2018.09.19

OPINION PAPER_No.22(18-005)「価値観で結びつくこれからの家族の形 ~家族と財の関係性への考察~」

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OPINION PAPER No.22(18-005)

価値観で結びつくこれからの家族の形
~家族と財の関係性への考察~

青木志保子(国際大学GLOCOM主任研究員)

◆ 家族とは何か

そもそも「家族」とは何か。一般的には「夫婦の配偶関係や親子・兄弟の血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎にして成立する小集団」(*i)とされている。

一緒に暮らす家族を「世帯人数」から見たとき、しばしば両親と子ども2人の4人世帯が、現代における典型的な家族モデルとして取り扱われる。だが、実際のところ、平均世帯人数は2016年度時点で2.87人である(*ii)。では、なぜこの「4人家族」が典型的な家族モデルとなったのだろうか。家族社会学の筒井淳也教授(立命館大学)によれば、高度経済成長期真っ只中の1970年頃に、性別分業がピークを迎えたという。ちょうどこの頃の世帯人数が4人前後であった(*iii)。つまり、「父親は働いて稼いで、母親は家で家事をし、子どもは2人」というモデルが出来上がったのは高度経済成長期であり、現代はその残像をいまだに引きずっている状況であるといえる。事実、1990年以降は共働きがメインとなり、その後、2000年頃からは高齢単身世帯、未婚単身世帯、夫婦二人世帯等、家族の形態は多様化し、平均世帯人数は減少傾向が続いている。

家族を形づくる結婚に対する考え方をみても、戦後は、お見合い結婚から恋愛結婚へ、といった個人同士の選択で結びついた関係で成り立つようになってきた。また、最近では、2015年に渋谷区が全国で初めて同性カップルを結婚に相当する関係と認める条例を制定するなど、結びつきという点からも多様化しているといえるだろう。

「家族」とは何か――。結論から言うと、「明確な定義は無く時代や個人によって異なるものである」というのが正確なところだ。ともに暮らす人を家族だという人もいれば、遠く離れているが精神的な繋がりがある人を家族と指す人もいるし、我が愛しの猫こそ家族だという人もいる。

◆ 現代に見る多様な形と在り方

実際のところ、いま現在、どのような「新しい家族」があるのだろうか。筆者が行ったヒアリングの中から、いくつかの「変わった」実例を見てみよう。

Ex,1)非婚出産の櫨畑家(*iv)

「積極的非婚出産」を自らの意思のもと行った1児の母。大阪の長屋で暮らしながら、近隣の人々や友人たちとともに子育てを行っている。(世帯人数2名)

Ex,2)自分の家族を持たずに父親役をこなす男性

シングルマザーで父親役を必要としている家庭をサポートする「お父さんバンク」(*v)の活動をする男性。家族は持たないが、自分自身を社会とシェアする生き方を実践している。(世帯人数1名)

Ex,3)9人家族の市川・若狭家

共同で子育てを行う複数家族。市川氏とその連れ子3名、若狭夫婦とその子ども2名、若狭妻の恋人の計9人暮らし。(世帯人数はそれぞれ4名、4名、1名となる)

上記の事例は非常にビビットなものだが、そのほかの事例も踏まえた上で、「新しい家族」には強い3つの共通項があることがわかった。1つ目は、「子育ては、血縁関係だけでなく、多様な人の手と目がある方が良い」ということ(これは筆者の実経験でも感じることである)。2つ目は、「既存の家族の在り方にとらわれず、その枠組みを自由に設定する」という考え方。そして3つ目は、「子どもを含め、誰しもを独立した個として尊重する」という姿勢である。

◆ 長期的に見た家族の変化

現在、家族のベースとなる夫婦を指す場合、暗黙の了解として、一生を添い遂げる「恒久的一夫一妻制」をベースに考える人が大多数であろう。日本では明治以降、西洋文化が入ってから本格化した。しかしながら、生物学・人類学(*vi)といった長いスパンで歴史を振り返ってみると、この形がスタンダードになったのは採集段階から自給のための生産段階へと変わった農業革命以降のことであると言われている(*vii)。

かつて自由に様々な場所を行き来していた移動・狩猟採集時代、男女はそれぞれが衣食住において得意なことをこなし権力も平等であった。そして、子を産み育てるという目的に応じて約4年ごとにパートナーが変わる「遂次的一夫一妻制」がスタンダードであったとされる。農業革命で、労働・力仕事が最大の価値となり、男性が権力を握ることになった。そして長い歴史の間で、固定的な住まい(不動産)に縛られ、その財の名義を明らかにしやすい恒久的一夫一妻制がメインとなった。

時を経て、西暦1800年頃に産業革命を迎える。ここで多くの女性が働くことになり、自立して、上流階級から離婚率が上昇し始めた。つまり、この頃から財が家族から個人へ帰属・流動化して、家族の形も流動的になっていったとみることができる。そして現代、世界には多様な家族の形があり、北欧を始めとした福祉先進国を中心に婚外子も増加傾向にある(*viii)。

移動・狩猟採集時代の「家族」は、男女が平等な関係のもと、子育てを共にする共同体として存在していた。そして血縁関係としての境界はあまり重要でなかった。つまり、前述した現代の「新しい家族」の事例と、移動・狩猟採集時代の「家族」は非常に似ている状況であるとみることができる。

◆ 情報社会時代の新しい家族のかたち

女性も男性も同じように働き、互いに自立できるようになった近代。さらに現代では、情報化によって財が可視化され、コミュニティ間で共有される時代となった。車や宿泊施設をはじめとする物や場所、そして技術や能力(働き方)など、様々なものがシェアリングされている。かつて、狩猟採集時代では、目に見える物理的な範囲で財が共有されていた。その対象の規模、そして結び付きの源泉が違えど、かつてのような「流動的な社会」へと新しい形で回帰・適応しているのではないだろうか(図参照)。

財が個人単位で移動(シェア)する時代においては、家族の境界もあいまいになると推測する。例えば、「住まい」。もはや世帯をベースに考えるのではなく、血縁関係にとどまらない多様な家族、共同体をベースに考えていくのが標準となるかもしれない。実際、シェアハウスはすでに多数存在し、シングルペアレント支援と空き家問題の解決を同時に行うソーシャルビジネス(*ix)等、新しい価値を生み出している。例えば、「働き方」。男女が同じ場所と条件なのではなく、かつての狩猟採集時代のように、得意なことを得意な場所で行うことで、はじめて本当の平等と家族の親密性が生まれるのかもしれない。

情報化によってもたらされた新しい形での財の可視化と共有とは、既存の枠組みを超え、個々人の意思や価値観で結びつけることを可能とするものである。

社会の最小単位である家族の形を捉えなおし、ビジネスや社会システムを考えていくことは、非常に有用であると考える。引き続き、財と家族の関係性について考察していきたい。

 

図 3つの革命と「家族」と「財」の関係、社会の特徴(*x)

 

*i 広辞苑をはじめとする一般的な辞書での記載文。
*ii  厚生労働省「平成 28 年 国民生活基礎調査の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf
*iii 厚生労働省「グラフでみる世帯状況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdf

*iv 櫨畑敦子(2018)『ふつうの非婚出産』イースト・プレス。
*v http://otosan-bank.com/ 2018年7月にNHKでもその活動が取り上げられた。
*vi ヘレン・E・フィッシャー(1993)『愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史』草思社。
*vii 1861年『母権論』を書いたバッハオーフェンをはじめ、農業が発展するにしたがって家父長制になったと示している。
*viii 筒井淳也「婚外子差別問題をより広い視点でみてみよう」 https://synodos.jp/society/6426
*ix NPO法人リトルワンズ, http://www.npolittleones.com/
*x viの資料をベースに筆者で作成

2018年9月発行

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