eスポーツはこれからの社会をどのように変えるか【公開コロキウム】

講師:
 川又啓子(青山学院大学 総合文化政策学部 教授)
 權純鎬(神奈川大学 経済学部 助教)
 菊地映輝(国際大学GLOCOM主任研究員・講師)
日時:2023年10月24日(火)18:00~20:00

概要

2023年7月に出版された『eスポーツ社会論』(同友館)の筆者3名によりeスポーツの現状や課題を踏まえ、eスポーツがこれからの社会をどのように変えるかについて発表・パネルディスカッション、質疑応答を行った。eスポーツは興行型ビジネスとして広まったスポーツだが、現在、地域活性化や教育・福祉など多分野への広がりを見せている。イベントでは書籍の内容を振り返りつつ、eスポーツの社会的位置づけや韓国等海外との比較、「ゲーム実況」等の新たな動きや他分野への展開の可能性等について、活発な議論が行われた。

講演1「eスポーツはこれからの社会をどのように変えるか」(川又啓子氏)

科研費で「メガマーケティングによるゲーム/eスポーツの社会的受容促進に関する研究」を行っているが、ゲームの社会受容についてのハードルの高さを思い知ることも多い。さまざまな課題があるなかで、日本のゲーム産業は今、2兆円の市場規模になり(為替相場の状況にもよるが世界では30兆円弱)、世界のゲーム市場で3位だ。ところがeスポーツになると主要国の中で9位になる。すなわち、日本のeスポーツ市場は決して大きいものではない。その原因として日本独自のゲームセンター文化や、世界とは少し違う仕組みになっていることなどが挙げられる。さらに、大きな大会をやろうとするときの法整備の問題もある。とはいえ、2019年に茨城県の国体文化プログラムに採用され、盛り上がったことは非常に良かったと思う。だが、コロナ禍でイベントは実質的にゼロになった。eスポーツとオンラインとの親和性が非常に高かったので、イベントは基本的にオンラインに移行していった。社会的な認知が全く高まらないなかでオンラインに移行すると、とりわけ自治体でやる場合に普通の人が知る機会を逸してしまうことになる。eスポーツをどう捉えるかということになるが、ここでオンラインになってしまったことのデメリットは少なからずあったのではないかと思う。
日本はコンソール型ゲームを中心とする産業構造だが、eスポーツのタイトルはPCゲームが主流であるため、日本ではハード面だけではなく、ゲーム業界の特性は他国と少し違うところがある。

eスポーツはZ世代という言葉と一緒に使われることがある。Z世代は人数が少ないうえに好きなものが細分化されているため、市場規模の面ではZ世代への期待はそれほどないと思う。だが、彼らの新しく提案する価値観、あるいは彼らが良いと思うデジタルコンテンツに上の世代の人たちが取り込まれていったときに、市場としてのパワーも出るだろうし、新しいライフスタイルが提案できるかもしれない。たとえば、今、eスポーツで感じるのは、「見る」人たちの広がりだ。スタジアムでゲームを見ると迫力が違う。「遊ぶゲームから見るゲーム」への対応が求められているのではないか。しかし、新しい視聴パターンに対応することに、特にゲーム業界の大手があまり積極的ではない。また、実況者という職業は、トップレベルになると月収300万円だという。こうしたことが普通に起こっている。

そして、個人的な関心事として外国籍の子供の問題がある。今、日本では外国人労働者の方が増えているが、親と一緒に日本に連れてこられた子供は日本語もわからず孤立する事例も多いようだ。そのような子供であっても、言葉の理解をほぼ必要としないゲームだったらできるというので、地方の商業スペースで開催されるeスポーツイベントなどで日本人の子供と交流しているようだ。

このようにeスポーツは、ライフスタイル、職業、社会形成に影響をおよぼしつつあり、その現象を通じて次世代における価値観変容を垣間見せているように思う。

講演2「テクノロジーの進化、そしてユーザーの日常としてのゲーム/eスポーツ」(菊地映輝氏)

『eスポーツ社会論』の中では、私は第3章、第4章の2章を担当した。第3章は市場規模に表れない形のeスポーツの広がりを、ゲーム実況という文化から考えている。第4章では新たなテクノロジーの到来と、それが引き起こすゲームの変化を「文化のDX」という独自の概念を交えつつ論じている。

「文化のDX」とは既存のDXにまつわる議論を文化領域に応用して作り上げた概念だ。フェーズ1が既存文化の創造過程において、アナログであった部分をデジタル化することである。フェーズ2がデジタライゼーションだ。文化のDXにおいては、デジタル環境を踏まえて既存文化のエコシステムを再構築することを指す。最後にフェーズ3として、デジタルトランスフォーメーションが起き、デジタル環境を前提に文化自体のあり方が変容する。ゲームの例で言うとフェーズ1はアナログゲームからデジタルゲームへの変化になる。フェーズ2はビジネスモデルの変化が当てはまる。ビジネスモデルの変化というのは、ゲームはほとんどパッケージで買わない時代になっているということだ。デジタル環境を踏まえて文化がどのように再生産されるかを考える部分で、ビジネスの形の変化は大きい。

フェーズ3はデジタル環境を前提に文化自体が変容するということになる。ゲームの社会的な位置付けやゲーム自体の内容の変化が、文化のDXの中で起きているのではないかということで、その実例を本の中で3つ挙げている。1つは、子供が友達と通話しながらFortniteをやっていることだ。昔だったら、友達の家で宿題が終わってからゲームをしたが、今は自宅にいながらFortniteにアクセスして、友達とボイスチャットをしながら宿題をやる。終わってからゲーム機能を使って遊ぶことになる。この変化を支えているのは、昔のゲームにはなかった音声通話システムを組み込めるようになったことだ。全部のゲームにボイスチャット機能があるわけではないが、その場合はDiscordのような音声通話機能を持ったソーシャルメディアを使っている。

次は、メタバースの一つVRChat上のホラーワールドの例だ。あたかもホラーゲームをプレイしているかのように、お化け屋敷みたいな世界で恐怖演出を体験できる。VRChatは世界的なゲーム配信プラットホームであるSteamで配信され、ワールド(VRChat上の世界)やアバターはゲーム制作にも使われているUnityで作られている。こうなると、これはゲームなのかどうかという問題が生じる。

最後は、ゲームはプレイするものからみんなで見るものに変わっているということだ。文化がDX化することで、その文化自体のあり方が変わる。その如実な例が、この変化ではないか。これは実際にYouTube上にあがっているゲーム実況動画の再生数からも分かるし、芸能人がゲーム実況をするテレビ番組も増えていることも示唆的だ。ゲームをプレイするのではなく、誰かが遊んでいるのを視聴するようになるということは、ゲームのストーリーをみんなが知ってしまうということにつながる。そのため、ストーリーを知っていてもやりたくなるゲームや、ストーリーモード以外の要素を持つゲームが増えているのではないかと思う。

第3章はメディアコンテンツとしてのゲーム/eスポーツを検討している。eスポーツの市場規模は1年間で増えて3兆円だ。規模は大きくないが、市場規模に表れない形でeスポーツは成長しているのではないか、それがゲーム実況にあると考えている。ゲーム実況には2種類ある。1つはサッカーの解説者、あるいは実況者のように現在起こっている状況を実況中継するタイプだ。もう1つは自分がゲームしている状況を実況するタイプで、後者のほうが人気のゲーム実況者も動画の総数も多い。

第3章での主たる主張のひとつは、じつはゲーム実況は落語の構造と同じなのではないかということだ。日本の伝統的語り芸は同じ素材を扱っていても、芸をする人により語りの違いや解釈、アレンジも違う。同じことがゲーム実況者にも言えるのではないか。つまり、同じゲームのプレイでも実況者によって語りのうまさや下手さがあり、ストーリーが一緒でもリアクションやコメントが異なるため、人によって味わいが変わる。題材の面白さはあるのだが、実況者のキャラクターの部分が面白さを大きく左右しているのではないか。もう1点、スポーツはプロだけがするものではないという部分が、今のeスポーツの議論ではやや落ちている。eスポーツは世界中に多くのアマチュア競技者がいる。家でゲームをしている人たちの中には、多くのゲーム実況者も含まれる。ゲーム実況が配信されることで、ゲームを始める人や、プロの競技者としてeスポーツの世界に飛び込む人も出てくると思うが、ゲーム実況が見落とされているような気がする。この部分はeスポーツカルチャーにとっても、eスポーツという産業にとっても重要ではないかと思う。

テクノロジーの進化によりeスポーツは多くの人々にとってのメディア、またはコンテンツとなっている。YouTube、あるいは定額制で見られる技術的環境が整ったことで、人々が視聴して楽しむことが日常化している。それに応じてゲームの内容や、ゲームを取り巻く環境も変わっていることをきちんと捉えないといけない。その上で現在生じているのは、限られた時間の中でどのゲームプレイが見られるかという競争だ。同じゲームタイトルの中で誰が実況するか、あるいはどのゲームが見られているのかという面もあるが、他のコンテンツ、メディアとの可処分時間競争になっている。

講演3「eスポーツはこれからの社会をどのように変えるか」(權純鎬氏)

私はすごくゲームが好きで、20年前から韓国で、eスポーツ専門チャネル(Ongamenet, MBC Game)を見て育ってきた。今でもファンとしていろいろな試合を見ていることもあり、研究だけでなくゲーマー目線も交えてeスポーツの最前線で何が起きているかについて情報提供したい。

アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNのWebサイトのトップページでは、2015年に韓国のeスポーツ選手、Faker選手がメインを飾った。ESPNのトップページには基本的に、今まさに最も活躍しているスポーツ選手が出る。アメリカでは、8年前の時点でeスポーツもスポーツのひとつとして考えられていたことがうかがえる。また、韓国では2022年に「重要なのは折れない心」という言葉が流行語となった。これは2022年League of Legendsの世界大会で優勝したDRXのDeft選手のインタビューで派生した言葉だが、チームのいろいろなストーリーと相まって、この表現がすごく流行った。例えばドラマでこの表現をパロディにする、あるいはワールドカップで選手がインタビューでこの発言を引用するとか、社会全般にeスポーツで出てきた話題や内容が広がっている。

eスポーツの産業規模に目を向けると日本と韓国では意外と大きな差はない。産業規模は集計の仕方によって少し金額が変わるが、2021年では165億円である。前年の2020年より周辺事業を含め、少し下がってはきている。eスポーツ関連のパブリッシャーの売上は増えたが、パブリッシャーからeスポーツへの投資が24%も減っている。少しずつ投資を減らしているのは韓国だけではなくアメリカ、中国も含めた世界的な流れになっている。既存のスポーツとは収益構造が異なるため、スポーツビジネスとして課題が多く残されており、この先どうなるかはまだ読めない。

また、近年ではeスポーツの捉え方に関する議論が活発に行われている。韓国の場合、政府機関が定めた基準に合致した種目がeスポーツとして認定され、それ以外はいわゆるゲーム大会になってしまう。例えば、競技が安定してこの先数年きちんと行われるか、競技場があるのか、あるいは選手、監督、コーチなどの雇用が守られるかということを含めて毎年、審査を行っている。

そして、教育という側面においてもeスポーツの浸透が見られている。その一つとして、近年eスポーツの関連学科や大学院が新設されてきていることがあげられる。例えば、 2022年にはソウル大学や延世大学といった韓国の主要な大学でeスポーツに関連する授業が開設されている。さらには、韓国のトップクラス、世界ランキングは45位の工科大学であるPOSTECHでは学内にeスポーツパブをつくった。イギリスのスポーツパブをイメージしで作られた場所で、食事を楽しみながら大画面でeスポーツの試合を観戦できる。傍らにはeスポーツの試合が出来る場所もあるので、大学リーグとかアマチュアリーグの試合もできる。このように、大学という教育機関でもeスポーツへの関心が高まっていることが特徴だ。

eスポーツに関わるスポンサーシップにも変化が起きている。近年のメディアの多様化と細分化によって、いわゆるZ世代と呼ばれる若い世代との接点を作り維持することが難しいという課題への対応としてeスポーツに注目する企業が増えている。例えば、NIKEはLeague of Legendsの世界大会のスポンサーシップであったが、さらに2018年には中国のUzi(Royal Never Give Up)選手ともスポンサー契約を結んだ。これまでNIKEは自社のインフルエンサーとして多くのトップレベルのアスリートと契約してきたが、 eスポーツ選手個人と契約を結ぶのは初めてであり、若い世代に人気のeスポーツから接点を作ろうとしている意図がうかがえる。また、バーバリーやマスターカードなどの有力ブランドもスポンサーシップを締結しており、スポンサーとなる企業も多様化してきている。

さらに、スポーツとしての体系化も進められてきており、その一つとして専門化・分業化がある。これまで、eスポーツの監督やコーチなどの指導者の多くが選手出身であり、初期のeスポーツシーンでは自身の経験に頼ってコーチングすることが多かったと聞く。しかし、最近はデータを測定し、得られたデータの分析を取り入れた指導が増えている。例えば、League of Legendsの場合、 10人の選手が160を超えるキャラクターの中から交互に1つずつキャラクターを選択していくが、相手に使わせないキャラクターも各チームで5個ずつ選ぶ必要があり、相手チームに有利な組み合わせを作らせないようにしつつ自分達にとって最適な組合せを作る必要がある。キャラクター同士の相性やパッチバージョンによって好まれるキャラクターも考慮しつつ限られた時間の中で意思決定をすることが求められるが、最近はこれまでのデータを分析してどの組み合わせがベストなのかを数値で検証することが増えており、また試合の振り返りや練習時にもデータを取り入れるチームも増えてきているという。データ分析を積極的に取り入れていると言われている中国の場合、一部のチームでは5人の選手に対してそれぞれに専属のコーチをつけることもある。

もう一つ特徴的なのは、eスポーツに関する政治的な動きが増えていることである。韓国の場合、大統領選挙でeスポーツに関する公約が掲げられるなど、政治的な関心も高い。国会でeスポーツに関する討論会が開かれており、eスポーツに関する法律の一部改訂案が今年7月に通っている。さらには、地方に競技場を作った場合に、競技場やチームに対して地方自治体が出資できる権限を許可したようで、地方活性化としてのeスポーツの活用にも注目が集まっている。大田広域市の競技場がその最新の例になるが、この地域といえばこのチーム、というイメージで競技場を作って運営している。

そして去年、文化芸術振興法が採択され、「文化・芸術」カテゴリーにゲームも含まれることになった。ゲームに対する捉え方も遊びだけではなく、もう少し広い意味で捉えられるようになっている。今年10月には韓国で5年ぶりにLeague of Legends世界大会が開かれた。地域活性化の面でいうと、全国のいろいろな競技場を使って行っている。決勝はドーム球場を貸し切って行う。また、韓国の貨幣局が正式に発行した記念通貨、あるいは韓国観光公社の入口もLeague of Legendsに合わせている。eスポーツの1つの試合が行われるだけで、政府を含めた関係各所で動きを見せている。

しかし前向きなニュースだけではなくて、投資を減らしていたり、チームの売却が増えていたりなど、ビジネスモデルとして限界が来ている時期だと思う。選手の年俸が非常に高くなっていて、収益が追いつかない。従来のスポーツビジネスと違って、YouTubeやTwitchなどのライブストリーミング配信フラットフォームで中継が行われ、オンラインならばお金を払わず視聴でき、放映権などの権利収入が得られないなどの様々な課題がある。

パネルディスカッション

菊地:まず、eスポーツはこれからの社会をどのように変えるかということで、ここが変わるのではないかというところをお伺いしたい。
川又:今、eスポーツがもたらす効果に注目が集まっているが、直接市場があまり大きくないので、説得の材料としてeスポーツの効果について重点的に議論しているように思われる。その中で、高齢者福祉と医療系は非常に大きな可能性があると思う。
權:同じく、教育や福祉を含めて様々な分野への影響が増えると思う。また、少し前からeスポーツのプロ選手が出ている。だが、従来型のスポーツビジネスと比較した場合、現状では少しうまくいかない部分があるという面から、これまでのスポーツビジネスでは見られなかった新しい職業が出てくるのではないか。そして菊地先生の話にもあった文化のDXが進められていくと、おそらく生活、あるいは、ゲームを楽しむ形も変わっていくと思う。そういった広い範囲で変わっていくのではないか。

菊地:医療や福祉、教育はゲームではダメなのだろうか。なぜeスポーツなのか。
川又:ゲームという名前が良くないのかもしれない。eスポーツという言葉がつくとイメージが良くなることが実際に起こっている。社会福祉にしても医療にしても非常に負のイメージが強い「ゲーム」だとハードルが上がって、「eスポーツ」だと下がるのではないか。ただ一方で、今でもeスポーツとは何かという説明から入らないといけないのが現状だ。
權:一昔前までは日本と同様に、ゲームやeスポーツはネガティブに捉えられることが多かった。ここ数年でその認識も変わりつつあり、韓国ではeスポーツはプロスポーツというイメージが先に来るようになったと思う。それ以外のイベント性が強い大会は、ゲーム大会としての位置付けのイメージだ。ただ、ゲーム大会とeスポーツの大会はどう違うのか、その言葉の使い方は非常に難しい。例えば韓国の場合は法律という明確な基準もあると思うが、文脈や国によってその捉え方の違いはある。

菊地:韓国だとゲーム大会は公共が行うものとしては不適切とか、 ゲーム大会だと子供たちが遊んでばかりというイメージなのか。
權:eスポーツの大会とは異なり、ゲーム大会の場合は競技場を借りて行うこともあるが、基本的にオンラインのみで大会が行われることが多く、あまり実態が見えない。eスポーツは対面に戻したリアルな場所でやっている。ゲームは、私ぐらいの世代が今、親になっていて、子供と一緒に楽しむものになっている。私が子供だった頃と比べ、ゲームの意識はだいぶ変わっている気がする。
菊地:日本だとまだスティグマティックなイメージが強いのは、不思議に思う。
川又:東アジア地域は特に教育熱心なので、ゲームを喜ぶ親はいないだろう。職業として成り立っているとか、社会的に受け入れられて法律ができているという国とは少し違うと思う。また、最近、日本の政府は本気なのかとも思う。日本の有力大学で専任教員が所属しているゲーム研究所が非常に少ない現状をどうとらえるのか。世界的に今、ゲームはコンテンツとして非常に注目されていて、映画とのコラボレーションも盛んになっている。海外のゲームイベントでは地方の政府や自治体による助成金の説明ブースがある。さらに、IT産業の一角としてのゲーム振興としても捉えられる。一方、日本のゲーム産業はどうなのか。
菊地:福岡市は、有名なゲームパブリッシャーのレベルファイブをクリエイティブ産業の核として認識している。ゲームをホビーとして捉えるのか、クリエイティブ産業として捉えるのか、あるいは広い意味でのIT産業の一角として捉えるか。メタバースの世界はIT産業の一角をなしているので、「どう捉えるか」問題はとても重要だ。
川又:フランスのポンピドゥーセンターは、「ビデオゲームは21世紀にとって、20世紀の映画や19世紀の小説のようなものだ」と言っている。もう少し我々が、社会的な意味やアーカイブの問題などを考えても良いと思う。フランスでは芸術に階層があり、9番目にビデオゲームを位置づけている。韓国の本気度も違う。

菊地:2番目のテーマは、「eスポーツに公共・産業はどのように参画すると筋が良いか」である。私はアマチュアをもっと見ていかないといけないと思っているが、地域の若い人たちにゲームをする機会を提供することで拡大する可能性があると思う。ゲーム実況的な敷居の低さとかエンターテインメント要素をもっとeスポーツに入れていくと、日本でも盛り上がるのではないかと思う。
川又:海外では、日本のゲームは大人気だ。ところがeスポーツのメインタイトルでは、一部を除き世界的に行われているものに日本のタイトルは入っていない。eスポーツはいろいろな方面に開かれていくコンテンツとして可能性があるものの、ゲーム産業自体がなかなか開けないところもある。日本ではゲームはダメだという人も多いが、であれば、広く皆さんのやりやすい名前を使えば良い。
權:ゆくゆく産業やビジネスとして展開させるためには、持続的な収入源が必要だ。ゲーム大会はどうしても単発で終わってしまうが、例えばスポーツはリーグ戦という形で定期的に試合が行われる。リーグにするならば、スポンサーが入ってこないと成立しない。単発的な大会から持続的な生態系はなかなか作れない。今のやり方で問題ないと思うが、次のフェーズでどうするかというのは、時間がかかるという印象はもっている。

川又:コロナでリセットされているので、ここで頑張らないと消えてしまうのではないか。オンラインコンテンツの場合、自治体ではやりにくい。スタジアムを作るというと、「インフラか」という批判を浴びる可能性はあるが、視認性は重要である。購買時の意思決定過程の1つには、知って好きになって買うというパターンがあるが、eスポーツのような、よくわからない新しいアイデアを好きになってもらうには、知ってもらうことが重要だ。一方、幅広い世代を取り込んでいくという面で、オンラインコンテンツとしての価値もないと厳しいと思う。
權:今は知ってもらう段階だと思うが、これまでのメインターゲットだった男性だけでなく、セグメントを広げて女性にも関心を持ってもらわないと普及が難しいかもしれない。一定のセグメントにしか反応が出ないようになると、なかなか普及は難しい。eスポーツも世代や性別を超えて幅広く楽しめるコンテンツを作っていくことが大事だと思う。
菊地:台湾出張時に高雄市に行った際に、ある有名な駅でeスポーツの大会が行われていた。公共空間という誰でも入れる環境で大会を行うことは重要だと思う。世間に見せて、広くやるぞという構えが重要なのではないかと思う。
川又:日本でも主催は行政がやっているが、問題は熱心な担当者が3年でいなくなるということだ。担当者と予算の継続性が本当に難しい。一旦終わると継続ができない。消えないためにどうするのかというのは大きな課題だ。基本的にeスポーツはマイナスのイメージから始まっている。そこに公的なお金を入れようと思うと、それなりの枠組みと正当化が必要になる。その辺の不安定さをどうするのかということはあると思う。

質疑応答

帰属意識も醸成される。大学や中学・高校の部活などに組み込むと良いのでは。

川又:部活動は教育基本法に定めがあるので取り入れるのは難しいと教育委員会関係者に指摘されたことがある。今はどちらかというと、eスポーツが生徒集めのプロモーションツールになっていて、帰属意識というのは先だと思う。また、高校の部活に導入する場合、新しくパソコン、ゲームPCを3年に1回とか、5年に1回買い換えなければならない点も難しい。

教育にeスポーツを取り込んでいく場合はどういったエビデンスがあれば良いか。

川又:説得の要因として教育的効果を謳うのも大事だが、まだ校内の他の先生方の説得が大変だという現状もある。そして、職業として成り立つことをどれくらい、エビデンスとして取れるのかということもある。ただ、大人が見ているところでゲームをやらせるのは安全なので、教育現場はひとつの切り口だと思う。エビデンスは注意が要る言葉だが、地道にやっていくということだと思う。

eスポーツで地域にどれだけの経済効果が見込めるのか。

菊地:私はVTuberだと思う。VTuberのeスポーツチームもあるのでグッズ収入は期待できる。韓国だとプロ選手が人気で、ユニフォームも売れている。日本だと来た人が帰りに回遊してくれることと、グッズ収入が見込める。また、インテル・エクストリーム・マスターズといった世界的な大会を持ってくると効果が見込めると思う。

その他、ゲーム/eスポーツの定義についてのご質問や、ゲームクリエーターの分析や日本のeスポーツの歴史の考察が欲しい、「産業から文化へ」という考え方が良いのではというご意見もいただいた。

執筆:井上絵理(国際大学GLOCOM客員研究員)

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