日 時 :2020年10月9日(金)16:00~17:30
開催形式:オンライン会議ツールZoomにて開催
講 師 :藤井信英(総務省 情報流通行政局 情報通信経済室長)
コメンテータ:庄司昌彦(武蔵大学社会学部教授/GLOCOM主幹研究員/『情報通信白書』アドバイザリーボード)
参加費 :無料(10/9 12:00申込〆)
主 催 :国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

 

レポート概要

2020年からはいよいよ5Gの商用サービスが開始され、また新型コロナウイルスの流行を受けICTの重要性が再認識されている。今年の情報通信白書の特集テーマは「5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築」であり、白書の第1部では5Gについての現状や今後の普及について、第2部ではICT分野の基本データと政策動向についてまとめられている。本コロキウムでは、はじめに総務省情報流通行政局情報通信経済室長を務める藤井信英氏を登壇者に迎え、令和2年版情報通信白書の第1部の内容を中心とした解説が行われた。次に情報通信白書アドバイザリーボードのメンバーでもある庄司昌彦GLOCOM主幹研究員から白書の第2部の内容に関連する、今後のICT政策についての解説が行われた。最後に視聴者との質疑応答が行われ5Gやサイバーセキュリティについてなど様々なテーマについての議論が行われた。

資料

講演1:「令和2年版情報通信白書~5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築~」 藤井信英

コロナの流行によって情報通信技術が、生活や経済の維持に必要不可欠であることが再認識された。デジタル化がなかなか進まなかった領域にもデジタル化の波が押し寄せた。今後デジタル基盤の活用、デジタル技術の活用が今まで以上に重要になる。

第1章 令和時代における基盤としての5G

第1章は基盤としての5Gについて書かれている。平成に入ってからモバイルが生活の中でなくてはならないものになりつつあり、年配の方を含めたあらゆる年代で平均利用時間が増えている。1979年の移動通信システムは通信のためのインフラであったが、現代では様々な機能が付加され生活基盤へと進化している。本年開始した5Gはこれまでの高速大容量路線だけではなく、低遅延や同時接続といった新たな特徴を持ち、生活基盤のワンランク上の産業社会基盤としての機能を果たしていくだろう。5Gは個人の利用だけでなく、ビジネスにおける利用の重要性が高まると考えられる。総務省では5G総合実証試験を2017年度から実施している。

昨年4月に総務大臣が5G導入のための特定基地局の開設計画を認定した。認定された携帯電話事業者4者を合わせると5年後における5G基地局展開率は98%となり、日本全国の事業可能性のあるエリアはほぼ全てで5Gが展開される予定となっている。

世界でも5Gの利用が進んでおり、既に40か国で70の商用ネットワークが展開されている。スマートフォン向けサービスは2019年4月にアメリカと韓国で開始し、その後世界各国で順次開始されている。アメリカでは、地方でのモバイル網への投資が活発であるほか、ユースケースとしてはスポーツ中継といったエンターテインメントや医療などで開発が積極的に行われている。ヨーロッパでは欧州委員会がイニシアチブをとって整備が進められている。ドイツテレコムは産業用途での5Gの活用を念頭に展開している。韓国では中核10産業、戦略5サービスを重点分野として設定し5Gの活用を進めている。中国では新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、医療分野における5G利活用の可能性をアピールした。

今後のICT産業の構造については、IoTデバイス数、動画配信サービスの利用は増える一方、移動体通信サービス契約数やマクロセル基地局は停滞すると予測される。GSMA(GSM Association)の予想では、2025年に全世界のモバイル回線の2割は5Gになるだろうとしている。野村総研の国内についての予想では、2025年には半数弱程度が5Gとなるだろうとしている。5Gのユースケースについて決定打のようなものがまだ出てきておらず、4Gと比較して普及は緩やかだろうと予想されている。

第2章 5Gがもたらす社会全体のデジタル化

第2章では5Gの社会実装について書かれている。ワーケーションやeスポーツなどICTを用いた地域活性化の取り組みが行われている。国の取り組みとしてはキャッシュレス決済、多言語音声翻訳、公衆無線LAN環境の整備などが行われてきた。

現在は新型コロナウイルス感染症の流行によりICTを利用した新たな生活様式への移行が求められている。その顕著な例としてテレワークがある。テレワークの実施率は3月と4月を比較すると伸びており、5月時点ではテレワーク実施者のうちコロナ収束後もテレワークを利用したいと答えた人は過半数を超えている。また教育における遠隔授業の取り組みも拡大している。その一方でICT環境の差による学習機会の格差が生まれる可能性も指摘されていて、Wi-Fiルータの無償貸出、通信料金の減免などの対策が必要である。情報流通においても、新型コロナウイルス感染症の流行に関するデマやフェイクニュースが拡散されるなど影響が出ている。携帯電話の位置情報を用いた人口増減率のグラフの公開など、デジタルデータを用いた見える化の取り組みも行われている。ICT活用の課題も指摘されており、トラフィックの増加、セキュリティリスクへの対応、ペーパーレス化、電子契約への移行などの業務内容の見直しの必要性、公衆衛生とパーソナルデータ活用のバランスなどがその例である。

5Gは当分の間は4Gと上手く組み合わせながら利用するNSA(Non Stand Alone)で運用される。数年後にコアネットワークが5Gに移行しSA(Stand Alone)で運用される予定である。SAで運用される段階になると5Gの真価が発揮される。交通、見守り、医療での利用意向は比較的高い。企業の調査では、大企業と中小企業での意識の差が見られる。ユースケースでは、高精細の画像を大容量通信で伝送することが事例としては多い。4キャリアが提供する全国向けの5Gとは別に地域の産業やニーズに応じたローカル5Gの導入に関する技術的検討が進められており、様々な開発実証が行われている。ローカル5Gの免許申請もすでに始まっている。ローカル5Gの類似のサービスはドイツとイギリスでも開始されている。

第3章 5G時代を支えるデータ流通とセキュリティ

第3章ではデータ流通とセキュリティについて書かれている。国際的なデータ流通が増加しており、パーソナルデータの越境移転も一般的になっている。パーソナルデータを有するデジタル・プラットフォーマーに対する規制が議論されているが、各国ごとにスタンスが異なる。

日本企業でもデジタルデータの活用が進みつつあるが、大企業と中小企業ではその程度に差がある。社内業務のペーパーレス化、テレワーク、Web会議などの活用が多くの企業で行われている。データ分析に基づいた経営判断の実施やデータ活用戦略の策定、データ分析人材の採用といったデータに基づく経営に関する取り組みも4割程度の企業において既に実施されている。しかし企業によるデジタルデータの活用は諸外国に比べるとまだまだ低い。その主な理由としては、人材不足やデータの収集や管理に関するコストがネックになっていることが挙げられる。低コストで利用可能なデータとしてオープンデータがあるが、日本企業の活用は他国と比較して進んでいない。新型コロナウイルスを受けてオープンデータを活用した病床利用率の可視化が事例として存在する。今後このような活用が広がっていくことが期待される。

情報銀行やスコアリングサービスといったパーソナルデータの活用も広がりつつある。日本の消費者は諸外国と比較してパーソナルデータを提供することに不安を感じている割合が高い。不安を感じている人の回答として、銀行口座などの情報、クレジットカード番号などの情報、公的な個人識別番号、生体情報について不安を感じると答えた人が多かった。これは日本だけではなく世界でも同様の傾向がある。日本の企業のパーソナルデータを利用するにあたっては、管理に伴うインシデントリスクが障壁となり、利用率は低調である。

サイバーセキュリティについては、東京2020大会の開催に合わせたサイバー攻撃や、IoT機器への攻撃の増加が懸念される。日本企業のサイバーセキュリティへの意識は高いが、セキュリティ人材が不足しているのが現状である。日本の消費者がパーソナルデータを提供するにあたって、セキュリティが確保されていることを重視していることも明らかになっている。

第4章 5Gのその先へ

第4章では今後について書かれている。将来、サイバーとフィジカルが一体化し、データ主導型の「超スマート社会」に移行すると考えられる。2030年の社会像としてインクルーシブ、サスティナブル、ディペンダブルの3つの点が挙げられている。「超スマート社会」の実現に必要な準備として①データの価値を理解し、活用できるよう整備を行う、②空気を変える、③個としての能動的な生き方の選択、といった点が挙げられる。

2030年代に「超スマート社会」を実現するためには5Gよりも強力なインフラが必要となる。世界でも研究がすでに行われている。日本でも今年6月に政府がBeyond 5G推進戦略を策定し、公表している。

 

講演2:「令和2年版 情報通信白書から考える」 庄司昌彦

2020年はコロナの影響を受けて、これからの社会のあり方を考えなくてはならなくなった。そこでデジタル技術、ICTに大きな期待が持たれる。発行までの時間が限られている中、コロナに関するデータや解説が情報通信白書に載せられたのは良かった。

コロナの流行がなければ今年は東京オリンピックが開催されていたはずで、白書の第6章ではそのあたりのことが書かれている。そこには言語の壁をなくす、情報の壁をなくす、移動の壁をなくす、日本の魅力を発信するなどの目標が掲げられている。オリンピック・パラリンピックは延期されているだけで、来年は行われる予定であるので、これらの目標の達成を目指していく必要がある。

第5章に情報通信機器の世帯保有率の推移のグラフがある。スマホの保有率は83.4%であることがわかる。60歳以上のネット利用率の上昇が顕著で、また世帯年収別ネット利用についても格差は縮小している。高齢者のSNS利用が急増している。

 

質疑応答

―――5G投資促進には、政府による携帯料金の値下げ促進は逆効果ではないか。
藤井:携帯料金の値下げが5Gの投資にどの程度影響するかは見ていく必要がある。バランスを見ていくことになるだろう。

―――業界特化5Gビジネスには、既に海外事例などはあるか。
藤井:残念ながら私の把握している限りでは無い。

―――サイバーセキュリティへの関心が高いにもかかわらず、人材処遇や育成に手間をかけることを厭う日本企業の姿勢には矛盾を感じる。関心は高いが、大して重要だとは思っていないということか。
藤井:令和元年版でもたしか触れられていたが、セキュリティを含めたICT人材がベンダー側、ICT産業側に偏っていて、ICTを利活用する産業にそういった人材がいないということが言われている。これはおそらく今も変わっていないだろう。人材を外から調達することを考えており、内生化しようとしていないのかもしれない。

―――企業も消費者もデータ活用には消極的・保守的ということか。それを積極的にさせることができるのか、消極的であることを前提にした政策をとっていくことはできないか。
藤井:これまでは消極的・保守的という傾向は確かにあったが、それが今回のコロナでどのように変わったか、非常に関心を持っている。これをきっかけに積極的な方向に傾向が変わることを期待している。またその場合、コロナが落ち着いたらもとに戻るのかについても見ていく必要がある。今まで消極的であったために非効率になっていた部分が改めて見えてきたこともあり、政府としてはデータ活用を推進していく予定でいるが、企業や個人の理解を得ながら政策を進める必要があるだろう。

―――5G普及と携帯料金値下げは不可分だ。
庄司:事業者側からすると携帯料金の値下げは苦しいが、利用者側からすると携帯料金が下がれば5Gを利用しやすくなるということだろう。
藤井:白書の中で、携帯電話事業者のうち3社がどのくらいの料金を提示したか記載している。だいたい4Gの料金にプラス1000円程度からスタートしている。5Gの普及という点では携帯料金の値下げは重要である。
庄司:これはバランスをとるのが難しい話だ。事業者に設備投資をしてもらう必要があるが、それで携帯電話料金が上がってしまうと5Gの普及は進まない。
藤井:5Gのインフラ整備が始まったばかりのタイミングであることがこの問題を難しくしているのは間違いない。

―――米全体が、アラスカを含めてlaunchedとされているのは違和感がある。サービス提供開始されているのはまだ大都市や幹線道路付近に限定されていたと思う。その意味で、日本の各社の目標設定は意欲的だ。単独ビジネスとして成立するのか?
庄司:確かに5Gはまだ狭い範囲でしかサービスは開始していない。単独ビジネス以外でも成立するから面白いというのもあると思う。
藤井:いままでのように個人のみをメインターゲットとしてビジネスをやっていくには限界が出てきているのかもしれない。どこでマネタイズしていくかは各社頭を悩ませていると思う。

―――パーソナルデータの定義が不明瞭に感じる。調査にあたってどのような説明がなされたのか。オープンデータには定義があるか。
藤井:アンケートでは、パーソナルデータを「個人に関するデータ」と定義している。個人情報保護法でいうところの個人情報よりは広い捉え方をしている。白書内に項目が挙げられており、具体的には氏名・住所、連絡先、生年月日などが含まれる。

―――低遅延を求めて行く場合、情報の漏洩以上に、DDoS攻撃の方が影響が大きくなると思うが、それについてはあまり言及がない。
藤井:セキュリティの話と5Gの話をリンクさせた話は確かになかった。反省材料としてご意見を受けとめたい。
庄司:オリンピック・パラリンピックを予定していたので、そちらのサイバーセキュリティについての話が中心になってしまったというのはあるかもしれない。

―――5Gの基地局整備については日本でもキャリア間の協力が進んでいたと思う。枠組みの中で楽天モバイルが除外されているのは何か理由があるのか。
藤井:KDDIとソフトバンクが基地局整備で協力をするという話があったと理解している。楽天は提供エリアの整備を行う過程で仮想化技術などを利用しており、もしかするとそういったところで技術的な不一致があったのかもしれない。

―――情報通信白書ほかIT系の白書の調査はデジタル庁に集約すると無駄が減るのではないか。重複も多いように見える。
庄司:アドバイザリーボードの一員としては、重複が多いように見えるという問題は悩ましいところ。特集を組む際にその年限りの調査をすると信頼性が低下すると感じる時がある。そうであれば、他の省庁で毎年行っている調査や既存のデータなどから信頼の高いデータをとってくるほうが信頼度が上がると私は思っている。データが重複していてもどう解釈・解説するかという点で情報通信白書の特徴が出るというのはあると思う。一方で一緒にできるところは一緒にするというのは今の流れではある。

―――大阪万博での展示など準備は行われているのか。
藤井:現時点で私の省内ではまだ始まっていない。
庄司:2025年は既に5Gは普及しているはずで、その他、同時翻訳やMaaSが社会実装されているだろう。Beyond 5Gの具体的、実験的なものが出てくるのかもしれない。
藤井:Beyond 5Gや6G関連のものが展示される可能性はあるかもしれない。

執筆:豊倉幹人

 

関連ページ

令和2年版情報通信白書は、総務省の下記URLで全文が公開されています。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

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