた。そのうえで18世紀後半以降の技術の変遷を整理したのが下の表である。表からは、第一に、蒸気を動力とする移動手段(鉄道)の登場にみられるように、4分野の間での横断的な新結合が経済と社会を変えるようなイノベーションに結びついていること、第二に、どの時代でもイノベーション原理となる組織のGPTが生まれていること、の2つが重要なポイントであることがわかる。

 

表 産業革命を支える社会インフレとGPT(General Purpose Technology)
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◆ 分野横断の新結合を促す技術と組織

<p第4次産業革命を進行させるGPTを現時点で見極めるのは難しいが、イノベーション原理がデジタル化へ、自律分散協調型へ、生産と消費の近接へ、共有型経済へ、限界費用の低減へと変化していく流れをもはや止めることはできないだろう。とすれば、その原理に親和的な技術と組織への移行が求められるわけで、デジタルグリッドはまさにその両方の変革を促す基盤技術である。

ジェレミー・リフキンは、コミュニケーション、エネルギー、輸送の3つのインターネットがIoTインフラとして統合されていき、共有型経済と限界費用ゼロの社会が到来すると予測した。ドイツがインダストリ4.0、脱化石燃料・脱原子力、ガソリン車とディーゼル車の廃止などの政策を次々と打ち出した背景には、地球環境問題だけでなく、3分野の結合を促す狙いがあるとみられ、イノベーション戦略としても理にかなっている。(ただし、筆者はその3分野に加えて生命・生物分野も社会インフラに含めるべきだと考えており、とりわけ第4次産業革命が進行した段階では同分野で重要な新結合が生まれると予想している)。

すでに日本においても、自動走行車、電気自動車、水素自動車、ブロックチェーンによる電力取引、農業や漁業のIoT化など、分野横断の取り組みが進みつつあるが、総じてデジタル化への変革は遅れていると言わざるをえないだろう。日本は20世紀後半に第2次産業革命から第3次産業革命へと一気に進んだのが特徴で、トヨタ自動車がリーン生産というGPTを生み出すほどの高度化を達成した。しかし一方で、その過程で構築された社会インフラやイノベーション原理が広く深く浸透し、変革の妨げとなっているのである。

現在日本では、情報・コミュニケーションと移動・輸送の2分野における技術開発と技術融合が活発になっている。変革の遅れを取り戻すためには、それに加えて動力・エネルギー分野のデジタル化と自律分散化が突破口になる。ローカルで手軽な発電は新産業の誕生を促す。また、電気が豊穣で安価になれば、ビッグデータやAIの進展でボトルネックとなっているコンピュータの電力問題の解消も期待される。その可能性をもつデジタルグリッドは日本の第4次産業革命を加速させることになるだろう。

*i 新たに始まりつつある産業革命を「第4次」と位置付けるかどうかの見解は統一していない。ジェレミー・リフキンは「第3次産業革命」と呼んでいるし、Carlota Perezは1771年に始まった「産業革命」から1971年以降の「情報通信の時代」までを5つの段階に分けている。

参考文献・URL:
・阿部力也(2016)『デジタルグリッド』、エネルギーフォーラム

・阿部力也(2017)「『限界費用ゼロ社会』の基盤をつくる再生可能エネルギー」http://gentosha-go.com/articles/-/7428

・経済産業省(2016)「『新産業構造ビジョン』~第四次産業革命をリードする日本の戦略~」、新産業構造部会中間整理 http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/008_05_01.pdf

・ジェレミー・リフキン著(柴田裕之訳)(2015)『限界費用ゼロ社会<モノのインターネット>と共有型経済の台頭』、NHK出版

・平沼光(2015)「限界費用ゼロが引き起こすエネルギー・ゲームチェンジ」、東京財団メールマガジンVol.586
https://www.tkfd.or.jp/files/doc/20150521hiranuma.pdf

・Carlota Perez(2006). Respecialisation and the Deployment of the ICT paradigm: An essay on the present challenges of globalization. in Compaño et al., The Future of the Information Society in Europe: Contributions to the Debate, Technical Report EUR 22353 EN, Table 1, pp. 35-36.

・Richard G. Lipsey, Kenneth I. Carlaw, and Clifford T. Bekar, (2005). Economic Transformations: General Purpose Technologies and Long Term Economic Growth., Oxford University Press, p.132.

2017年10月発行

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