日時

2019年7月29日(月)14:00~17:30(13:30開場)

会場

イイノカンファレンスセンター RoomA
(東京都千代田区内幸町2-1-1)

定員

120名→300名(先着順)

参加費

無料

主催

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

後援

Innovation Nippon

概要

近年、国内外でデータ利活用に関する議論が非常に活発になっています。そして、その議論は多くの場合、法律と企業活動、政府の視点で理論的に論じられ、それに他国の政策を参照しています。しかしながら、変化が速く、複雑化する情報社会においては、消費者を含んだ、社会全体に与える影響を実証的に明らかにしたうえで、エビデンスをベースに制度を設計しないと、想定以上に大きなマイナスのインパクトを社会にもたらす可能性があります。

そこで本シンポジウムでは、人々のデータ利活用に対する評価を実証的・定量的に明らかにした研究を報告すると同時に、産官学の多様なステークホルダーを集めたパネルディスカッションを行います。そして、日本政府はデータと制度をどう連関させてより良い社会を作り上げていけば良いのか、日本の産業界はこれからどのようなデータ戦略をとってイノベーションを起こしていけば良いのか、議論を深めたいと思います。

プログラム

14:00-14:05 プロローグ

  • ご挨拶
    松山良一(国際大学GLOCOM 所長)
14:05-15:35 Session 1「人々にとって最良なデータ利活用とは何か」

  • 基調講演「データ利活用に対する人々の評価と日本の未来」
    山口真一(国際大学GLOCOM 主任研究員・講師)
  • パネルディスカッション「社会的厚生を最大化するデータ利活用」
    クロサカタツヤ(株式会社 企 代表取締役)
    古谷由紀子(サステナビリティ消費者会議 代表)
    森亮二(弁護士)
    山口真一
    【モデレーター】田中辰雄(慶應義塾大学経済学部 教授)
15:35-15:45 休憩
15:45-17:30 Session 2「日本流データ活用・流通戦略のシナリオ」

  • 特別講演1「日本のデータ戦略・プラットフォーム戦略について考える」
    渡邊昇治(経済産業省 大臣官房審議官(産業技術環境局担当))
  • 特別講演2「日本においてデータ流通と活用を阻害してきた要因と今後の活路」
    楠正憲(Japan Digital Design株式会社 CTO)
  • パネルディスカッション:「日本流データ活用・流通戦略のシナリオ」
    楠正憲
    庄司昌彦(武蔵大学社会学部 教授)
    中川裕志(理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP)グループ ディレクター)
    沼尻祐未(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐)
    【モデレーター】渡辺智暁(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授)

 

 

登壇者略歴

山口真一
国際大学GLOCOM 主任研究員・講師
1986年生まれ。博士(経済学)。2018年より現職。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、フリー・ビジネス、プラットフォーム経済、データ利活用戦略等。「あさイチ」「ニュースウォッチ9」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(勁草書房)などがある。他に、東洋英和女学院大学兼任講師、グリー株式会社アドバイザリーボードを務める。

クロサカ タツヤ
株式会社 企(くわだて) 代表取締役
1999年慶應義塾大学大学院修士課程修了後、三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、国内外の事業開発や政策調査に従事。 2008年に(株)企を設立。経営戦略や事業開発などのコンサルティング、官公庁プロジェクトの支援等を実施。総務省や経済産業省、国土交通省などの政府委員を拝命するほか、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務。近著『AIがつなげる社会』(共著)。

古谷 由紀子
サステナビリティ消費者会議 代表
博士(総合政策)、消費生活アドバイザー。経営倫理実践研究センターフェロー(2012年~)。総務省「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」委員(2017年~)。主な著書に『現代の消費者主権』(2017)(芙蓉書房出版)、主な論文に「『持続可能な消費』を進めるために」(2017)(企業と社会フォーラム学会誌)。企業の消費者志向経営やCSR等に参加するほか、消費者教育も参加。(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会監事(2018年~)。

森 亮二
弁護士法人英知法律事務所 パートナー弁護士
東京大学法学部卒業、ペンシルバニア大学ロースクール卒業。専門分野は企業法務全般、電子商取引、電気通信、インターネットなど。総務省情報信託機能の認定スキームに関する検討会(平成29年11月~)、総務省・経済産業省データポータビリティに関する調査・検討会(平成29年11月~)、内閣官房データ流通・活用WG(平成30年7月~)などの委員を務める。第一東京弁護士会所属、ニューヨーク州弁護士。

田中 辰雄
慶應義塾大学経済学部 教授
1957年、東京都に生まれる。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員、コロンビア大学客員研究員を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専攻は計量経済学。 主要著作・論文『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社、2003年)、『モジュール化の終焉』(NTT出版、2007年)、『著作権保護期間』(共編著、勁草書房、2008年)ほか。

渡邊昇治
経済産業省 大臣官房審議官(産業技術環境局担当)
1990年、東京大学大学院修士課程修了。同年、通商産業省入省。自動車課課長補佐、サービス産業課課長補佐、新エネルギー対策課長、研究開発課長等を経て、2016年6月より情報政策課長。2017年7月より商務情報政策局総務課長。2018年7月より現職。

楠 正憲
Japan Digital Design株式会社 CTO
マイクロソフト、ヤフーなどを経て2017年からJapan Digital Design CTO。2011年から内閣官房 番号制度推進管理補佐官、2012年から政府CIO補佐官、2017年から内閣府情報化参与 CIO補佐官に任用され、マイナンバー制度を支える情報システム基盤の構築に携わる。2015年 福岡市 政策アドバイザー(ICT)、一般社団法人OpenIDファウンデーション・ジャパン代表理事に就任。2016年 ISO/TC307 ブロックチェーンと分散台帳技術に係る専門委員会 国内委員会 委員長、2017年 日本ブロックチェーン協会 アドバイザー、2019年 一般社団法人日本仮想通貨交換業協会 理事。

庄司昌彦
武蔵大学社会学部 教授
中央大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授・主幹研究員を経て、2019年4月より現職。地域情報化や電子行政等の調査研究に従事しながら、Open Knowledge Japan (OKJP) 代表理事、MyDataJapan理事として官民データ活用に向けた提言など実践活動も行っている。内閣官房オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザー・情報通信白書アドバイザリーボード。

中川 裕志
理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP) グループディレクター
1975年 東京大学工学部卒業、1980年 東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。1999年~2018年 東京大学教授。2018年より理化学研究所革新知能統合研究センター・社会における人工知能研究グループディレクター。プライバシー保護、人工知能倫理の研究を行う。

沼尻祐未
経済産業省 商務情報政策局情報経済課 課長補佐
2014年、東京大学大学院修士課程修了。同年、経済産業省入省。資源エネルギー庁資源・燃料部政策課、新エネルギー課、大臣官房総務課を経て、2018年6月より現職。経済産業省が提唱する「Connected Industries」の主担当として、ものづくり/自動走行・モビリティ/バイオ・素材等の分野におけるAI・ブロックチェーン活用を推進。また、AIスタートアップの事業支援にも取り組む。

渡辺智暁
慶應義塾大学政策・メディア研究科 特任准教授
専門領域は情報通信政策、オープン化と社会・産業変動など。(Ph.D. 米インディアナ大学ブルーミントン校テレコミュニケーションズ学部)。2008年に国際大学GLOCOMにて客員研究員となって後、研究員、主任研究員、主幹研究員などを経て、2015年まで国際大学GLOCOMにてICTの政策や社会・産業変動に関する研究プロジェクト等に従事。2015年より現職。文部科学省センター・オブ・イノベーション・プログラムの「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」において研究に従事。2016年より同研究推進機構研究統括。

お申込み

こちらのご参加登録フォーム(Peatix)よりお申込みください。
→定員に達したため募集を締め切りました。

お問い合わせ先

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
シンポジウム事務局 小島安紀子
〒106-0032
東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル2F
TEL:03-5411-6675  FAX:03-5412-7111
Email: info_pf[at]glocom.ac.jp

講演資料

 

イベントレポート


Session 1人々にとって最適なデータ利活用とは何か
基調講演「データ利活用に対する人々の評価と日本の未来」

山口 真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 主任研究員・講師)

データ政策議論から抜け落ちる「消費者視点」

近年、「プラットフォームの21世紀」といってもいいほど、人々の生活にITプラットフォームが入り込んでいます。そのため、国内外でプラットフォーム、とりわけデータ利活用に関する議論が盛んになっています。しかし今、その議論において「消費者」という視点が、驚くほど抜け落ちています。特に、消費者の「利便性」と「不利益」に着目し、それをエビデンスベースで論じているものはほとんどありません。

そこで本研究は、データ利活用に対する消費者の総合的な評価を実証分析し、人々にとって適切なデータ利活用のあり方を検討することを目的に始まりました。この研究には2つの柱があります。1つは約6,000人を対象としたアンケート調査分析で、もう1つは20代の若者10名に対して、データ利活用への考え方などを聞いたヒアリング調査です。

 

不安に思う人は多いが、利便性も評価している

まず、データ利活用について調査した結果、データ収集・活用共に、認知している人は約75%であり、年代による傾向はないことが明らかになりました。ただし、その認知経路として、「規約」は18%にとどまっており、規約はあまり読まれていないことも分かりました。

続けて、データ利活用に不安を感じている人を調査した結果、74%の人が不安に感じていました。他方、データの利活用がもたらす利便性について、「①完全にランダムなおすすめ表示」「②売れている商品のおすすめ表示」「③自分に合った商品のおすすめ表示」の3つの中では、③が最も高く評価されており、①の約2倍の人がその機能を「あった方が良い」と考えていました。このことは、不安に思っている人が多い一方で、利便性を評価する人も多いことを示しています。

 

90%の人は「無料を志向」

さて、以上を踏まえ、データ利活用への評価を、経済的に測定していきます。測定にあたっては、財・サービスに対する評価額を支払い意思額(それに対して支払っても良い最大の金額)で測定する、仮想評価法(CVM:Contingent Valuation Method)をベースに設問を設計しました。

分析対象とするのは、LINEやYouTubeなど、国内で使われている主要20サービスです。ただし、ここで測定するのは、「データ利活用に対して感じている利益(不利益)」分であり、サービス全体の価値ではありません。また、質問設計を工夫し、データ利活用にポジティブであれば支払い意思額はプラスに、ネガティブであればマイナスになるようにしています。

分析した結果、まず、すべてのサービスについて、実に85~97%の利用者は支払い意思額が0円ということが分かりました。つまり、多くの人にとって、不安感と利便性は打ち消し合っており、支払ってまでデータの利活用をなくしたり、このまま続けてほしいと強く希望したりする人は、ほとんどないといえます。次に、サービスごとに月額の平均支払い意思額を見ると、支払い意思額の平均がマイナスとなっているサービスが大半を締めていましたが、その絶対値は最大でも月額-8.4円と、非常に小さいものでした。

サービスごとの違いは、オープンな利用かどうかが影響していると考えられ、例えばメルカリなどのオープンな取引サービスではデータ利活用にポジティブな一方で、Amazonなどのクローズドな通販サービスではネガティブになります。また、TikTokなどは支払い意思額がプラスであり、サービスの利用者の年齢層が関係している可能性も考えられます。

 

若者と中高年の大きな乖離

さらに、マクロ便益推計モデルを用いて、日本全国におけるデータ利活用に対する年間評価額を推計しました。その結果、10代と20代では約100億円の便益を評価している一方で、30代以上では約400億円の不利益と評価しており、とりわけ50代、60代ではネガティブということが明らかになりました。

このような違いの理由として、子どもの頃からネットを利用している若年層と新しいツールとして利用し始めた中高年以上で、データ利活用に対する認識が異なるということが考えられます。実際、若者へのヒアリングでは、データ利活用への評価としては、「自分に適したものが表示されるなら良い(21歳男性)」「個人的にはOKだし、ミスを拾ってくれて助かると感じる(28歳男性)」といった意見が見られました。

続けて、これらの評価に対してどういった要素が影響を与えているかの分析を、支払い意思額決定要因モデルによって行いました。分析の結果、もっとも大きな影響を与えたのは年齢で、年齢が高くなるにつれてデータ利活用に対して非常にネガティブになる傾向がみられました。また、ネットリテラシーが高い人やメディア利用時間が長い人は、ポジティブになっていました。漠然とした不安感が減少し、利便性を認識するようになるためと考えられます。

 

日本の未来のために:3つの政策的含意

これらの調査結果から、3つの政策的含意が導かれます。1つ目は「多様な価値観に配慮した制度設計をする」ということです。データ利活用に対する評価は多様で、これから情報社会の中心となる世代はデータ利活用についてポジティブにとらえています。そのため、一律のデータ規制は将来の社会的厚生を下げる可能性があります。一方で、悪用や想定されていない利用などには断固とした態度で望む必要があります。

2つ目は「利便性と不利益双方を考慮して制度設計する」ということです。社会的厚生を最大にするには、双方をさらに調査した上で、エビデンスベースで最適な含意を導いていく必要があるでしょう。

3つ目は「人々が適切なサービスを選択できる環境を作る」ということです。プラットフォーマーは、データ利活用についてオプションを用意し、人々が自分の価値観に沿ったデータ利活用レベルを選択できるようにすべきでしょう。実際、FacebookやGoogleといったサービスでは、既にそのようなオプションが実装されています。また、適切な選択のために、規約を読みやすく工夫したり、リテラシー教育を強化したりするなど、認知度を向上させることも必要となるでしょう。

 

Session 1 人々にとって最適なデータ利活用とは何か
パネルディスカッション「社会的厚生を最大化するデータ利活用」

古谷 由紀子(サステナビリティ消費者会議 代表)
クロサカ タツヤ(株式会社 企 代表取締役)
森 亮二(弁護士)
山口 真一(国際大学GLOCOM 主任研究員・講師)
田中 辰雄(慶應義塾大学経済学部 教授)

消費者から信頼される企業に

田中: 個人情報の利活用について実証的な分析がなされました。主たるファインディングスは、年齢によって態度が大きく異なるということだったと思います。まずはパネリストの皆さまが、基調講演内容にどういう感想を持ったか、お話をお伺いします。

森: 若年層の方がデータ利活用に理解があるというお話でしたが、現在直面している問題は、一社が取得した情報に外部から持ってきた情報を組み合わせて利用することです。このあたりについて、若年層が本当に理解をした上で判断しているのかはよくわからないのではないか、と思いました。

クロサカタツヤ: 私は事業をとおして、なかなか日本企業でデータ利活用が進まないことに大きな課題を感じ続けています。データ利活用などで重要なのは、「その企業に提供しても良いと消費者が思うほど信頼を得ているか」です。そして、企業が消費者に信頼されるためには、産業構造のデザインという視点まで含めて考えないといけないのではないかと思います。
Google もAmazon も、もはや「20 年選手」で、20 年培ってきた経験や信頼はそれなりに重いです。彼らと同じような信頼を我々がいかに作り上げていくのかということを、真剣に考えなくてはいけないのではないでしょうか。

古谷: 2 点あります。まず1 点目として、データの利活用について消費者の利便性の最大化や不利益の最小化について論じられていますが、消費者が主体的に選択しコントロールするという観点が足りていないのではないでしょうか。利益と不利益に関係してくるという意味では、主体性こそが重要だと考えます。2 点目として、利便性は一律に論じられるのかということが挙げられます。講演でもあったとおり、サービスによって消費者の態度がばらばらということは、それだけ受けている便益も異なるということではないでしょうか。

田中: 以上の感想を受けて、山口さんから何かありますか。

山口: 2 点ほどあります。クロサカ先生の「信頼」という言葉について、データを預けることが増えていく中で、消費者の企業に対する信頼感という考え方は今後より重要になってくると考えます。先行研究でも、信頼性が高いサービスに対しては、消費者のデータ提供の抵抗感は小さくなるということが示されています。
また、古谷先生の指摘である「サービスごとに利便性が違う」ということは同意見で、今回は総合的な評価を取得したにすぎず、利便性や不利益に種類があるのは確かなので、今後ぜひ詳細に分析したいと考えています。

 

匿名加工情報の現状

田中: 個人情報保護法が改正され、匿名加工情報が利用できるようになりました。このあたりのビジネスの現状についていかがでしょうか。

クロサカ: 事業者にとって匿名加工情報の制度は非常に使いにくいと聞いています。利用には数理的な理解が必要で、「特定の個人を識別する」という定義がわからないまま進めていくほかない状態になっているからです。何をしたら匿名加工情報になるのかをきちんと理解しにくい状態となっており、踏み込める企業とそうでない企業に分かれています。

森: 匿名加工情報と統計情報の決定的な違いとして、匿名加工情報は第三者提供するときに個人識別性を提供元基準とします。これまでできなかった一意なデータを提供できるようになったのが匿名加工情報の意義です。また、個人情報保護法では、同意が求められているのは、目的外利用する時、第三者提供する時、要配慮個人情報する時の3つのみであり、単なる情報の取得では同意が求められていません。

 

形骸化する「同意」とその有効性

クロサカ: 同意がいらないということについては、重要な論点です。個人情報は怖いからとにかく同意を取るという意識が事業者にあるようです。法に照らした場合、同意がいらないケースは結構あります。とにかく同意を取ってしまおうという局面は大きく、また、同意が形骸化され、そこに消費者契約法における同意が本当に成立したのか疑問なところもあります。

森: 消費者の「同意」の有効性について、実装の仕方によっては無効になると思われるケースもあります。他方で、第三者提供する際に提供先や目的を書かなくても法的には有効という抽象的な同意も許容されています。

古谷: 消費者が自分のデータの提供について主体的に選択するために十分な情報を企業が提供できておらず、また企業自身が整理できていないのが問題だと思います。

山口: 4点ほどあります。1つ目として、消費者の主体的選択が重要です。消費者が活用されるデータを選択できるサービスは増えてきており、これが拡大していくことを期待しています。一方、企業がどれだけ情報を出しても、消費者が主体的に選択しようと思わない状況だと意味がないです。データ利活用に関する学びの機会がほとんどないことが問題です。
2つ目として、あるイギリス企業の実験では、アプリの規約を読んだ人は2万2千人に1人しかいませんでした。規約があるのに読まないのは重要な論点です。
3つ目として、企業が慎重になりすぎてデータを活用できてない可能性があります。消費者だけでなく企業側の学びも重要でしょう。
4つ目として、過去のデータや、過去に契約した人のデータを活用したいとなった時同意を得るのが難しいとう問題があります。連携利用を進めるのが難しくプラットフォーム創設の妨げになっているという話も聞きます。顧客全員に同意をとっていくのは非現実的ですが、解決策はないのでしょうか。

 

企業は消費者に分かりやすい説明を

クロサカ: 過去のデータの活用について、消費者が自分で納得できるかどうかが重要です。「納得」とは何なのか、企業はきちんと考えておくべきで、現在のような過渡期はデータを何に、誰が使うのかわかりやすく噛み砕いて説明すべきでしょう。しかし、デジタルトランスフォーメーションが進むと、消費者が主体的にすべてを管理することができなくなってくることが予想されます。そうした際に信頼できる委託者に管理してもらうという発想がいずれ必要になってきます。いかにそうしたトレンドに向かい合っていくかについて検討されるべきです。

森: ユーザにとってわかりやすい説明が必要でしょう。規約のあり方しかり、同意のあり方しかり、これまでは見過ごされてきた問題が、今あらためて問い直されている状況といえます。

古谷: 主体的選択が理想であっても現実的にはできないということがいえます。教育や情報提供は必要なものの、政策的な方向も必要でしょう。データ利活用以外の世界では消費者が自立して選択できるよう政策が建てられているので、それらを参考にしてデータ利活用の世界でも枠組みを考えていく必要があります。データ利活用の進め方や利用規約のあり方をともに作っていくことが必要と考えています。

 

消費者・企業双方のリテラシー教育が必要

田中: 全体を振り返りまとめます。一言ずつどうぞ。

山口: 1つ目として、今回はアンケート回答者の主観で現在の評価を尋ねました。彼らが利便性も不安感も真に理解していたかというとそういうわけではないので、少しでもその理解の水準を高めていくことが重要でしょう。2つ目として、自分の情報を管理する機能があるといっても、それを数十もの利用サービスごとに設定するのは非現実的です。それを一括で管理できるようなサービスが必要になってくるでしょう。

森: 同意の効力が問題になる理由として、取引が分かりにくくなるから、そして、データの提供や連携を前提とした利活用をイメージしているからだと思います。GAFAは一次取得者としてデータを取得しているということに留意しなくてはなりません。一次取得するためには皆が使ってくれるようなサービスを作っていくことが必要で、それがデータ利活用に求められるのだと思います。

クロサカ: 私は決して「同意がいらない」ということは言っていません。同意は必要ですが、現在は企業が消費者に不誠実な状態を強いており、結果的に消費者の契約行為ではないと判断され、リスクとなる可能性があります。あえてセキュリティ水準を高くし、他社が追随できないような戦略を取る企業もいますが、競争環境として正しいのか議論すべきです。消費者に加え企業のリテラシー教育が必要だと考えます。

古谷: データ利活用は社会課題や環境課題の解決に貢献でき、最終的にはそれが人々の利益につながっていくと考えます。そういった方面でもデータ利活用を進めていけるような企業や消費者、行政であってほしいと思います。

田中: データを利活用するための法基盤はなく、同意のあり方に関してもわかりにくく、ルールができていない状況です。しかし、ルールができるまで待っていると競争力を失い、結局今の状況でも何か手を出していく企業が生き残るでしょう。消費者の意思疎通が簡単にできる仕組みが必要ですが、それも現状ありません。制度的な工夫をして解決する状態になってきていると考えられます。

 

Session 2 日本流データ活用・流通戦略のシナリオ
特別講演①「日本のデータ戦略・プラットフォーム戦略について考える」

渡邉 昇治(経済産業省 大臣官房審議官(産業技術環境局担当))

多面的な対応が必要なIT政策

中国は巨大な市場があり、政府も保護主義の政策をとっています。欧州も同様で、自国の産業やマーケットの特徴をとらえて政策をたてています。その一方で、米国は民間が元気なので下手な施策を打たないようにしており、中欧米で、データ利活用戦略は実に三者三様となっています。日本は「Data Free Flow with Trust」という政策を立てており、データはなるべく流通させる方がいいという認識でいます。

IT政策は多面的で、不用意にデータを出さないようデータや知財の保護をする一方で、ITビジネスの海外展開を行う必要があります。また、外から入ってくる危険なものへ対応するため、そして国外勢に負けないようにするために、国内の技術力の向上が必要であると同時に、海外からの投資や研究者などの受け入れも行う必要があります。

 

IoT時代の日本のITビジネス戦略とは

日本のITビジネスが今後世界で戦っていけるかという話をします。IoTが進むと、車やロボットなどがIT化するとそこから情報が取れるため、製造業が最初にデータを手にする可能性があります。この製造業という分野について、日本企業は世界でマーケットをとっています。

ただし、大きなデータを取れるポテンシャルはありますが、日本は一つの業種に小さな会社がたくさんあるため、そのままでは難しいという実情があります。そのため、データを複数接続して、見かけ上「大きなデータ」として使っていくことが必要になってきます。政府では、「Connected Industries」としてこれを重要視し、税制やモデル事業、標準化で支援しています。

また、現在はクラウド層で集中的なデータ管理を行っています。IoT化が進むと、応答速度などの事情からエッジ側で情報を貯めたりフォグ層という国内の小規模なデータセンタで処理したりという分散化が進むと予想されます。日本は省エネ型の小さなデータセンタ向けのチップ開発は得意とされており、今後重要になってくると思われます。コストやセキュリティの観点からも今後多くの国が分散管理することを志向するようになると考えられ、日本がまずやって見せることが重要となるでしょう。

 

「2025年の崖」とデジタルトランスフォーメーション

今のレガシーシステムを維持しようとしていくとどんどん損失がかさみ、2025年には最大年間12兆円の経済損失になるという試算があります。我々はこれを「2025年の壁」と呼んでいます。また、継ぎ足しでシステムを構築しているのでその全体を知っている人がおらず、サイバー攻撃を受けた際にどこが原因か究明が難しいなどの問題もあります。

このシステムの問題解決には、業務自体の見直しも必要となり、これをいかに実行するかが課題となります。そのため政府は、経営層などによる改革をサポートするために「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進ガイドライン」を作成しています。

また、このような時代にはサイバーセキュリティも大変重要な課題となります。それに対し、サイバー空間とフィジカル空間が融合する社会で求められるセキュリティ対策の全体像を「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」として公表しています。サイバーセキュリティについては、IPA(情報処理推進機構)が情報共有のためにJ-CSIP、インシデント発生時のためのJ-CRATを組織しており、IT人材育成やIT社会の動向調査や分析などを行っています。

 

国内外のプラットフォーマーに対する規制の現状

EUの個人情報や対個人への規制はすでに知られているように厳しい法律で行っています。ただし、EUのプラットフォーマー規制は、出店している小売店や中小企業との規制です。つまり、プラットフォーム企業への説明と情報開示の義務を追わせる法律を施行して規制を行おうとしています。日本でもこのような観点から、公正取引委員会と総務省、経済産業省の三者が、プラットフォーマーに対する規制に関する議論を行って基本原則を出しています。

プラットフォーマーがいる事自体は経済成長に役立っているので、単純に規制するものではなく、うまく活用しつつ問題があればそれを改善させるようなバランスの取れた政策が必要と思われます。公正な市場競争、顧客保護や企業保護ができれば自由に競争させるべきだと考えています。今年5月にデジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会ワーキンググループが検討会の報告書を出しました。

 

Session 2 日本流データ活用・流通戦略のシナリオ
特別講演②「日本においてデータ流通・活用を
阻害してきた要因と今後の活路」

楠 正憲(Japan Digital Design株式会社 CTO)

「プライバシー」とは何か:歴史を紐解く

データの利活用というと合わせ鏡のようにプライバシーの話が出てきます。プライバシーが気にされ始めたのは19世紀末くらいからで、当時のイノベーションと関係があるものとみられます。当時は、新聞報道や乾式写真が発明された頃で、ジャーナリズムが発達し、それらから逃れるためにプライバシーという概念が生まれました。

19世紀末のもう一つのイノベーションはパンチカードです。アメリカではかつては国勢調査を10年に一度やっていましたが、人口の増加とともに集計が大変になってきました。手作業で処理するのに13年かかっていましたが、パンチカードでやると2年で終わるようになりました。その後、ヨーロッパに輸入されてナチスドイツが悪用した。歴史的に見て人の生き死にに影響を与えたゆえに、「プライバシーは人権問題」という認識がEUにあるわけです。そのような背景で、GDPRが制定されました。

一方、日本は戦時中に便所の落書きや図書館の貸し出し履歴を収集していました。国内に反政府勢力はあまりいなくなりましたが、特高(特別高等警察)は誰かを悪者にしなくてはならないのでこれらの情報をもとに拷問をしました。日本ではそうした戦争のトラウマから憲法で通信の機密を認めています。ドイツでも日本でも戦争の反省がありました。

 

データ競争は90年代から起こっている

90年代後半のアメリカでは通信傍受が行われていました。分析対象が多すぎて分析しきれなかったので、分析するためのデータベースの研究が大学で盛んに行われました。その技術が後にドットコムなど産業に結びついてきました。日本でデータが重要であると言われてきたのはこの5年くらいでしたが、実はその前哨戦は90年代から始まっていたわけです。例えば、ユーザを集めるためにMicrosoftは高額でHotmailの買収をし、趣味嗜好に合ったデータを集めるコラボラティブフィルタリングの企業も買収しました。

そして、2000年前半になると、9.11を契機に電話からネットでのデータ集めに変遷しました。それまでは音声そのものの分析はできなかったので、電話相手の分析をしていましたが、9.11以降はメールの中身を盗み見る監視プログラムのPRISMが走り、より大量のデータを集めてテロリストをあぶり出すように変化しました。「データこそが価値をもち、データを持っている人こそ勝つ」と喝破したのがWeb2.0提唱者でもあるティム・オライリーで、「eBayがオラクルを買収する日」という本を書いて、パッケージソフトを売りデータベースを握っていた会社をドットコムベンチャーが飲み込む時代が来ると予期しました。実際には少し異なるものの、GAFAがクラウドプロバイダとなり、データを飲み込んでいきました。

 

技術革新とプライバシー脅威

日本で個人情報保護法が制定された頃は、知らない人から自分の名前が載ったダイレクトメールが届くことを問題視されていました。しかし、スマホ時代となるとその人のあらゆる情報がクラウド上でAIを用いて分析されるようになりました。今では当たり前のことですが、これはこの10年での大きな変化です。企業が多くの情報を持ちはじめてまだ10年も経っていないということもできます。

プライバシーに関する脅威として、IoTデバイスが浸透してきていますが、IoTのカメラをディープラーニングするとなると、トラブルシューティングのために人間が多少なりとも画像を見る必要があります。少しの割合でも人間がカメラの画像を見たときに確実に秘密保持のために忘れられるかというと難しいかもしれません。また、中国のように国家戦略として決済データや監視カメラのデータを相互に連携させるビジョンを描く国も出てきています。

 

足りないのは魅力的サービスと社内IT人材

データの流通というと数社のイメージがありますが、実際には大きく異なります。例えば、ネット広告の世界では、広告主から客まで1対1のデータ流通ではなく、またたく間に5社10社を通り抜けます。その理由としては、広告はB2Bなのでニーズをマッチングして、お金になる客につないでいき、データに価値をもたせて収益を発生させる必要があることが挙げられます。

データは「オイル」であり、様々な産業にとって重要であると言われ、「データがないからAIの研究が進まない」と言われます。しかし、果たして本当に足りないのはデータなのでしょうか。GAFAはすでにビジネスを行っており、そこで得られるデータを分析して、収益を稼いでいます。データがあっても、客との接点、マネタイズの仕組みがないと何の価値もありません。本当に足りないものはデータではなくタッチポイントや顧客ベース、それを生むための魅力的サービスではないのでしょうか。GAFAに対して我々が直面している大きな問題はそこだと思います。

そして他にも、様々な組織を超えてデータのやり取りをするためにオープンデータ、API連携、データの標準化についても考えていかねばならないでしょう。

さらに、IT人材に関していうと、日本はIT企業への人材集中が進んでおり、ユーザー企業にIT人材がいません。JR東日本のSuica問題の問題点は、第三者提供してはいけないデータを日立に提供したことですが、大本の問題はJR東日本が自分たちでは分析できなかったために、日立のベンダーにやらせたことだと思います。

最後に、今、米中のIT企業が発展してきているのは事前に大規模な投資をし、事前にタネを蒔いたのが収穫期になっているという状態です。したがって、タネを蒔かずに持っているデータからマネタイズできると考えていると甘いと言わざるを得ないでしょう。今後、データを取得し利活用するためにはソリューションを買ってくるのではなく、ビジネスそのものからデザインしていく必要があると思います。

 

Session 2 日本流データ活用・流通戦略のシナリオ
パネルディスカッション「日本流データ活用・流通戦略のシナリオ」

沼尻 祐未(経済産業省商務情報政策局情報経済課 課長補佐)
楠 正憲(Japan Digital Design株式会社 CTO)
中川 裕志(理化学研究所AIP グループディレクター)
庄司 昌彦(武蔵大学社会学部 教授)
渡辺 智暁(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授)

日本企業が攻めるべき領域とは

渡辺: データ流通や利活用をどのように促進していくかというこのセッションのテーマに照らして、これから伸びしろのある領域がどんなところか、そこでデータの流通や促進していくための手段や工夫にどんな物があるか、実現にあたって阻害要因はどんなものがあるのかそれぞれにお聞きします。

庄司: 私の専門である地域情報化や地域でデータ活用をどう進めていくのかという点に重点を置いて話します。私は国産の地方プラットフォーマーを作っていく必要があると考えています。地域には生活に密着したビジネスを展開する企業があります。
例えば私鉄は交通事業に加え、不動産、スーパー、駅ビル、地域開発、学校、病院なども運営していますが、それらのデータは連携されていません。彼らがタッチポイントとつながるビジネスを作れたら生活レベルでの豊かなデータ活用が実現できるのではないかと考えます。こうした企業を地方豪族企業と呼んでいますが、現状、彼らは新しいビジネスを作れていません。これまでの仕事のやり方を変えるのが困難だからだと思います。

中川: ディープデータとして家族のデータに着目してお話します。今は母子手帳や介護のデータがあまり使われていませんが、例えば母子手帳は保健所で必要だったり、ビザの発行手続きに使われたりします。介護のデータは健康情報や既往症、親族についての情報が載っており、介護保険等に有用です。これらの情報こそAIに支援してもらうべきで、ビジネス的にも大きく、逆にそこに失敗するとロスが大きいと考えます。
パーソナルデータエージェントがAI社会で非常に重要なアプリケーションになるということは、米や欧州では話題になっていますが、意外と日本では言われていません。人が死亡した時や認知症を発症して経済資産が把握できなくなった時には資産が塩漬けになり大きな損失となることがありますが、AIのエージェントが管理することでそれを防ぐことができます。これは今後伸びる領域というよりはやらなけばいけないことだと思います。

楠: 1つ目として、本当に天下を取りにいくならGAFAにできないことは何か考えるべきです。例えば医療データに関して、日本は国民皆保険なので全国民のデータが一箇所にあります。また、戸籍情報も日本と台湾くらいしかない制度なので、活用できると良いでしょう。データ分析やAIではGAFAが彼らに有利なゲームとして仕掛けている部分があるので、勝つことより負けないことが大事となります。その点で設備投資のスケールメリットでは勝てないので、提供されるクラウドはどんどん使っていくべきで、その代わり本当に守るべきプライバシーは欧州のようにルールを決めて守らせるようにすべきでしょう。
2つ目として、日本はDXの流れに遅れているので、振り落とされないようにするにはどうすべきか考えることが必要となります。日本は雇用の硬直性とIT産業のエコシステムが起因してユーザー企業でのデータ利用やデータ取得を前提とした事業計画を立てていないが実情なので、人材を再トレーニングして、ユーザー企業のデジタル化をしっかりやっていく必要があります。さらに、個人以外のデータは世界でフラットな情報環境にあるので、そこに着目すべきでしょう。ユーザー企業の持つデータを社会に還元させるための税制優遇など政策誘導をすべきでしょう。

沼尻: まず、GAFAが取っていないディープな個人データ、例えばスマートウォッチのバイタルデータや皆保険のデータをいかに活用していくのかが重要だと考えています。
次に、B2Bのデータです。産業用ロボットや顧客との接点、メンテナンスデータや顧客データはたくさん持っているので、そこを起点としてデータビジネスができるのではないかと考え政策を立てています。現在は、データの利活用のフィードバック先が新しいサービスではなく商品価値の向上になりがちですが、モノ売りからサービス化へ転換した先にどういうビジネスプランを立てるのかというところで世界的な勝負がついていると感じています。
技術を持っているスタートアップとデータを持っている企業がオープンイノベーションを行い協業して新しいサービス化やビジネスプランを描くのが少しずつ進んでいるのではないかと考えています。経済産業省でもJ-Startupとしてスタートアップを支援しており、政府調達や税制での優遇などを行っています。

 

B2Bデータの流通にあたってなすべきこと

渡辺: B2B系のデータの流通をどうやったら促進できるのでしょうか。また、阻害要因は何になるのでしょうか。政府の役割は何でしょうか。

楠: 短期的にB2Bで重要になってくるのは、産業用ロボットと自動運転と思われます。特に日本企業間で部品だけでなくデータの流れについて、今後議論が必要でしょう。契約自由の原則があるので、国はなかなか介入しにくいでしょうが、人命に関わるような公益性の高い部分についてデータの共有を無理やり促すことはできるでしょう。公益性を軸にしてどのようにデータの開示を促す制度設計をしていくかということは国内外で議論していく必要があるでしょう。

庄司: まず、企業と企業が連携してデータを活用していくビジネスのデザインが未熟だと思います。企業と企業がデータを連携するときに、どうやったらリスクを減らせるか、コストが低いかを考える必要があります。
2つ目として、業界団体による規制については懐疑的に思っています。ただし、同じ業種の団体が集まると各社の力関係がはっきりしているため、国が口を出すべき時は出す方がいいでしょう。
3つ目として、業界団体自体が古くなってきていると思います。そもそももともとIT人材が足りないという中で、ITのことを業界内で考えるというのは難しいことだと思います。結局、業界の外からの知恵も必要でしょう。データ流通をガラパゴスにしないためには、いきなりグローバルとは言わないまでも、リージョナルな単位でデータ流通のあり方を考えることもやるべきだと考えました。

中川: 特に自動運転については、法律の果たす役割が大きいと思っています。自動運転車が事故を起こした時に、これまでのような責任追及のやりかたではうまくいかないでしょう。例えば、飛行機だと事故が起こった時に、責任追及ではなく原因追及を優先して将来的に良い方向になるようにしています。今後は事故が減るであろう自動運転でも原因追及を優先させるべきで、そのために刑法や道路交通法を変えていく必要があると考えています。政府には大きな役割があるといえるでしょう。
また、そうなると、コネクテッドカーにおいて情報の流通が変わってくる可能性があります。コネクテッドカーは車を作っているメーカーよりも情報システムを作っているメーカーの方が支配的になる可能性があり、ドイツはすでにそうなりつつあります。

 

どうやってビジネスモデルを変化させるべきか

渡辺: ビジネスモデルの想像力が足りないといわれていますが、それを突破するための工夫や施策についてお話しください。

中川: 主役交代の時期が来ているのではないかと考えます。GAFAは20歳と若い会社であるのに対し、日本の会社は50~80歳と、新陳代謝が遅いといえます。ある種の主役交代を意識的に進めなければならないと思います。

楠: そもそもGoogleも広告でそこまで儲かると思ってなかったはずです。彼らにそうしたビジネスができるのは雇用流動性が非常に高いというのがありますし、内製で商品を作っているので、当たるまで試行錯誤できます。日本のユーザー企業はベンダーに契約書ベースで発注され、本来であれば使われるようになるまで磨き続けることが必要ですが、日本では使いはじめたら発展しなくなり、これが駄目なところです。契約ベースではなくコストベースで磨き続けるようなビジネスに変わっていく必要があります。
次に、プレイヤーが変わるべきという点について、日本は戦後にベンチャーがたくさん出てきましたが、60年代以降はあまり出てきませんでした。アメリカの圧力が入るまで間接金融が主体だったため、ある時点での規格が社会に対して非常に強い影響力を与え、プレイヤーが固定化され、その中で長期雇用や高度成長が進みました。その後、電電公社の民営化や経済のルールの自由化がなされて以降新しい成長モデルができないまま人口減少社会を迎えています。これは国の政策によるもので、人災の部分があり、そこからどうやってリカバリしていくかは被害者ではなく当事者目線で見ていく必要があるでしょう。

沼尻: ビジネス転換を国がどう促すかについてコメントします。経済産業省は、石油のプラントの保安に関する法律である高圧ガス保安法を所管しています。これはプラントのパイプを1年に1回は開放して、腐食していないかなどを検査することを義務付けるものです。これを実際に行うと、プラントを何週間も継続的に止めなくてはならず経済的損失が大きいです。しかし、センサーなどで音や温度や流体の情報を総合的に解析し、どれくらいで腐食するのか予兆管理をすることができます。
そのため、これを行っている企業については4年に一度、8年に一度などに定期検査の期限を延ばして良いというインセンティブをつけました。サンクコストをデータ利活用で減らしていくというのは規制が大きく絡んでいると思っていますので、この他にもインフラのメンテナンスなどにおいて規制を緩和することで、データ利活用を促せるのではないかと考えています。

庄司: プラットフォーム自体が悪いとは思いません。データを有効活用するには、プラットフォームは合理性はあると思います。その上で行われているビジネスに問題があるなら変えていく必要はあるでしょう。消費者からすると、安全で便利であれば国産かどうかは気にしません。利益が海外に流出するのは嬉しくないという意味では、国内企業が作って欲しいと思います。プラットフォームの良い点、悪い点については今後フラットに議論を深めていったらいいと思いました。

 

コラム データ政策に関する世界の議論

データ利活用については、日本政府も「新事業や新サービスの創出、ひいては、国民生活の利便性の向上につながることが期待される」と述べているとおり、様々なイノベーションにつながることが期待されている。また、少子高齢化社会が進行する日本では、データ利活用による社会課題解決にも大きな期待が寄せられている。その一方で、個人情報保護、データの独占・寡占による弊害などの観点から、企業のデータ利活用に対して政府がある程度介入すべきという議論も出てきている。そこで本ページでは、現状の世界の議論を「規制派」「慎重派」の2つの視点から整理する。

 

規制派の主張:将来リスク、個人監視、独占の弊害

規制派の主張としては、「データ分析によって消費者の選択肢や行動を制限できるようになる」「消費者・労働者・市場競争・民主主義に甚大なリスクを及ぼす」「寡占企業が個人を監視できるようになる」など、将来考えられる弊害を懸念するものが多い。

例えば、ケロッグ経営大学院・ノースウェスタン大学教授(経営学・神経科学)のCerf氏は、寡占企業が、人々の生活を操作することが可能になることを懸念しており、「競争法を適用する」「消費者側に強力なデータ保護権限を与える」などの規制方針を提案している。このような主張はテネシー大学教授(法学)のStucke氏もしており、企業による個人の監視や、個人情報を転用するだけで莫大な利益を得ることができるようになってしまうことへの懸念を示している。

また、これまでの独占企業が市場にもたらした弊害を懸念する声も多い。同じくStucke氏は、商品(サービス)の低品質化、イノベーションの停滞を警戒している。そして、南カリフォルニア大学名誉教授(デジタルメディア)のTaplin氏は、巨大企業がサービスを真似ることで、小さな競合他社を簡単に駆逐出来てしまうといった、新規参入の阻害の問題視している。

他には、GAFAの解体を提案しているニューヨーク大学教授(マーケティング)のGalloway氏は、利益額に対する納税額が少ないこと、雇用の伸びが小さいこと、産業の寡占化に伴う経済状況の二極化が進んでいることを問題点として述べている。同じような主張は実業家のMacNamee氏もしており、ある市場での支配力を別の市場でも利用できるが問題であるとして、巨大企業に富が集中することは新規事業の創出が阻害、経済格差の助長につながると指摘している。

 

慎重派の主張:消費者利益、独占の定義問題

データ慎重派の主張としては、「寡占によって消費者に利益がもたらされている」ことを指摘したうえで、「安易に独占・寡占を定義し、規制を検討することの危険性」を述べているものが多い。

ITIF総長の経済学者Atkinson氏は、ネットワーク効果が働くプラットフォームでは、シェアの高い企業の存在が、消費者余剰の最大化につながると述べている。さらに、独占かどうかの検証には市場の定義が必要であり、そこが正確に検討されていないことに疑念を呈している。例えばFacebookとGoogleを合わせても広告市場の25%にも満たず、実際に寡占的かどうか、寡占の存在そのものに疑念を呈している。

同じような主張は、トゥールーズ経済学院学長(経済学・産業組織論)でノーベル経済学賞受賞者のTirole氏もしており、寡占はネットワーク効果の帰結であり、潜在的な競争にさらされているので消費者はそれによって利益を得ているとしている。

消費者利益の視点では、メディアのBloombergも、データの寡占・活用が、無料でのサービス提供につながっていると指摘している。そのため、規制は有償化を招き、補完財のイノベーションは停滞し、消費者の選択の幅は狭くなると、規制を批判している。また、潜在的競争という観点では、他企業が新規参入する余地があることを指摘し、競争法上の介入は意味をなさないとの指摘がある(実業家:Stringfellow氏)。

他の主張として、ミュンヘン大学教授(法学)のLeistner氏は、そもそもグローバル企業に対して、一律に国で規制をかけるのは難しく、民間企業の自主規制から緩やかに望ましいルールの方向性が形作られるのが現実的で効果的と述べている。

 

企画・編集 山口真一
ライター  永井公成
発行年月  2019年11月

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