ICTの教育活用 第2回議員勉強会

イベントレポート


レポート概要

本勉強会は、主に地方議会の議員が、教育情報化をテーマとした議会質問に役立てるために、年に数回開催している。今回は、6月25日に経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会の二次提言を取りまとめた経済産業省・浅野大介サービス政策課長をお招きした。

イベントの冒頭では、渋谷区議会議員 鈴木けんぽう氏が講演を行った。「学習のつまずきの背景をとらえ、学びを⽀えるためのテスト」を実施したところ、渋谷区の普通学級の2〜10%の生徒が、「⽂字を読むこと・⽂字を書くこと・⼿書きの計算」に障害がある可能性があることが明らかとなった。普通学級に通う児童の一部には、自分も知らないような障害があり、勉強が進まず、点数が取れていないということを強く示唆する調査結果となった。ICT技術を活用することで、この状況を補助することを提案した。

また、国際大学GLOCOM主幹研究員 豊福晋平の講演では、中学校にChromebookを導入するようになってから学習効率が向上し、授業でもより高度な内容に取り組める事例を紹介した。

経済産業省の浅野大介氏の講演では、「すぐそこにある未来」の社会として、第四次産業革命、グローバル化、働き方改革・1億総活躍のキーワードを挙げ、そうした社会に対応できるための「未来の教室」プラットフォームを紹介した。講演後は、質疑応答が行われ、理解を深めた。

 


渋谷区議会議員 鈴木けんぽう『普通学級の読字・書字・計算障害 渋谷区調査のご紹介』

この勉強会は、「ICTを教育に使っていく」という立場で勉強をすることを趣旨としており、今年8月に始まって今回で2回目となる。1回目は、文部科学省と経済産業省が同じ日に教育に関する報告書を出しており、これをもとに教育の現状と、それをどう変えるべきなのかについて議論を行った。また、渋谷区は一人に一台タブレットを配布するようになって3年目となるので、この2年間の経過を報告した。2回目となる今回は、利用者だけではなくステークホルダーを幅広く取り、地域、保護者、行政がタブレット配布を決定したときに皆が納得できるような教育のあり方を検討するべく、浅野大介氏を招いて議論することとなった。

現在はICT技術を教育に取り入れることについて、停滞していると言わざるを得ず、その意味では大きな岐路に立っているといえる。渋谷区も2020年9月には次期システムの導入が決定している。3年間で他の自治体が追従しているとはいえず、また渋谷区内でも非常に進んだ教育をしているところとなかなか進められていない学校の差が広がってきている。政治の側が地方のリーダーとして後押しをしていく必要がある。

 

渋谷区の普通学級における読字・書字・計算障害についての調査結果を紹介する。渋⾕区が東京⼤学先端科学技術センターに委託して実施した「学習のつまずきの背景をとらえ、学びを⽀えるためのテスト」では、普通学級の2〜10%の生徒が、「⽂字を読むこと・⽂字を書くこと・⼿書きの計算」に障害がある可能性があることが明らかとなった。

普通学級に通う児童の一部には、自分も知らないような障害があり、勉強が進まず、点数が取れていないということを強く示唆する調査結果となった。他の地域でも同じような調査をしてほしいと思い、今回紹介した。

このテストは平成29年9月12月の渋谷区内の全生徒に何回か繰り返して検証した。具体的な調査方法として、例えば漢字の書字障害を調べるテストでは、実際に漢字を書かせる問題と、同じ内容だが選択肢で答える問題を用意し、2つのテストで顕著に点数に違いがあれば、正確に形が書けないことに問題があると推察される。

ここで判別される読字・書字・計算障害は、タブレットや計算機の補助を使うことでかなりの部分が解消できると考えられる。読字障害なら字の拡大やハイライト機能や白黒反転機能、読み上げ機能の利用、書字障害なら音声入力機能の利用、計算障害なら計算機の利用で各課題は解決されるだろう。
視力の弱い生徒が眼鏡を使うように、書字障害などの個人の努力の及ばないつまずきによって勉強ができない子供でも、補助を使うことで本来の能力が発揮でき、自尊心も傷つけられず、高度で深い内容の勉強に取り組める可能性がある。なお、このテストは検査ではないので確定診断ではなく、各自治体の状況によって結果は異なる可能性がある。タブレット使用については、スティグマにならないように留意が必要で、この調査の教員や周囲の方の啓発も考えるべきだ。

 

国際大学GLOCOM主幹研究員 豊福晋平 『教育の情報化 最近の動向』

2019年8月に文科省から概算要求が出された。「GIGAスクールネットワーク構想」の要求額が374億7,300万円、付随する「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」は19億4,900万円だ。文科省が握っている予算は多くなく、ほとんどが総務省から出ている。文科省は新しい取り組みを企業と組んで行っている。インターネットを使った遠隔教育システム、学習者一人一台の端末活用、現在大学・研究機関でのみ使われている学術ネットワークであるSINETの初中等教育への開放、ICT活用アドバイザーなどが含まれている。

最近の学校の現場では、2019年11月8日には渋谷区内の全小中学校で、3~4校時に授業公開(上原小・中以外)、午後に上原小・中授業公開・研究発表会が行われる。北海道教育大学附属函館中学校では、生徒314名に一人一台Chromebookを保護者に斡旋購入させるようになってから3年目となる。日常連絡や探究活動、卒論執筆で活用されるキー入力の速度も平均12字から60字/分に向上し、要約や引用のスキルも育成されている。スキルを積むと授業でもより高度なことができるようになる。

今年9月にはG20関連イベントとなるシンポジウムが国連大学で行われた。「Education 2030 Learning Compass」の説明がなされ、シュライヒャー局長が2030年に向けて教育がどう変わらなければならないのかを語った。通信制の高校であるN高校は開校3年目となり在学者が1万人を超え、中学校も開校されることが発表された。米Common Sense Education財団が情報モラルの教材となる動画を作成しており、幼稚園児向けから10代向けまでの幅広い対象で合計32本の動画の翻訳が完成した。日本の情報モラル教育が遅れており、何をどこまでキャッチアップすべきかわかるので参考になる。

 

経済産業省 浅野大介『「未来の教室」に向けて~第4次産業革命を活かす学び、そんな時代を生きるための学び~』

「未来の教室(初中等教育)」に必要な要素として、文部科学省の世界である学校教育と、経済産業省の世界である民間教育の世界のベン図を示した。

学習塾やオルタナティブスクール、音楽教室などの民間教育の方が変化のスピードは速いため、これをいかに学校教育に反映させられるかが重要だ。民間と学校教育だけでは現状からあまり変化がないと考えられ、産業界と大学も交えて変化していくことが必要となる。交通・金融・エネルギー・製薬などの産業において、今後ビジネスモデルの変遷が予想されるが、世の中の変化の最前線にいる人たちの知見が常に生徒に届くという環境が必要で、そのためにはITの力が必要だと考えている。

台風19号襲来時に、長野県庁で政府からのリエゾンとして1週間ほど現地の指揮をした。そこで危機のときに現れる日本教育の課題を感じ、ICTの議論をする前にこの議論を考えるべきだと感じた。

被災者の生活支援で、長野県や長野市、周辺市町村と仕事をしていく中で、感じた課題は、「目の前の課題の構造を把握する力」、「様々な組織や専門家をバインドする力」、「解決策のオプションを並べる力」、「ベターなオプションを組み合わせ、試す力」、「走りながら修正を続ける力」である。

体育館に避難して生活している被災者に低体温症とエコノミークラス症候群の危機があるため、国から速やかに段ボールベッドと電気毛布、ストーブ等を送るプッシュ型支援を行ったが現地では受取拒否され、なかなか全員に配備されない状況になっていた。理由として現地の自治体は、体育館ではすでに避難している人がそれぞれのレイアウトで生活をしており、段ボールベッドを置くことで全員が入り切らなくなる恐れがあるからだという。

しかし、実際に体育館の図面をみて計算した人がいるわけではなかった。実際に図面からレイアウトを考えることで、速やかに状況が好転し作業は半日で完了した。また、体育館は暖まりにくい構造になっていることもあり、ジェットヒーターが多用されていたが、国から送られた電気毛布は契約ワット数を超えないか心配されたため、活用されていなかった。実際は簡単な計算で可否が判断でき、解決できるはずだが、誰も計算をしていなかった。また、体育館では200人が生活しており、まず100個の電気毛布が送られたが、全員分が届いていないとの理由で、配布・活用されておらず、またその議論もなされていなかった。学校での知識が活用されず、誰もリーダーシップを取らない現状がある。

ICTは学校教育の課題を解決するのに役立てることができる。チームが長野県内の避難所をまわり、レポートをLINEで写真や文章で即座に共有し、まとめたレポートは政府や地方自治体でも共有された。長野県の保健所の保健師とも連携することになり、現在も2人1組で避難所環境調査を継続し、国への情報共有も続いている。情報収集と共有などを速やかに行うことで、自分が気づかない点に気づくことができ、チームとして高い仕事のレベルを維持出来る。学校という空間は、本来であれば自分で情報収集をし、それらを組み合わせて新しい知を作り出す場であり、そのためにはいろいろな情報機器を使いこなす必要があるだろう。

日本人はよく学んでいるはずなのに、前述のように災害発生時の課題を解決できず、また学びをつまらないと考えてしまう。現状の学びを変えないとイノベーションは起きないと考え、「すぐそこにある未来」の社会として第4次産業革命、グローバル化、働き方改革を意識した教育産業室を立ち上げた。第4次産業革命がさらに進む社会に出ていくためには、課題に向かう当事者性、課題の構造を把握する力、異分野の知を組み合わせて描く力、言語能力・数理能力・デジタルスキル、学び続ける力が必要だ。

また、グローバル化がさらに進む社会に出ていくためには、論理的に魅力、考えを語り、共同できる外国語力、多様性を理解し、尊重できる力、対立点を乗り越えて、調整し切る力が必要だ。ポスト・働き方改革の社会に出ていくときには、集める必要がある人達を集めるべき時に集める力、対面にこだわらずにコミュニケーションできる力が必要だ。そのためには、一人一台のデバイスや5G,クラウドへの接続、メールやチャットツールの活用、各種ツールなど大人と同じ環境を子供の頃から備える必要はあるだろう。

未来の教室を構築するために、今年度は10.6億円の予算を組み「学びと社会の連携促進事業」としてパイロットプロジェクトを回している。その柱は「学びの自立化・個別最適化」、「学びのSTEAM化」、「新しい学習基盤づくり」がある。まず、「学びの自立化・個別最適化」としては、一律・一斉・一方向型授業から、EdTechによる自学自習と学び合いへ移行するもので、一斉に受け身で学ぶ現状の教育から、居場所を選ばず、「多様な内容を多様なペースで、個別に、協働的に、能動的に学ぶことを目指す。「学びのSTEAM化」としては、EdTechによる効率的な知識構築と、十分な時間の探究・プロジェクト学習(PBL)の両立を目指す。実際に、生産性の向上を行い、捻出できた時間を活用してワークショップを実施するという実証事業を行っている。その他にも、スマート農業やMaaS等の分野についてもSTEAM学習プログラムが実証事業として実施されている。これらのプロジェクトを元にSTEAMライブラリを作り、動画コンテンツと指導案の形に落としこんで学校教育に活かすことを進めている。現在、学校に紐付いたSDGsのプロジェクトは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や産業技術総合研究所、NEDO、現在大学などで様々なことが行われているが、教材化されていない。これをベースにして理解するために必要な教科書レベルの勉強にまで誘導できるのではないかと考えている。探求の教材をナショナルプロジェクトと紐付けながら教材化できないかと考えており、できたものはライブラリに配信したい。ナショナルライブラリだけではなく民間企業のライブラリにも流したいと考えている。そのためにも、一人一台PCを配布したい。地方自治体の仕事だが、最初だけは国が負担しても良いのではないかと考えている。しかし、地方自治体の予算ではなく、本当に必要な負担額の議論を進めた上で、各家庭が購入するべきだと思う。

未来の教室プロジェクトを全国に広めるべく「未来の教室」キャラバンを進めている。予算が終わってもこれらの取り組みが終わらないように、委託先を自治体ではなく企業にして、各企業の新規プロジェクトとして広げてほしいと言っている。実際一人一台での学びをやってみたら先生方は理解する。子供のためになると理解した先生が増えていけば現場は動きやすくなる。第1回は長浜市で行い、長浜青年会議所が体験する場を作って欲しいと申し出たので、企業に声をかけ、企業が持ち出しで実施した。市役所の負担は場所を用意する程度しかない。GoogleがChromebookを240台用意し、通信はNTTドコモのSIMカードをGoogleが負担した。今後は他の企業にも声をかけていく予定だ。開発した当事者たちからプレゼンテーションしてもらうことで、受け入れられやすい。今後も様々な県でキャラバンを行う予定だ。

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