日時

2019年8月2日(金)15:00~17:00

講師

富岡秀夫(総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課市場評価企画官)
※前総務省情報流通行政局情報通信経済室長

コメンテータ

庄司昌彦(武蔵大学社会学部教授/GLOCOM主幹研究員/『情報通信白書』アドバイザリーボード)

会場

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

定員

70名(先着順)

参加費

無料

主催

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

概要

国際大学GLOCOMは公開コロキウム『令和元年版情報通信白書』(総務省発行)読書会を開催します。編集を担当した総務省情報通信経済室の室長の富岡秀夫氏にポイントを解説いただき、参加者と議論を深めます。

今年の白書の特集テーマは、「進化するデジタル経済とその先にあるSociety5.0」です。「シェアリング・エコノミー」や「ギグ・エコノミー」に見られるように、ICTの発展・普及は、「デジタル経済」と呼ばれる新しい経済・社会の姿をもたらしています。この「デジタル経済」の進化の過程を振り返るとともに、日本に必要となる改革を含む将来展望を取り上げています。

具体的なトピックとして、まず、携帯電話やインターネットの発展・普及とこれによるメディア環境の変化について分析しています。一方で、平成時代には企業のICT利用が進まなかったこと、「電子立国・日本」の栄光に影が差していったことについて、その背景と共に解説しています。そのほか、デジタル経済と豊かさや格差の関係についての国際的な議論の状況、デジタル経済の特質とその原理、従来の情報化やICT利活用とは異なる「デジタル・トランスフォーメーション」の意義などを説明しています。

登壇者略歴

富岡秀夫(とみおか・ひでお)
総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 市場評価企画官
1997年郵政省(当時)入省。総務省において、総合通信基盤局国際経済課係長・課長補佐としてICT分野の規制改革を巡る国際交渉を担当したほか、同局事業政策課課長補佐・統括補佐・企画官として通信市場の競争政策などを担当。この間、早稲田大学政治経済学術院非常勤講師も務める。また、和歌山県庁の情報システム部門の責任者を務めたほか、新設官民ファンド(JICT)の経営企画・総務を担当。2018年8月より情報流通行政局 情報通信政策課 情報通信経済室長。2019年7月より現職。

参加申込み

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お問い合わせ

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル2階
担当:小島 Tel: 03-5411-6675 Mail:info_pf[at]glocom.ac.jp

令和元年版情報通信白書について

情報通信白書は、総務省の下記URLで全文が公開されています。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

資料

イベントレポート

レポート概要

総務省から7月に令和元年版の情報通信白書が公開された。今回の特集のテーマは「進化するデジタル経済とその先にあるSociety5.0」だ。近年、「シェアリング・エコノミー」の普及等に見られるように、ICTの発展・普及は、「デジタル経済」と呼ばれる新しい経済・社会の姿をもたらしている。白書では、この「デジタル経済」の進化の過程を振り返るとともに、日本に必要となる改革を含む将来展望を取り上げている。今回の読書会では、編集を担当した前・総務省情報流通行政局情報通信経済室長の富岡秀夫氏が、日本におけるICTの発展の経緯と「電子立国・日本」の凋落の背景、デジタル・トランスフォーメーションの時代に求められること、ICTと事業の連携を重視する「BizDevOps」の重要性、ICT人材の再配置の必要性といったポイントを解説した。その後、ディスカッションの時間が設けられ、コメンテーターとして参加した情報通信白書アドバイザリーボードのメンバーである庄司昌彦GLOCOM主幹研究員とともに参加者の間で活発な議論が展開された。

◆ デジタル経済の起こりと経済・社会の変化

今回の特集のテーマは「進化するデジタル経済とその先にあるSociety5.0」だ。平成時代を中心に、ICTとデジタル経済の進化を振り返り、その先にある社会としてのSociety5.0を展望する。Society5.0とは、サイバー空間と現実空間が高度に融合し、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会と定義されている。読書会では、総務省の富岡秀夫氏がまず白書の概要について説明した。富岡氏によれば、今年の白書のメッセージは2点ある。まず1点目は「ICTが産業革命以来の伝統的な資本主義の原理とは異なる新しい経済・社会の仕組みを生み出している」ということだ。「所有から利用へ」という近年のトレンドは、単に消費者のマインドが変わったという一過性のものではなく、「デジタル経済」という新しい経済や社会の仕組みがもたらした現象という観点から捉える視点が重要である。また、この新しい仕組みの中で、価値の源泉や経済活動のコスト構造に変革が生じた結果、人と人、人と企業、企業と企業といったあらゆる既存の関係に「ゆらぎ」が生じてきている。これにより、「企業」や「雇用」といった産業革命以来確立されてきたものが問われ、今後その対応が必要となる。ICT人材の再配置やオープンイノベーションとしてのM&Aの活性化、働き方改革の活用などが手がかりとなるだろう。

◆ あらゆる産業にICTが一体化し、ICTがコア業務に

2点目は「平成時代の反省を踏まえたうえで、ICTをあらゆる分野のコアとして位置付けていく必要がある」ということだ。ICTの観点からみた日本の平成時代は、社会・文化の面では様々な機会と可能性をもたらしたが、産業や経済の面では停滞・凋落の時代となった。その原因の一つは、日本においてICTを「特殊なもの」「コアではないもの」と位置付けてきたことである。パッケージソフトと自社開発を活用する米国とは異なり、日本では80年代末より情報システムの構築などの受託開発が進み、SIerや多重下請構造といった独特の構造が成立した。業務改革などを伴わないICTの導入が十分な効果を発揮できず、そのことが企業のICT投資を積極的なものにしなかった可能性がある。また、近年ではデジタル・ディスラプションと呼ばれる、ICTによる新たなコスト構造に適したビジネスモデルとの競争が起きており、あらゆる産業における伝統的なプレイヤーは、この新たなコスト構造に適した形へ変化(デジタル・トランスフォーメーション)することが求められている。この変化では、あらゆる産業にICTが一体化し、ICTが補助ツールではなくビジネスモデルを変革する事業のコアに位置づけられていく。ICTと事業の連携を重視するBizDevOpsのコンセプトも重要になってくるだろう。ただしこれは、これまでのICTの専門家が主役になることを意味するものではなく、むしろ、現在のSIerも受託開発から内製/パッケージへのシフトへの対応が必要となってくると見られ、現在のビジネスモデルに変革が求められている。

◆ ディスカッション

富岡氏の講演の後、コメンテーターの庄司や参加者を交えたディスカッションが行われた。主な質問と返答について記載する。

まず、平成時代について、「白書では電子立国としての日本は平成時代に凋落したという前提で書かれているが、その理由は何だったのか」という質問に対して、「理由はたくさん考えられるが、個人的には人材の流動性がないことが最大の理由だ」と返答した。人材の専門性が重視されず、専門家を処遇できなくなった結果、日本にはジェネラリストがたくさんいるが専門家がいないという事態となった。専門性のある人が適材適所に移ることができるような仕組みにできていれば、異なる結果になったのではないかと分析した。

次に、「1章では自前でシステムを作っていないのが問題だと言い、2章は市場を使えと言う。1章と2章で矛盾したメッセージになっていないか」という質問に対しては、「両方が正しい。今までは自前で調達していたのを外部から調達した方が良くなるものもあれば、外部から調達していたものを中に取り込む方が良くなる場合があり、片方向ではないと考えている。今までのつながりをもう一度今の仕組みに適しているのかを問い直した結果、これまでのやり方と変わってくるだろう」と返答した。

また、「パーソナルデータについての記述がないように思える。企業や人の間の役割分担を見直し、どうコントロールするかという点で大事な側面になると思うが、どう考えるか」という質問について、「デジタルデータがキーワードの一つと書きつつも、あまりデータについての現状や課題について書けていないというのは確かだ。総務省自身がこれまであまりデータ政策に向き合ってこなかった。かつてe-Japanを掲げていたころからICT利活用が政策課題となり、その時のまま来てしまった。データ駆動型社会と呼ばれる社会となり、総務省も行政領域を変えていかなければならないと思っている。ようやく変えていこうという動きが出てきた」と述べた。

AIに関して、「日本はICTに続きAIで決定的に遅れがあるといわれているがこれは本当なのか」という質問に対して、「AIという政策テーマは今までの政府の政策アプローチと違うアプローチでやっている。これまでは政府各省がバラバラに進めていたのを内閣府や内閣官房が形式的にまとめていた。しかし今回のAIについては内閣府が相当旗を振って進めている。そこまで本気でやらなければならないほど焦りがあると言えるかもしれない」と返答した。

この他にも多様な質問が積極的になされ、議論は大いに盛り上がった。

執筆:永井公成(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)

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