開催概要

テーマ:『MyData・情報銀行・日本モデルの可能性』
講師 :庄司昌彦(武蔵大学社会学部メディア社会学科教授)
日時 :2019年11月29日(金)18:00~20:00
場所 :国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

レポート

概要

本研究会は、「第二の石油」とまで言われるほど重要視されているデータ分野に関して、産学で意見交換を行い、データ利活用にまとわる諸課題を特定したうえで、その改善策を提示することを目的に2019年9月に設立されました。第3回となる本会では、庄司昌彦氏(武蔵大学社会学部メディア社会学科教授)の研究「MyData・情報銀行・日本モデルの可能性」の内容をベースに、1時間の話題提供の後にディスカッションを行いました。講演ではパーソナルデータの便利な点と惜しい点、及び利用者起点で考える情報銀行のビジネスモデルを主軸に様々な事例が紹介され、消費者の視点に立ったデータ利活用のあり方やローカル経済圏でのデータ利活用を軸にディスカッションも盛り上がりました。

 

講演「MyData・情報銀行・日本モデルの可能性」

パーソナルデータの利用方法「第4の道」

最近の話題として、本年6月の「ヤフースコア」の炎上や9月のリクナビの「内定辞退率の提供」による炎上がある。前者に関して取り上げれば、信用スコア自体は詳細な個人情報を渡すよりも一時的なスコアとした方がよい考え方もある。またデータ利活用を行う企業側からは、一部のプライバシーフリークに気を使っていてはいつまでも利活用など進まないという声もある。果たしてどの意見が正しいのか、庄司氏はそもそもパーソナルデータの扱い方が重要だと主張する。

即ち、ダボス会議における安倍首相の言葉「Data Free Flow with Trust」があったように、日本は米中欧それぞれとはまた違う立ち位置を取った「第4の道」を模索することが重要なのではないだろうか。例えばパーソナルデータを直接活用しないモデルとして、CCCマーケティングが主催したTポイントカードのデータの利用コンテスト「Data Democracy Days」では、最優秀賞に「チョコバットはどこだ?」というアイデアが残った。これは購買履歴データを用いて、買いたい商品や人気が高く品薄の商品の情報を探すことができる、一種の在庫検索サービスである。これは、直接的に個人のデータをあれこれ分析することなく消費者の役に立つアイデアであり、このような新しいアイデアを考えていく必要があるだろう。

 

パーソナルデータは社会だけでなく「私」にとっての資源となる

パーソナルデータが社会にとって役立つ資源となるのは良いことであるし、企業がデータを用いて儲けることも良いだろう。しかし、私に関するデータは、私のものなのだから私の役にも立ってほしい。そして多くの人々は様々なセンサーやアプリを使い、日常生活の中にデータ取得の習慣を組み込むことで、自分を定量的に分析・理解している。例えば体重や食生活といった健康面から、学習時間等のスケジュール面まで多様な利用方法が見つけられている。このようにデータが支援してくれる生活ではあるが、一方で不便さも感じている。例えばiOSのヘルスケアというデータ連携ハブがあるが、連携することができないアプリもある。他にも買い物用のアプリやスケジュールアプリにも統合できていないものがあり、更に便利にしていくことができるはずだ。

「個人が自分自身のデータの主導権を握るべき」という発想が中核となった団体としてはMyDataがあり、日本でもMyDataJapanが創立された。ヨーロッパの会議では、米中・ヨーロッパに続く第3の道として日本があると言われており、ヨーロッパで目指されているような個人主導のデータ活用を進めつつ日本型の情報銀行も支援していくような活動が始まっている。

 

利用者基点で考える情報銀行について

情報銀行ビジネスの可能性として5つの要素がある。第1に、個人情報を自己防衛できない人のために、信頼できる専門家にデータを預ける・管理を担ってもらう「情報金庫」。第2に、個人が企業へ同意に基づいてデータを提供することで対価としてポイントが返ってくる「情報信託」。第3に、個人が企業に信用スコアのような一時的な最小限の情報を提供することでメリットが得られる「スコア提供」。第4に、情報銀行がビッグデータ活用を企業に向けて行い、企業から対価を受け取る「情報サービス」。第5に、情報銀行がデータの分析結果・ツールを提供し、個人が対価を支払う「個人向け分析支援」である。

また、情報銀行について利用意向などを問うアンケートを行った結果、課題としては認知度の低さが挙げられた。但し、内容を説明後の利用意向は2割あった。また、医療や公益性の高いサービス、自分に日常的な特典や利便性のあるサービスなどを具体的に示すと利用意向は4割を超えた。このアンケートから利用意向のある人々が見えてきており、よく理解したうえで利用したいと答える若い男性が比較的多い一方、ITネット親和性が低く恐怖感を持ち利用を控える層は女性の60代、スマホを持っていない人々であるということもわかった。全体として、プライバシー保護・流出や悪用が無いことを強く気にしており、安全性と透明性が大事であるという知見も得られた。

 

信用スコアの懸念点

信用スコアが話題に出るようになった背景としては、中国アリババグループの芝麻信用がある。信用力の弱い個人を多角的に評価することができ、信用の社会基盤とすることができるメリットはあるが、懸念点も多くある。第一に、信用スコアをそもそも信用できるのかという問題であり、算出基準がブラックボックスなだけでなく、高スコア化を目指し特定サービスへの依存度を高める可能性がある。第二に、法律が自動執行される世界のように自動処理をされて気分がよくはないだろう。第三に、政府との関係性がある。芝麻信用は政府の社会信用システムとは別物ではあるが、監視の官民統合には注意する必要があり、完全匿名でも生きていける余地を残しておく必要があるだろう。

 

ディスカッション「MyData・情報銀行・日本モデルの可能性」

――そもそもなぜ第4の道を選択する必要があるのでしょうか。
庄司:それは、情報社会論にもとづくのですが、いずれは欧州主導のフレームに同意できない箇所が出てくるのではないかと考えられるからです。例えば「個人」に対する認識などについて、西洋近代的なものをベースでは共有しているとはいえ、社会制度やサービスを考えていく上ではアフリカ的な考え方や中国的な考え方や中東的な考え方を踏まえる必要があるのではないかと思っています。それは欧州的な思想や倫理観に必ずしも合わない可能性があるのではないか、そしてパーソナルデータに関する議論を欧州がリードし続ける限り欧州に経済的な利益が紐付き続けてしまう点も気になります。ですから、残りの国々はそれぞれの個性を活かせるような第4の道を考える必要があると思います。

――情報銀行の仕組み4つ目というのは、情報銀行が実際に保有している情報を使って自分たちで分析をするということですか?コンサルティングのような。
庄司:そうですね。実際オープンデータ活用事例でも、介護の分野や人材派遣の分野でデータベースを提供しつつ、そのログを分析してコンサルティングをしているものがあります。
――実際のビジネスでは情報銀行と企業の間にサービス業が入る可能性が高そうですね。
庄司:それも勿論あると思います。

――直感的になのですが、情報銀行がコンサルティングのようなことを行えばそれは付加価値があるので、消費者側もお金を払うと思います。ただ、情報金庫のようなサービスに対して消費者はお金を払うでしょうか?
庄司:払うと思いますよ。例えばこれまで沢山講演をされてきたと思いますが、謝金をいただくときに、さまざまな情報を渡していますよね。それぞれにどの情報を渡したかって覚えていらっしゃいますか?
――覚えていないですね。
庄司:例えばそれを全部記録してくれる、付加価値を加えるならその提供まで行ってくれるというのであればいかがでしょうか?
――確かにそれであればお金を払いたくなりますね。決済代行という気もしますが…
――そういう金庫業って、30~50年かけてはじめて価値ができるサービスと思います。例えば、子供の写真とかをとっておく時にInstagramとかDropboxに残したままでいいでしょうかっていう議論ですよね。
庄司:そうですね。私はその日本的なモデルでは長期的というのがテーマだと思っていて、そういう写真とかを預けておいて長期保存できるって価値があると思います。

――情報銀行の発想というのは安心できる情報銀行という組織がいて、情報の流通を促進させるというテーマだったと思うのですが、何でもいいから集めて流通させようという視点が出発点でした。その為、個人の利便性に着目して進んでいるものではない現状がありますが、庄司先生はどうお考えですか?
庄司:「私の考えた最強の情報銀行」というものを考えていまして、形式としては信用組合や協同組合のようなものです。それなりに自分たちが出資して設立して、勿論運用もするけれども基本的には自分たちの方を向いているという着想が最もいいと思っています。

――地域的なデータの利用として面白いと思ったものが、ショッピングモールの中を一定距離歩いたら~ポイント、集客したいときは来店で~ポイントあげますってやると人が集まる。こういうのは面白いなと思いましたね。
庄司:企業が負担するもので地域的な話で言えば、熊本の九州産交が中心のバスセンターオープンの日に県内の乗り物全部無料にした例があります。公共交通の利用料は通常の2.5倍になり、道路の渋滞は半減したようです。また、これは一世帯当たり月1,000円負担すれば、通年の実施も可能だという試算が出ました。
――それはすごく面白いですね。これこそ真のMaaSだと思います。
庄司:そう思います。こうしてローカル経済圏を考えていくと、サブスクリプションでずっとデータが取れていくので企業側は活用できつつも、消費者は無料で公共交通を利用することができる。
――行った先からお金をとる仕組みを作っても面白いですね。ショッピングモールとか。

 

執筆:大島英隆(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)

 

国際大学GLOCOM「日本流データ利活用研究会」概要

近年における高度情報化社会の進展に伴い、データは「第二の石油」とまでいわれるほど重要視されている分野であり、企業・政府双方の関心が高いものとなっております。また、世界的にも個人情報の問題と絡めて主たる議論のテーマにあり、米欧中が三者三葉のデータ戦略をとる中、日本企業がどのような戦略をとるかは、極めて重要な問いとなっています。その一方で、日本企業のデータ利活用は遅れていると指摘されます。

そこで国際大学GLOCOMでは、2019年9月に「日本流データ利活用研究会」を立ち上げました。本研究会では、産学で意見交換を行い、データ利活用に纏わる諸課題を特定したうえで、その改善策を提示することを目的としています。本研究会の実施内容、及び得られた研究成果は、随時ウェブサイト上で公開してまいります。

研究会構成

●主査

田中辰雄(慶應義塾大学経済学部 教授/国際大学GLOCOM 主幹研究員)

●メンバー

生貝直人(東洋大学経済学部総合政策学科 准教授)
大林勇人(Code for YOKOHAMA 主幹研究員)
川本明(慶應義塾大学経済学部 特任教授)
菊地映輝(国際大学GLOCOM 研究員)
クロサカタツヤ(株式会社企 代表取締役)
実積寿也(中央大学総合政策学部 教授)
庄司昌彦(武蔵大学社会学部 教授)
西村陽一(朝日新聞 常務取締役・東京本社代表)
浜屋敏(株式会社富士通総研 研究主幹)
前川徹(東京通信大学情報マネジメント学部 教授)
森亮二(弁護士)
渡辺智暁(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授)

●事務局

山口真一(国際大学GLOCOM 主任研究員・講師)
大島英隆(国際大学GLOCOM リサーチアシスタント)

 

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