開催概要

テーマ:『データ流通推進の方策とその課題』
講師 :森亮二(弁護士)
日時 :2019年12月6日(金)18:30~20:30
場所 :国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

レポート

 

概要

本研究会は、「第二の石油」とまで言われるほど重要視されているデータ分野に関して、産学で意見交換を行い、データ利活用にまとわる諸課題を特定したうえで、その改善策を提示することを目的に2019年9月に設立されました。第4回となる本会では、森亮二氏(弁護士)の研究「データ流通推進の方策とその課題」の内容をベースに、1時間の話題提供の後にディスカッションを行いました。データ流通推進の政策的動向の紹介、その上で感じる限界、そして流通ではない利活用の道が提言されました。

 

講演「データ流通推進の方策とその課題」

データ流通推進の方策

情報銀行とは何か
情報銀行とはざっくり言えば、本人から個人情報を預かって第三者に提供サービスであり、法制度ではない。また、認定制度もあるがあくまで認定なのでなくても情報銀行はできる。似たような概念としてPDSがあるがこことの境界は曖昧である。
PDSは、本人が自分の個人情報の提供をコントロールするシステムやアプリを言うことが多い。データ流通市場とは、個人情報の保有者と利活用しようとする事業者を媒介するプラットフォームのことであり、プラットフォームなのでPDSを持った個人、事業者、情報銀行が繋がりデータのやり取りをする広い概念である。
情報銀行の背景となる考え方にはいくつかあり、①CRMに対してVRMという概念が登場。これまでは企業が個人を管理していたが、顧客が企業を管理するという逆の発想であり、どこの情報銀行に自分の情報を渡していいかに使うという考え方。②データポータビリティの受け皿を行う、機械可読式のデータを渡された本人はどうしようもないので、米国のBlue Buttonのように個人が持っているデータの管理場所という考え方。③パーソナルデータを流通させる産業機能という考え方である。

情報銀行認定制度
情報銀行には認定制度があり、認定自体は民間のIT連が行っているが指針は政府が公表している。初認定が2019年6月であり、現在2社が認定されている。認定基準には①利用者がコントロールできる機能・インターフェースがあること。②消費者からの信頼性確保ができており、例えば第三者提供先からの個人情報の再提供は禁止といったデータ提供の制限ができていること、もし提供先企業が漏洩した場合でも損害賠償責任を負うこと。③情報セキュリティ基準が構築されており、提供先にも同じだけのセキュリティ基準を設けることが挙げられている。認定制度の意義は、デフォルトルールでは長文の規約やサービスの継続利用を条件とした同意の効力が否定されず、見知らぬ人の手に渡ることを防ぐ手段はない。しかし、認定情報銀行であれば二次提供は原則禁止など、形骸化しつつある本人の同意や、自己責任の原則に依存しない仕組みが目指されている。但し気を付けなければならないのは、規制緩和ではないので、そもそも簡単に流通できるようになるような儲け話ではない。

データポータビリティ
データポータビリティとは、本人が他の用途に利用しやすい電子的形式で、①本人または②本人が望むほかの事業者に個人情報を提供できるようにすることである。この法的な義務化に対して、個人情報保護委員会の公表では、かなり慎重で腰の重い表現となっている。
データポータビリティは元々個人の権利であるが、データ流通の産業として語られてしまっている。但しこれを仮に利活用の道具だと考えたとしても、データをどこに移すかは個人次第であり、日本の事業者に渡してくれるかは本人次第という問題がある。結果的に、ポータビリティの義務化は見送られ、デジタル化の推進をするという方針となった。

オープンAPIと銀行法改正
これが流通の方策としては優等生といえる。2017年の改正銀行法でオープンAPIの努力義務が制定された。但しこれは着々と進むかと思ったが、金融機関がFinTech企業に簡単に提供していないことから、難航してしまっている。

 

データ流通推進の課題

データ流通推進の限界
最大の問題として考えられることは「利活用」と「流通」は違うのではないかということである。そもそもGAFAは流通などしておらず、自分で取得したデータをしようしている。日本でこの発想が生まれたのはそれぞれの保有量が少ないから融通しようという仕組みだが、これを制定してしまうと投資のインセンティブが失われるし、費用が掛かる。更にこれはそもそもプライバシーの侵害ではないのか?という発想から、限界を感じている。
例えばcookieとターゲティングに関して。Webサイト自体ではなく、画像や広告のサーバーにも個人の意識外でデータが送られてしまっている。サードパーティ側は、誰が何回どこからこの画像を見ているのかがわかる。更にここから広告ビジネスにするには、その画像枠を競りにかけ、広告事業者側が買うという形になっている。

事例紹介①:Facebookの行政指導
Facebookの行政指導が何故行われたのか。画像といいねボタンの違いとしては、消費者は情報をFacebookにも登録しており、いいねボタンがついている限りはどのサイトを閲覧したかが紐づけでき、個人情報として収集していることが問題となった。そしてこのこれによる行動ターゲティング広告による売り上げが極めて大きく、FBの場合はいいねボタンにより十分の説系のないまま個人情報を取得して販売していると言っても過言ではない。これは個人情報保護法17条1項に当たる恐れがあるとして行政指導を受けた。だが、これはビジネスの根幹ではある為、行政指導を受けてもやめていない。

事例紹介②:リクナビ事件 -行き過ぎたDMPの利用
事件概要は、リクルートキャリアが就活中の学生が辞退する確率を判定したデータを契約企業に販売していたということである。過去の内定辞退状況や登録情報、そして就活サイト等内外のWebサイトの閲覧状況を基にAIによる分析でスコア化したものであった。
個人情報保護委員会の行政指導はリクナビ2020の同意が取れていない部分について勧告を行い、同意があった部分にしても説明がわかりにくいとして指導の対象とした。
契約企業は個人が特定できないcookie情報をリクルートに開示し、リクルートはリクナビが保有するCookie情報と突合し算出したスコアを納品。その上で契約企業内が自社の企業IDと照らし合わせれば個人を特定できる。
また別の視点からこれを捉えた際の問題として、これは従業員の監視にも十分使えるということが挙げられる。例えばSNS等も監視し、攻撃性や自己顕示欲社会性などを数値化し、暴言や投稿頻度などを監視している。
これによって個人情報保護法も見直しがなされた。適正な利用義務の明確化がなされ、個人情報の利用の仕方がプライバシー侵害だけでなく、本人に不適切となれば違反となりました。また、提供先において個人データとなる場合の規律の明確化がなされ、提供先で個人データとなることが明らかな情報について、個人データの第三者提供を制限する規律を適用するとなりました。

データ利活用に向けた提言
いいねボタンを置いている理由をちゃんと新聞各社は考えているのか。拡散してもらえるのでPVが増えるから提供しているとしたが、そもそもPVよりも大事なデータを渡してしまっているのではないか?結束して自前で広告配信すべきなのではないでしょうか。個々の新聞を拝見しても、ここのニュースだけでなく生活情報も素晴らしいものがあるので、これをぜひ連合を組んで欲しい。
もう1点目は自前主義を阻む岩盤規制が問題だということ。日本市場におけるGAFAは存在感があるが、ECやSNSではまだ拮抗或いは勝っている。
例えばLINEならばデータはたくさんあり、流してほしくないと考えている。
そもそもFacebookもデータ流通で収益どころか顰蹙を買っている。プラットフォームの利益を現実にしているのは流通ではなく、自分でユーザーデータを集めることができるかどうかではないか。

ディスカッション

――情報銀行認定制度における情報の二次流通禁止というのは、言っているだけなのか、具体的な制度があるのですか。
森:言っているだけですね。
――それで流通させたときに刑罰があるってわけではないのですか。
森:あくまでも認定制度なのでそうですね。勿論損害賠償の契約は結ぶことが条件なのでそういった話はあると思いますが、認定制度としてはそういうことをしたら認定を外すというだけです。

――同じことが月額でお金を払っている新聞サイトとかだった場合、これはFacebookと同じように個人情報を収集することができるってことですよね。
森:でも新聞社はいいねボタンみたいなのを持っていません。
――ただこれはFacebookに新聞の広告があったらそうですよね。
森:そうですね。ただFacebookとは広告ネットワークが違いますし、ビジネスモデルも違います。また、Facebookはそんな簡単にオーディエンスデータを渡しません。これをホイホイ渡すのは日本企業位です。
――なるほど。いいねボタンがあちこちにあるのが驚異ってことですね。
森:そういうことです。ただ勘違いしちゃいけないのは、このボタンを付けているのは我々のわけですよ。

――どのサイトを見ていたかっていうのは、どうやって収集したのでしょうか?
森:リクルートコミュニケーションズが配信していたバナー広告や、Webビーコンを使っていたようです。

――信用スコアをリクナビが予測してそのデータを個人に紐づくようにして提供したわけですよね。FBの時で個人情報と紐づくようにしたならば個人情報の適用を受けるのではないですか?
森:なります。ただ議論が分かれてもいたようで、見解をはっきりさせたうえで公表した結果、今このような騒がれ方になっているのだろうと思います。

――これって不適切な利用方法っていうのは、個人の不利益の情報であっても適切な利用であれば問題ないってことですよね?
森:そうです。
――ただこれってすごく抽象的ですよね。判例を積み重ねていくということでしょうか。
森:そうですね。また、これが制定されたことによって何かが発生した時にメディアや消費者が動くようになるので、今後利用目的の見直しが進むという意味では効力があるでしょう。

――この見直し作業をする中で、リクナビ問題というのは影響したのでしょうか?
森:影響しました。
――リクナビは適正利用義務違反ではないとしているのに、今後このような事態になったときにこれを判例として適正利用義務違反ではないってことになってしまうのか。
森:ただ今回と同じような場合には提供先における個人紐づけの問題の方で叩けるでしょう。
――収集の仕方はまずかったですが、利用の仕方は誰が判定するのですか。
森:行政処分が起きれば内容をみるでしょう。そして取り消し訴訟が起きて、そもそも判例の蓄積なんてないので、最終的には世論を受けてどうなるかという形でしょう。
――世論を受けて動けるような発表をすることがあるのですね。
森:それは法律家としては申し訳ないですが、今回の件もそうでしょう。

――情報の不適切利用の話題で、破産者マップというのがあったと思うのですが、あれって元は公開情報ですよね。何が悪かったのでしょうか。
森:それは消すのにお金を取っていたというところですね。
――問題はそこですか? 人の再起が難しくなるからという倫理的な理由ではないのですか?
森:恐喝していたからというのは最大の理由ですが…
――ああ、そうですよね。ただ情報の利用という意味では、公開情報なのでこれを勝手にマップにして公開するまでで、お金を取らなかったら大丈夫だったってことですか?
森:それはわからないです。倫理的な理由で問題になる可能性は勿論あります。

――今回の話を聞いていて、世論を聞いて動かせるっていうのはいいなと思いました。がちがちに固められない事象に関して世論に適応できるようにするというのはいいと思います。ただ、声の大きい人の意見が強くなってしまうっていう懸念もあると思うのですが。
森:それはあると思います。
――過激な思想っていうのは可愛いと思うのですが、それを米国大統領選挙でも話題になったように、お金をもらって炎上するみたいなのがあると問題かなと。
森:それは難しいところですね…

 

執筆:大島英隆(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)

 

国際大学GLOCOM「日本流データ利活用研究会」概要

近年における高度情報化社会の進展に伴い、データは「第二の石油」とまでいわれるほど重要視されている分野であり、企業・政府双方の関心が高いものとなっております。また、世界的にも個人情報の問題と絡めて主たる議論のテーマにあり、米欧中が三者三葉のデータ戦略をとる中、日本企業がどのような戦略をとるかは、極めて重要な問いとなっています。その一方で、日本企業のデータ利活用は遅れていると指摘されます。

そこで国際大学GLOCOMでは、2019年9月に「日本流データ利活用研究会」を立ち上げました。本研究会では、産学で意見交換を行い、データ利活用に纏わる諸課題を特定したうえで、その改善策を提示することを目的としています。本研究会の実施内容、及び得られた研究成果は、随時ウェブサイト上で公開してまいります。

研究会構成

●主査

田中辰雄(慶應義塾大学経済学部 教授/国際大学GLOCOM 主幹研究員)

●メンバー

生貝直人(東洋大学経済学部総合政策学科 准教授)
大林勇人(Code for YOKOHAMA 主幹研究員)
川本明(慶應義塾大学経済学部 特任教授)
菊地映輝(国際大学GLOCOM 研究員)
クロサカタツヤ(株式会社企 代表取締役)
実積寿也(中央大学総合政策学部 教授)
庄司昌彦(武蔵大学社会学部 教授)
西村陽一(朝日新聞 常務取締役・東京本社代表)
浜屋敏(株式会社富士通総研 研究主幹)
前川徹(東京通信大学情報マネジメント学部 教授)
森亮二(弁護士)
渡辺智暁(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授)

●事務局

山口真一(国際大学GLOCOM 主任研究員・講師)
大島英隆(国際大学GLOCOM リサーチアシスタント)

 

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