【公開コロキウム】先進技術導入を伴う地方創生のあり方―スマートシティへの挑戦を通じて―

登壇者 :鈴木 昌幸(岡崎市総合政策部デジタル推進課 係長/総務省地域情報化アドバイザー)
     菊地 映輝(GLOCOM主任研究員/武蔵大学社会学部 准教授)※モデレーター
日時  :2025年2月5日(水)18:00~19:45
開催形式:オンライン(zoomウェビナー)

概要

岡崎市では「中心市街地を元気にすること」を掲げたスマートシティを推進しており、都市再生の全工程でデータ利活用を積極的に進めている。鈴木氏が強調するのは事業構築の礎となる、「将来どうありたいかを合意できているか」という視点である。この上で市内・広域での仲間づくりやデータ活用、「きっかけ」づくりや多分野連携成長といった方策を意識して、持続可能な事業へと挑戦するダイナミズムが生まれている。講演では人口減少を迎える将来をどう捉えるか、商店街や地元企業等とどう連携するかといった工夫や、市街地を支えるデジタル利活用の事例も豊富に提供された。

講演「先進技術導入を伴う地方創生のあり方―スマートシティへの挑戦を通じて―」(鈴木 昌幸氏)

スマートシティへの挑戦

私は市役所勤務20数年間のうち18年、担当課をいかにうまく応援するか、市全体の方向性に沿った形で整えていくかという仕事をしている。最近ではスマートシティを志す自治体等から話を聞いてみたいという要望を多くいただいている。今日は先進技術導入を伴う地方創生のあり方について、まず、スマートシティへの挑戦から話をしたい。

紹介するのは岡崎市の中心市街地「乙川リバーフロントQURUWA戦略地区」である。157ヘクタールを昔のように元気にしていこうという取り組みだ。ここは徳川家康が生まれ、岡崎城をはじめとして800年にわたって広域の拠点性を持ってきた。歴史の流れの中で、時代とともに役割を転換してきた柔軟性を持つエリアでもある。まちづくりの方向性として、立地適正化計画に基づく拠点性の回復、そして街を歩いて楽しむ人が、街を育てることを掲げている。一方で、地方都市の特性として自動車依存度の高さに向き合うという観点で課題設定やチャレンジをしている。岡崎市には、中心市街地から半径9キロ圏内、車で30分圏内に50万人が住んでいる。そして、西三河と呼ばれる岡崎市を含む一帯に160万人が住んでいる。西三河地域だけで、製造品出荷額で愛知県以外の都道府県よりも高い水準を稼いでいる。収入別の世帯比率についても、年収500万円以上の世帯が日本の中でも際立って多い。また、岡崎市は豊田市よりも小売業の年間商品販売額や売場総面積が多い。岡崎市では公共投資で公共空間の整備を継続しており、公共空間を使って人を街中に呼び戻すと同時に、その人流を目がけて民間投資を加速させるという取り組みを行っている。これは住民や来街者の視点から見れば、まちなかウォーカブルを支えるスマートシティで、都市経営の視点からは、都市再生の全行程を支えるスマートシティという建て付けである。都市再生の全工程を計画構想、設計施工、運用、波及の4段階に分けた時に、それぞれの段階で、継続的に取られているデータからスマートシティのユースケースが多様に広がっていく、そんな未来を志向している。

まず、過去の設計施工の段階においての取り組みを紹介したい。例えば駅を工事している際に、暫定通路の変更や混雑などの不便軽減の目的で、リアルタイムに人流データを取得し、それをデジタルサイネージで発信した。朝、改札を出た人に向けて、道が混雑していたら別の通りへ誘導する情報を発信したものになる。

続いて運用段階で、街が出来上がってからもいろいろな課題が出てくる。例えば、自動車依存度の高い街なので道路が混む時があるが、特にイベントを実施する日に混雑が顕著になる。そこで、カメラで常時、混雑予想エリアを捉え、3分に1回AIで画像から台数を分析して混雑状況を可視化するというウェブサイトを作った。加えてリアルタイムの空き駐車場情報として、民間事業者が集めたデータをAPIで連携している。同じく運用の取り組みで、データを活用したサイクルシェアの経営改善も行っている。普及展開期では、地元の需要を形成するために、利用の出発地点となる場所に重点的に、ポートの移動を繰り返した。売上は徐々に伸びたものの、データを見ると昼間は使われていないことが分かった。試行錯誤の末、ユーチューバーとの連携が非常に当たって利用拡大期を迎えたものの、バッテリー切れの苦情が増えてしまった。そこでバッテリー交換をスムーズにするため、あるマンションの近くにポートを増設した。毎朝、増設したポートからマンションの住民が通勤通学のために駅に向かう。9時には自転車が揃うので、観光協会案内所で充電していた充電パックを自転車に装着していく。昼間はユーチューバーファンに使っていただき、夕方には地元の方に使っていただく、こうしたことを繰り返しながら順調に売り上げを伸ばしている。また、同じく街の運用として、イベントの事例がある。花火大会の時には、殿橋という橋が最も混んで危なくなる。そこで3DLiDARを使って人流を確認したところ、橋のたもとの人だまりが流れを阻害している可能性があった。以降の花火大会で屋台と観覧場所を別の場所に移動させる対策をすると、スムーズな人の流れが確認できた。このようにデータを見ながら気づきを得て対応し、効果測定につなげるといったチャレンジをしている。

続いて波及効果である。公共空間を整備した地区でいろいろなイベントを行い、沿道の商店が利益を享受するための取り組みを紹介したい。商店街の皆さんと公共空間イベントの人流像を生かして店舗の売上を増加したいということになり、データの分析をした。例えば、イベント時にテイクアウトの売上げがなかなか上がらないパン屋で人流を分析した結果、30~40代の男性と小さい子という判定のデータがとても多く、現場のエピソードを確認しても同様の話が確認できた。そこで父親をターゲットとし、甘みの少ない、ボリュームがあって単価の高い商品を開発したところ、売上げや客単価の増加につながった。また、人流ゾーンに対応したストリートブランディングがしたいというニーズがあったので、それもデータ解析した。商店街の皆さんは、ユーチューバーのファンの20代の人か、あるいは昔からの常連の70代しかいないと話していた。しかしデータを見ると40代がメイン層となっている。その上で40代女性の誘客や、夜も楽しめる、バレーボールファンを商店街に誘導するというアイデアも出てきた。そこでイベントをした結果、普段と比べて2.8倍の人流が生まれた。さらに、新しく出店される方々にイメージを共有したいということで、3D都市モデでブランディングのイメージモデルを作った。時間帯によってどのような雰囲気の街並みになるのかが分かり、この時間にお客さんを呼び込むためにどんな感じでお店をしつらえるといいのかという議論ができる。これも3Dモデルの活用事例といえるだろう。

波及効果の2つ目は道路空間活用の支援である。商店街で行っている「ほこみち制度」に関連し、出店者向けにホームページから人流を確認できる仕掛けをした。例えば岡崎ジャズストリートというイベントでは3日間に1万1,000人で、年代のボリュームは40代女性と50代男性となる。このあたりのボリュームゾーンに合うかどうか、そして在庫は十分かといったことを考えてもらえる。また、人流分析カメラをつけて車の渋滞具合もカウントしているので、イベント主催者は来週自分がイベントを行うときにどうしようかなど、データを見て効果を検証しながらチャレンジができる。こうすれば解決できるといったようなセオリーがない分野は、このように試行錯誤しながら進めていくと良いのではないかと思う。

今年度は、計画構想や設計施工での活用に着手している。これらを一体的に進めることができれば、公共投資効果を最大化・加速化するスマートシティになると考えている。今までのまちづくりの目標では5年に1回に更新される統計データを頼りにしていた。しかし、計画段階にスマートデータを使い、短期でPDCAを回せる目標を設定できれば、翌年の予算に反映できる。また、数年先の東岡崎駅の完成パースから起こした3Dマップを構想段階で使っている。岡崎城が見える景色を大事にしている岡崎市にとって、景観は重要だ。特に再開発などの取り組みは市長に非常に思い入れがあるのだが、市長の思いと自治体職員の考えが違っていたということも起こる。そこで、3Dマップを市長と計画構想段階で使い、市民の方々と共有するところでも使う。さらに、地権者と民間再開発事業の手続きを行う際に使えば、共有化されたイメージができる。また、スマートシティ事業の行政課題に由来する政策で、あるフィリピンの会社がMMORPGというゲーム空間に使いたいと岡崎市に提案してくれた。3Dマップを作るに当たり、我々からはできるだけリアルに近づけて、ベースのマップはPLATEAUを使うように頼んでいる。市とゲーム会社でエリア内の3Dマップ作成を分担して行い、相互に利用できるようにしておけば、コストは下がり効果は倍になる。
岡崎市は歴史のある街で、文化資源をたくさん持っている。実は3D空間と文化資源デジタルは非常に相性が良い。文化資源は人目に触れる状態に展示しておくと加速度的に悪くなっていく。しかしデジタル保存しておけば、プロジェクションマッピングでリアル空間に表現することができる。先日、岡崎市内のある寺で、夜にプロジェクションマッピングの催しを行った。普段、夜に人が集まることはないのだが、こういった催しをやると非常にたくさんの人が集まる。夜9時までの特別拝観料は800円だが、7時半時点で900人入っていた。1,000人が入ると80万円になる。地元を元気にしていくパワーのきっかけにすることが前提であり、デジタル技術が下支えをするといった取り組みとなる。

写真1 鈴木昌幸氏

挑戦の舞台裏

持続可能な事業構築のために必要なことは時系列で7点にまとめられる(図1)。これはすべての団体に当てはまるというものではないが、私が経験的にこうするとスムーズだという流れをまとめたものになる。

<図1 持続性を高める事業整理>

まず「目指す姿」である。岡崎市でも、こういう街でありたいというビジョンを描く。市長が“中心市街地を元気にすること”を掲げて当選しており、これが市の悲願とも言える。全体合意は理想だが、強い決意やリーダーシップがあれば良いと思う。スマートシティが合意できているかどうかではなく、将来どうありたいかを合意できているかどうかが大事になる。その上で、それを支える前向きな意欲ある人材がいるかどうか、活発な活動が生まれているのかどうか。多様な手段の1つとしてスマートやデジタルがある。時代がデジタルスマートを志向していれば、こういう関わり方のほうが導入は早い。ここで必要なのは複眼視野だ。目前課題のような、これをやったらすぐ良くなるという話はやりやすい。しかし、仕組みが複雑ではないので、競争調達前提になってしまう。もう1つの視野は、将来課題へのアプローチ、長期で効果が期待される素敵な未来に向けての挑戦となる。こういったところは、真面目なだけの合意形成では継続できない。どの段階で誰に説明するのかを戦略的に考えないとうまくいかない。その手段は、スマートデジタルでなくてもいいといった寛容さが必要であり、そして国支援を賢く活用する工夫が必要だ。

柱の2つ目は「なかまづくり」だ。ビジョンが固まったら、いろんなことを一緒にやれる仲間が欲しくなる。自治体職員と企業が個でつながっても良い。自治体も民間も同じだと思うが、一緒にチャレンジできる仲間づくりは人次第でもある。2024年7月から9月に愛知県一宮市で職員デジタル人材育成研修を行い、街を数値で語るということを行ったという例がある。一宮市をテーマにデータ分析すると、一宮市の職員さんが「近隣中核市と比べて市内新築住宅の延床面積が広い、これは何かの強みになるのではないか」と考えた。しかし、議論がなかなか進まない。そこで、ある銀行に一宮市で活躍している住宅メーカーで、研修に参加してもらえるような温度感の企業があるかどうかを聞くと、キーマンを連れてきてくれた。すると、そもそもこの延床面積の広さを誰と競っているか、競合他市を知っているかという話ができる。さらに、小学校の見守りを町内会のお年寄りが見てくれていることが購入の決め手にもなるといった話も聞けた。このような事例から、「なかまづくり」は金融機関のような紹介ハブとなる役割の企業と連携するのが近道だといえる。

次に、まちづくりの「ストーリー構築」を行う。岡崎の街はこんなに素敵なんだよという話は、地元の人だけでは作りづらい。大事なのは他地域との違いを知る地域外の人だ。ここを企業に担ってもらえると良い。できたら一緒に課題整理を伴走してもらい、ソリューションを提供してもらっても良いだろう。まちづくり研修を開催している街であれば、企業と連携して現場に入って各自が自ら現場の声を聞くと、誰がどんなテンションで何をやっているかがはっきりわかる。これをやらずに課題は何かと聞いて回っても、なかなか明確な課題は出てこない。街のビジョンがしっかりと共有できている街、あるいはそれを作ろうともがこうとしている人がいる街、ここがスタート地点となる。その先に活発な活動を支えるスマート技術が入り込む余地がある。

次に「きっかけをつかまえる」。自治体でも民間でも、きっかけがあればコストをかけやすい。令和5年に大河ドラマ『どうする家康』が放送されると分かったのは令和3年だった。初めに行ったのはビッグデータ分析だ。大河ドラマ館が開設されると分かった時に、経済効果があると喜ぶ意見と、渋滞がひどくなって困るという意見があった。その双方が、ドラマ館の来館者数相場をよく知らないという状況だったので、ビッグデータを買って分析した。だいたいこれぐらいの規模だ、観光文脈だったら滞在時間を延ばさないとダメだ、大きなイベントの時はパークアンドライドをやろうといった温度整理ができるわけだ。こうしたきっかけを捕まえて、次に令和4年、5年に行ったリアルタイム渋滞情報等の整備に加えて、次世代モビリティへのチャレンジを行った。トヨタ自動車のモビリティ、C+walk(シーウォーク)を使って、駅から大河ドラマ館までの1.5キロの移動を楽しんでいただこうというものになる。加えて、大成建設がこのモビリティに合わせて路面太陽光パネルによる充電の取り組みを行った。さらに、プロジェクションマッピングで紹介した名古屋のスタートアップ企業がXRスタンプラリーを準備して、 現場の文化資源と組み合わせてモーションの動画が流れるといった試みや、岡崎城をメタバース空間として再現するといったことを整えている。こうしたことをやっていると、フィリピンの会社から声がかかるわけだ。このように、大河ドラマ館という一つのきっかけで、いろいろな事業が生まれる。逆に言うと、きっかけをどう作るのか、みんながコストをかけてもいいと思えるようなチャンスをどう作るのかということには、いろいろな視点において仲間づくりが非常に重要になる。

加えて「データ活用」だ。データ活用の視点では、今、“デジタルサービスとデータ活用で二度美味しい”を目指す方向性が主になっている。岡崎市の活用事例をもとにデータ活用を分類してみた。まず、データの取得である。サービス提供付随型では、例えばサイクルシェアサービスには、GPSやスマートロックシステムといった情報取得機器がついている。データが自動的にサービスの提供と共に集まる方法は一番効率がいい。次にカメラやライダーなどでデータを取りに行く取得方法、そしてデータを買ってくる方法になる。使い道としては、オープンデータ型の使い方、それから温度整理型(計画策定型)。これは期待と不安の温度調節に使える。あるいは、見せる化型。これは駐車場のリアルタイム情報を見せることで、行動変容を促そうとする分類になる。そして、一般的に知られる改善改革型になる。行政まちづくりの分野では、こうすればうまくいくというセオリーのある世界とは異なるという前提の理解も必要だ。

データ活用セオリーが構築されていない分野で、データに馴染みのない現場のプロ、例えば商店街の人と、現場を知らない分析のプロが有効なデータ活用を行うためには、中間人材のコミュニケーション能力が重要になる。活用シーンでよく見かける光景として、分厚い分析レポートを使って長い話を聞いたあとに地元の人が「そんなことは知ってたよ」と言うか、あるいは「難しいことはわからん」ということになる。あるいは、もっと深掘りしたいとなると別途費用が必要になるので、これで終わってしまうということもある。そこで2つの基本スタンスを設ける工夫をしてみた。まずは分析の場を発注する。エピソードとエビデンスを交互に確認しながら分析するのだが、これは非常に高いコミュニケーション能力が要求される。加えて、説明の単純化。地元の人に話すときに、単純化した説明を基本スタンスにする。しかし、やってみると人件費がかかるうえに、その場での分析に限界がある。これで社会全体のリテラシーが高まるのかという不安から生成AIを使おうという話になった。生成AIを使って対話形式で「ここの通りをこういう視点でグラフ作って」と言うとグラフが出てくる。そうすると参加者全員が置いてきぼりにならない。利益を享受する人こそデータのリテラシーがあまり高くなくて興味を失いがちになり、置いてきぼりになるということが一番残念で、ここがアンマッチになっている。そこで生成AIを使って、対話形式で進む分析の場を設計運営してほしいという委託業務を出す。そうすると場が作られて、議論が活発化する。分析過程を順に追って丁寧に、かつ多岐にわたってスピーディーに行うことができるので、生成AIはコミュニケーションツールの代わりになるのではないかという期待を持っている。では、将来はどうなるのか。例えば、オープンデータサイトに生成AIを搭載・連携する。こういうことを知りたいと伝えると、オープンデータからデータを引っ張ってきて、結論を生成する精度が上がるという未来が見えるかもしれない。ただ、今は課題やリスクもあるので、慎重に進める必要がある。データ分析発注だけはでなくて、対話形式で進むデータ分析の場を発注するというところから練習を始めて、こういった、自動化されていく未来、データ活用の民主化が進む未来があると良いのではないかと思う。

次に「多分野連携成長」だ。現在、国の様々な戦略でも「多分野連携成長」が求められている。だが、ステークホルダーそれぞれに大事にしたいものや興味の対象が違う。そのため、市役所に課題は何かと聞かれても、なかなか辛い。総じて、当たり障りのない大雑把な課題を提示するというのが現状だ。そのため、課題は何かを探るよりも、どういうステークホルダーがいて、どういう分野に興味があって、その上で、民間の視点から短期で上手に利益を出せる分野はどれかという匂いをしっかり嗅ぎ分けてほしい。そのためにはまちづくり研修みたいなものに一緒に参加いただけるといい。テトリスでは、出てくるものの形は変えることはできないが、回転させて組み合わせると、うまくきれいに成形できる場合がある。このように、上手に自治体と一緒にプレイしてくれるような、そんな懐の深さが民間にあると嬉しい。

「自治体財政」にも理解を深めてほしい。自治体財政には事前統制原則がある。事前に何に使うか議会で折り合ってないと予算を使えない。財政課職員は、議会説明ができるのかという視点でも予算査定を行っている。一方で、予算をどんどん切っていくと痩せ細った予算になる。市長が会見するときに恥をかかせることになるので、実は財政課は目玉予算も探している。予算獲得のコツとしては、歳出の削減努力はもちろんのこと、特定財源の確保が重要になる。市としての負担が同じ金額でも、7本目の柱となる「国の支援」があると優先課題への位置づけもしやすく、先進的な事業として説明しやすい。その上で、国の実証事業にエントリーして、効果の確認が終わっていれば非常にやりやすい。数字で説明ができる。それらがまとまって予算編成方針にうまく沿っていれば、予算は割とつけやすい。

以上で事業を構築する上での7本の柱に触れたが、次に持続性を高める事業整理の視点について提案する。

1つ目は対象軸と時間軸から成る4象限の整理だ(図2)。岡崎市のスマートティは今、不特定多数を対象に、将来課題に対応した左上の象限に位置する。不特定多数がターゲットだと採算が合わないが、そもそも自治体として責任を負う分野なので、予算が取りやすい。こうした考え方を参考にすると、今、この都市の取り組みはどこを狙っているのかが分かり、議論が整理しやすくなる。なお、民間の舞台裏を話すと、3年を目途に何らかの形で粗利が確保できるという目途が立てば頑張れるという。例えばシェアリングビジネスという新たな領域で、サイクルシェア事業の採算を合わせるのに5年では手が出しにくい。自治体と企業、どちらがどこまで頑張るのかという領域の場合には、自治体側も民間側の裏側を把握する必要がある時代になっていることを理解する必要がある。

<図2 「対象軸」と「時間軸」の整理>

続いてレイヤー軸の整理だ。スマートシティの場合、どのレイヤーで誰が受益者で、誰にお金を払ってもらうのかということを考える必要がある。例えば、実サービスが伴って、データが取れて、分析まで始めている段階に到達していると、データ連携基盤を導入しやすい。

日本のスマートシティの議論でも、スマートシティを進めるための戦略性、継続的な屋台骨の増強が欠かせない。それを誰とどう議論すればいいのか、どういう状況かを想定することが大切になる。イノベーター理論を参考にすると、1億総レイトマジョリティ化しないように順番に人々を巻き込んでいく必要がある。今、岡崎市では市議会議員が非常に前向きに理解し、応援してくれている。そういう意味で、アーリーアダプターにはうまく説明ができたと思う。次はアーリーマジョリティで、商店街の感度の高い人にアプローチをしている。同時に、ハイプ・サイクルを参考にして、スマートシティの中にある技術のトレンドを意識する。自治体の職員として、地道に技術を啓発期から安定期に持っていくという戦略性が必要だ。そこで、都市再生を全工程で支えるスマートシティやデータ活用によって単位コストを削減するといった、アーリーマジョリティにアプローチするようなリニューアルをかけている。3Dマップは都市シミュレーションだけでなく、ゲームにも使える。人流センサーは自動運転にも使える。そういったものが蓄積されていった未来においては、いろいろな時点のデータを使い、まちの記憶がいつでも呼び出されるような土地利用を促進するデータ活用ができると面白いのではないだろうか。事業継続性を高めるため、屋台骨を更新しながら進めるといった事業構築が必要だ。

先進技術と地方創生

人口、そして生産年齢人口も2050年にかけて減っていく。2015年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授(当時)が、労働力人口の49%が人工知能で代替可能という見方を示し、人間が仕事を奪われるという恐怖が広がった。だが、前期高齢者は働くという方針となり、人工知能とセットで労働力となると理解いただきたい。このことで、2050年にかけて今より豊かな生産年齢人口を抱えることになる。にもかかわらず、内需拡大でビジネスを作ることに特化してきた日本のビジネス構築の方法では、宝の持ち腐れになる可能性がある。人口減少に負けない内需拡大に向けた新たなビジネスの創出が必要不可欠だ。少子高齢化や人口減少はバズワードで使われているが、高齢化は支え合いのバランスの崩壊で、人口減少は労働力不足、内需縮小や商圏人口の減少となる。このバズワードを分解していくと、具体政策につながっていく。国からは、いろいろなメッセージが自治体に向けて出されている。2010年代の前半は、増田レポートの消滅自治体やコンパクトシティという話が出た。これらは非常に悲観的な未来で、そのための計画も作りなさいという指導があった上で、それでも抗うやる気や頑張りがあるなら応援するから、まちひとしごと創生総合戦略で地方創生を頑張ろうというのが、2010年代前半の国のメッセージだ。2010年代後半は2020年という節目の年を迎えるにあたって自治体が一斉に将来計画を改定していく。そのヒントを先出ししてくれる意味でSociety5.0、未来をつかむTECH戦略自治体戦略2040と、立て続けに国が情報を出してくれた。破壊的な技術革新の兆しと一緒になって、スーパーシティ、スマートシティを回すAI活用等が強く言われ始めた時代でもある。つまり、2010年代のストーリーに加えて、2020年代とその先を見据えて、技術革新の活用で飛躍的な未来を作る方向性を定義している。どちらも、やる気があることが前提だ。その上で2020年代前半だ。先を見据えつつ、待ったなしの課題へ対応するために、着実な歩みを促す方向性として国からメッセージが届いている。さらに2020年代後半を迎え、今まで出てこなかった言葉で強く打ち出されているのは、若者、女性、選ばれる地方となろう。国からの次のメッセージはなんだろうか。そういったものをストーリーでイメージしながら、市民の皆さんや民間企業と一緒に、自治体がどんな存在であり続けるべきか、どんな未来を作るべきなのかを考えていきたい。

質疑応答

――岡崎市役所は風通しがいい市役所なのか。各課の現場の悩みと、デジタルを使って問題解決しようという意識が近い雰囲気があると思うが、どう感じるか。

鈴木:風通しは他の自治体と変わらないと思う。スマートシティを裏側から支えているのは、私を含む総合政策部企画課だ。企画課は市の全ての計画に目を通し、一定程度口を出すという仕事をしている。新しい挑戦に対して現場担当課の人たちはきっとこう考えているから、これは効果があるかもというバックグラウンドを理解していることがいい作用をしているかもしれない。

写真2 菊地映輝氏

――自治体が住民の話を聞いたり、住民に発信したりといった広報広聴の機能不全が指摘されている。議会も含めた住民と市役所間の自治体コミュニケーションは合意にも重要だと思うが、どのようにお考えか。

鈴木:熱意ある、やる気のある人たちを捕まえるのはとても大事で、そこをきっかけに合意形成する話はとても大事だ。ただ、誰と折り合うとうまく進むのかは、裏側は、人間同士の気持ちの問題だったり、街の有力者的な話であったりする。幸いなことに、岡崎市の中心市街地では7つの町内会が連合して町内会連合を作っており、市が相談すると協力してくれる土台がある。岡崎市は町内会を通すとうまくいくが、他の街だとNPOや商店街、もしくはエネルギーインフラ会社が上手に意思決定に関われる人たちになるかもしれない。これは土地柄や会場に集まった人次第で変わるものなので一概には言えないが、民間事業戦略を考えるような思考で向き合われるといいのではないか。

――財政的な余裕が様々なスマートシティ的な取り組みにつながっているのか。また、これは鈴木さんがいる岡崎市だからできているのであって、他の自治体で再現可能性がないのではないか。

鈴木:財政的な強さについては、全国的な水準に比べたらずいぶん強い部類だと思う。ただ、何かきっかけを作るのは、市の予算がなければできないということでもない。 例えば大河ドラマ館も、再来年開催されるアジア大会も、市が用意したものではない。その時に持っている予算や人員リソースの規模の中で、ただのイベントに終わらせずに、きっかけを積極的に活用したり、それをチャンスと感じるかどうかということが大事だ。2つ目のご質問については、私のような公務員は、岡崎市役所の中にまだ何人もいる。PFIの話で出ていく人もいるし、リノベーションまちづくりで外に出ていく人もいる。どこの市にも一定程度そういう人はいると思う。他の自治体だと、こういうタイプの人間は、財政課とか皆さんの目に触れないところに何人もいるのではないか。そういう人が事業担当課に異動して事業の面白さを少し覚えたような時期の人がいたら、狙い目だと思う。

菊地:これは岡崎市のケースだが、鈴木さんと私は、もう少し一般化していきたいと考えている。鈴木さんの話に興味を持ってくださった人とも、継続して議論をしていきたいし、今日いただいているご質問にも、回答できるものは回答していきたい。我々の長い旅路の第一歩として、鈴木さんに今日ご講演をいただいた。鈴木さん、ありがとうございました。

執筆:井上絵理(国際大学GLOCOM客員研究員)

アーカイブ動画(YouTube)

講演資料(PDF)

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