オンラインWS「ウィズコロナの働き方を考えるワークショップ ―リモートワーク文化を構想する」

ファシリテーター:筧 大日朗(株式会社フューチャーセッションズ代表取締役副社長)
         菊地 映輝(GLOCOM研究員・講師)
開催日時:2020年11月25日(水)15:00~18:00
開催場所:Zoomミーティング

レポート概要

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、多くの企業がリモートワークへの対応を求められている。リモートワークを導入するにあたっては、社員をケアし、組織として機能する仕組みを設計することが重要である。今回のオンラインワークショップでは、「ウィズコロナの働き方を考えるワークショップ」として、参加者全員で自分たちにとって適したリモートワークのあり方を「リモートワーク文化」として構想する。冒頭趣旨説明の後、ステップ①ではリアルワークの良い点と悪い点、リモートワークの良い点と悪い点をそれぞれオンラインコラボレーションツールのMURAL上で記入した。ステップ②では、ステップ①で集まった意見に基づいて、より良いリモートワーク文化を一言で捉えるワークを行った。その後、菊地研究員による文化変容装置の説明を踏まえて、ステップ③ではリモートワーク文化の仕組みを設計するワークが行われた。最後に、各ルームから検討結果の報告が行われた。

冒頭:菊地研究員より企画説明(5分程度)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、私たちの日常は大きく変化している。そのうちの1つが働き方に関してである。現在も多くの企業がリモートワークへの対応を求められているが、リモートワークではITリテラシー習熟度が生産性に直結したり、定時という概念が曖昧になって労働時間が多様化したりと、これまでのリアルオフィスを中心とした働き方が大きく変化する。そのため、ただリモートワークを導入するのではなく、社員をケアし、組織としてきちんと機能する仕組みを設計することが重要である。
国際大学GLOCOMでは、株式会社フューチャーセッションズと共同し、企業文化を変容させるCorporate Culture Changer(CCC)プログラムを開発し、企業へのコンサルティングメニューとして提供をしている。今回のオンラインワークショップでは、そのCCCプログラムの一部を応用し「ウィズコロナの働き方を考えるワークショップ」として、参加者全員で自分たちにとって適したリモートワークのあり方を「リモートワーク文化」として構想する。

ステップ①:リアル&リモートワークを評価する(30分程度)

ステップ①として、リアルワークの良い点と悪い点、リモートワークの良い点と悪い点をそれぞれMURAL(*1)上で記入した。参加者は二つのルームに分かれて議論しながら記入を行った。ルーム内では、それぞれの多様なバックグラウンドに基づいて多様な意見が出された。セッションの最後に、共感した意見への投票が行われた。その結果、「通勤時間がかからない」(リモートワーク)、「交渉がしやすい」(リアルワーク)、「満員電車に乗らなくてよい」(リモートワーク)、「家族との時間が増える」(リモートワーク)、「現状維持型の仕事が増えた」(リモートワーク)、「コミュニケーションがとりづらい」(リモートワーク)等の意見が多くの共感を得た。

*1 オンラインで同時に編集可能なホワイトボードを提供するツール。主に付箋を用いてやりとりをする。付箋に文字を書いてグルーピングしたり、線を描画したりすることが可能。

ステップ②:リモートワーク文化を構想する(20分程度)

ステップ②では、ステップ①で集まった意見に基づいて、より良いリモートワーク文化を一言で捉えるためのワークを行った。具体的な作業を次の通り。参加者はステップ①と同様二つのルームに分かれた。ステップ①で記入された意見のうち、各人が最も改善したい、もしくは維持したいと思ったものをピックアップ。ルーム内でそれぞれの意見を集約し、それらをワンフレーズで「〇〇文化」として捉える試みを行った。
ルーム1では、「通勤時間がかからない」、「食事時間が規則正しくなる」、「チームメンバーとの雑談が多くて関係性を築きやすかった」の三つの意見が選ばれた。この三つを集約するような文化とは何かについてルーム内で意見交換が行われた結果、「他者と気持ちがつながりつつも、行動は独立している文化」、「ストレスフリー文化」、「自発的(自然な)チームやルールが生まれる文化」という三つの候補が作成された。
ルーム2では、「自然に情報が入ってくる」、「家族との時間がふえる」、「対人ストレスが生じることも…」という三つの意見が選ばれた。この三つを集約する文化として「人・情報とのつながり度合いを選択できる文化」が構想された。
ルーム内でのワークの後、各ルームでの議論についてファシリテーターから共有された。

インスピレーショントーク(文化変容装置の考え方について)(10分程度)菊地映輝(GLOCOM研究員・講師)

本ワークショップでは、最終的にリモートワーク文化変容装置を設計することが目指されているが、そのための思考の枠組として、菊地研究員より以下のようなインスピレーショントークが行われた。
文化を変容させる「仕組み」を考えるために、「ツール」×「ルール」=「仕組み」という方程式を考えてみる。「ツール」の例としては、Zoom、MURAL、Slack、社内ポータル等が挙げられる。ルールの例としては、「使い方の制限」「ゲーム要素」「真逆の使い方」「アナログなやり方」等が挙げられる。これらを踏まえ、例えば、「Zoom」×「誰か一人新しく来るまで抜けられない」=「行くと必ず誰かがいるオンラインゲーム」という方程式が考えられる。
こうしたことを考えるための枠組として「文化変容装置」という枠組がある。都市社会学分野における研究では、文化変容装置には次の三つの機能があるとされている。
①アイデンティティ維持:人々がアイデンティティを感じられるようになる。
②ネットワーク形成:既にある人のつながりを強化し、新しい人とつながることを補助する。
③活動手段・情報提供:何かする際の活動手段・情報を共有する。
これらの要素が満たされた時に、文化は変容しやすいというのが文化変容装置の考え方である。リモートワーク文化を構想するにあたっては、これらの要素を意識してみるとよい。

ステップ③:リモートワーク文化の仕組みを設計する(1時間5分程度)

ステップ②で作成したリモートワーク文化を実現するための、「ツール」×「ルール」=「仕組み」について二つのルームに分かれて検討が行われた。各ルームでは、ファシリテーターも交えながらそれぞれの経験や仕事観に基づき活発な議論が行われた。

<ルーム1>

ルーム1での検討状況につき、参加者より報告が行われた。ルーム1で出されたアイデアは以下の通り。

ツール ルール 仕組み 仕組みの内容
Zoom  音だけずっと接続 Stlessな疑似オフィス(Seamless×Stressless) 音だけでも接続しておくことで、緩やかにつながり、雑談のきっかけや気づきの確保が可能になる。例えば、DJ担当を決めておいてチャンネルをコントロールしたりすることもよい。
Zoom 繋げっぱなし(離席(映像・カメラオフ)は15分まで) リアルより繋がれるオフィス 離脱可能時間も含めて、Zoomを繋げっぱなしの状態にすることをルール化することで、個人の思考コストを減らしてストレスを軽減させる。
タスク管理シート(Googleカレンダー等) 今の仕事状況を自己申告ではなく勝手に分類してスケジュール共有してくれる機能/週3時間は自分ごとをやっても許されるルール 自分を大事にするご褒美タイム(メンテナンスリーブ) お互いの業務状況を把握したうえで、勤務時間中に一定のプライベートな時間を許容することにより、ストレスを軽減させる。

<ルーム2>

ルーム2での検討状況につき、参加者より報告が行われた。ルーム2で出されたアイデアは以下の通り。

ツール ルール 仕組み 仕組みの内容
Teams ランチを食べるとき何を食べるか発信する 雑談のきっかけとなるチャットルーム Teamsを用いて自分の出社状況や昼休みの状況を共有することにより、雑談のきっかけが生まれる。
Zoom/Spatial Chat 焚火映像を流し続ける バーチャルキャンプファイアー 焚火映像を流し続けると人は話をしやすいという傾向があるので、それを利用して会話を促進する。
Zoom 音声情報をテキスト化するツールで必ず文字起こし あの時何言ってたっけ?を思い出せる検索/チャット 音声情報をテキスト化して残しておくことで、必ずしもZoomに参加しなくても、業務状況にキャッチアップすることができる。
Zoom 耳だけ参加OK(発言しなくても会議参加して良い) 耳だけ会議 発言の義務を免除することで、緩く情報を摂取することを可能にする。
MURAL/Zoom 複数人で取り組ませないと達成できない種目を作る バーチャルボートレース(チームワークを高める運動会的なもの) チームワークや助け合いを仕組み化することで、社員同士の交流を深める。
PayPayなどの仮想通貨 1円〜100円足りない時に個人送金しあって助け合う。送金受けたら感謝メッセージ送信 バーチャル小銭で助け合い 買い物の会計の際に少額を渡しあう文化を定着させることで、人とのつながりを促進する。
Teams 話しかけられて良い時間を1日15分必ず開けて公開する。ほっとかれたいかかまわれたいかも意思表示する ネコタイム&イヌタイム(誰にいつ声をかけて良いのか迷わない) Teamsのステータスで、「今忙しい」「話しかけて大丈夫」等があるが、それよりもやや緩めのステータス表示を導入して、人とのつながりを促進する(例:ネコタイム=どちらかといえばほっといてほしい、イヌタイム=どちらかといえばかまってほしい)。

以上の報告を踏まえ、どの仕組みが最も好きかということについて投票が行われた。投票の結果、「ネコタイム&イヌタイム(誰にいつ声をかけて良いのか迷わない)」、「バーチャルキャンプファイアー」及び「自分を大事にするご褒美タイム(メンテナンスリーブ)」が票を集めた。

参加者からのフィードバック(10分程度)

最後に、参加者からのフィードバックが行われた。「リモートワークによる意見交換が新鮮だった」、「参加者のバックグラウンドによって意見が異なるのが面白かった」、「コロナで社外との接点が減っているので、新鮮だった」、「文化変容装置について興味をもった」、「まだまだリモートワークをよいものにできそう」等の所感が共有された。

執筆:谷原吏

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