オンラインイベント「音楽教室にまつわる著作権問題を考えるシンポジウム」

開催日時:2020年11月24日(火)17:00~19:00
登壇者:田中辰雄(国際大学GLOCOM主幹研究員/慶應義塾大学経済学部教授)
    上野達弘(早稲田大学法学学術院教授)
    阿南雅浩(株式会社NexTone代表取締役CEO/
         金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科客員教授)
    瀬尾太一(日本写真著作権協会常務理事/日本複製権センター代表理事)
    林いづみ(弁護士)
    渡辺智暁(国際大学GLOCOM主幹研究員/教授)※モデレーター
開催場所:YouTubeにてライブ配信 ※登壇者のみイベント会場
主催:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

動画

 

レポート概要

2017年に日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室のレッスンから著作権料を徴収する方針を発表した。これに対し音楽教室事業者がJASRACに請求権・徴収権限はないとする「請求権不存在確認訴訟」を提訴し、現在は知的財産高等裁判所にて判断を待っている段階である。本シンポジウムではこの音楽教室における著作権料の徴収の問題を軸に、音楽の著作権が抱える課題と今後の展望についてのプレゼンテーションと議論が行われた。議論の中では、法制度、行政、慣習、実務面など様々な面で課題が残されており、そしてこれらの課題は音楽教室の著作権に限らず楽曲利用全般についての著作権、そして著作権制度そのもののあり方にも関わってくることが指摘された。今後は法律・ソフトロー・デジタル技術などを用いた課題解決が必要となる。

講演1:「音楽教室事件東京地裁判決の解説」上野達弘(早稲田大学法学学術院教授)

この音楽教室事件では、平たく言うと、音楽教室における演奏に演奏権が及ぶか、ということが問われている。音楽教室でのレッスンといっても様々な形式がある。レッスンの中で演奏を行うこともあれば、録音物を再生することもあるし、また個人レッスン、グループレッスンといった形式の違いも存在する。この訴訟においては、詳細に内容を分割し演奏権が及ぶかどうかを問うものとなっている。

聞かせることを目的としているか、「公衆」に対する演奏に該当するか、といった演奏権についての問題と、演奏権の消尽、実質的違法性、権利濫用の観点からの抗弁を通じて、音楽教室における演奏には演奏権が及ぶと裁判所は判断した。

私見としては、2小節以内の演奏に演奏権が及ぶかについて、その2小節が著作物性を有するかどうかに尽きると思う。教師と生徒の演奏の両方に演奏権が及ぶのかということについては、教師の演奏に演奏権が及ぶのは妥当であると思うが、生徒の演奏に演奏権が及ぶかについては疑問が残る。音楽事業者、教師、生徒を一緒くたに扱うことには問題があると考えている。

演奏権を実際に権利行使すべきかどうか、権利管理団体に信託しているクリエイターが音楽教室に対しては権利行使をしないという選択肢を用意する、といった議論は必要だろう。生徒による演奏に演奏権が及ばないと解するのであれば、使用料の請求の対象や額に大きな影響があるだろう。

現在訴訟は継続しているが、法的にはいずれ解決する。重要なのは、その後の将来における音楽教室事業と著作権についてだろう。音楽教室事業の社会的意義を考えると、著作権制度によって音楽教室における音楽著作物の利用が阻害されることはあってはならない。必要であれば権利制限規定も選択肢にあるだろう。しかし音楽教室が営利目的であるならば、収益の一部をクリエイターに分配されてしかるべきである。立法で権利制限規定を作るとしても、補償金請求権を付与すべきである。そして使用料・徴収のあり方について、それらが個別の状況に対応したものであるか、議論が深められるべきだと考えている。

講演2:「NexToneが考える演奏権管理」阿南雅浩(株式会社NexTone代表取締役CEO /金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科客員教授)

日本の楽曲の著作権管理事業は1939年に施行された仲介業務法により、60年以上にわたり日本音楽著作権協会(JASRAC)のみが国の認可を受けた唯一の団体として独占事業を営んできた。音楽著作権事業は2000年に民間に開放され、28社が参入したものの参入障壁が高く、次々と撤退した。その中で生き残った2社が2016年に合併統合してできたのがNexToneである。しかしNexToneは音楽教室が含まれる演奏権の管理については参入できていない。その理由の一つとして、人海戦術しか有効な管理手法がない利用形態が含まれていることがある。NexToneが演奏権を取り扱っていないため、権利者は演奏権管理とその他の権利を分けて管理する必要があり、この作業が、権利者がNexToneへ新曲を預けることやJASRACから管理委託を変更することを阻害している。一日でも早く演奏権管理に参入し、権利者のためにフルラインサービスを整える必要があると考えている。

NexToneの徴収額のシェアは全体の5%でありまだまだマイノリティではあるが、有力な管理楽曲も存在する。NexToneとJASRACの最大の違いは、契約形態の違いだ。JASRACは楽曲の信託譲渡契約である一方、NexToneは委託契約の形態をとっている。このため権利者の要望に柔軟に対応することができている。この契約手法は一長一短あるが、シンガーソングライターなどにとっては支持される傾向にある。

なぜ演奏権についてはJASRACの独占状態であるか、理由は2つある。1つ目は演奏権をJASRACが細分化せずに管理していること。2つ目は、長い歴史の中でカラオケについてはJASRACが店舗毎に契約を締結してきたが、これが今でも続いていること。JASRACの演奏権市場の構成を見ると、カラオケが50%、コンサートやライブが33%程度となっている。JASRACと音楽教室の話で引き合いに出されるところとしては、社交ダンス教室、フィットネスクラブ、カルチャーセンター、歌謡教室での使用料の徴収の話があるが、これら全部を合わせた額は全体の割合からすると小さいということは意識して良いことだろう。

演奏権の独占の弊害としては、信託譲渡契約しか選択肢がなく著作権者の意思を反映できないことや、著作権者の意に沿わない徴収による音楽利用の萎縮が起きることなどが挙げられる。現状の改善に向け行政指導が必要であると考えている。著作権等管理事業法20条では業務改善命令が規定されている。文化庁長官は強制力の伴う行政処分を下す権限を持っており、これを行使してほしいと考えている。また、コロナ禍でダメージを受けている音楽関係者は演奏権領域に従事している方であるため、緊急性があり喫緊の課題であると考えている。

2015年の放送権の参入妨害による最高裁判決により再度有効になった排除措置命令において、JASRACは放送分野の包括徴収に加え他の分野においても「今後同様の行為を行ってはならない」という旨が明記されているが、現状ではチケット代や店舗面積、定員数などによる包括契約が行われている。

演奏権に関する選択肢が無いことに多くの音楽家や著作権者は不満を持っており、音楽教室などの利用者にとって不自由をかけていると認識している。著作権者に選択肢を提供し、使用料免除や減額の意思を反映させるべきであること、音楽文化の発展のために、あるいは衰退させないために、社会通念に合致した利用と管理の適正なバランスをとることが、演奏権管理についてNexToneが考えているところである。

講演3:「著作物の流通促進と集中管理」瀬尾太一(日本写真著作権協会常務理事/日本複製権センター代表理事)

音楽教室の問題について、権利の行使の面から見ると肯定できる。権利者が信託譲渡を行うというのは非常に重い判断であり、JASRACがそれを最大限活用することは責務である。しかし、今回テーマである音楽教室での利用についてはほかにも方法があったのではないか。

現在のデジタル社会では、著作権に関するいろいろな問題が出てきている。著作権が作られた当時は現在のような瞬時に大量の複製ができることは想定しておらず、インターネット上ですぐに世界中に共有できることは当初とは異なる状況である。著作権法は基本的に複製を抑制しようとし、管理しようとする。この矛盾が根底にある。

私は集中管理団体が必要だと考えている。作る側と使う側の間に立ち、このようなコンフリクトをどのように解消するかを考える、中立的かつ客観的な立場にある団体が必要だろう。これからの著作権の問題を解決する上で重要なのは、法による解決、スキームによる解決、ソフトローによる解決を組み合わせることだと考えている。

利用者側からすると、管理事業者が複数いることは困る。管理事業者を増やしていくことは様々な意向を反映することになるが、利用者からすると包括許諾が成り立たなくなってしまう。利用者にとってどのような状況が便利なのか、つまりどれだけ著作権を意識せずに利用できるかを考える必要がある。適度な競争と適度な集中が必要であると考えている。ソフトローで複数のステークホルダーがコンセンサスを形成し、その上にビジネススキームを組み立て、法を活用する。デジタル時代には緩急自在なスキームによって解決することが必要だと考えている。

音楽教室の議論は、デジタル時代に著作物の流通が利用者にとってどのように便利になり、そしてどのようにして創作のサイクルを維持できるかについて考える良いエクササイズだと思う。法律を通じた課題解決は有効だが時間がかかる。一方ですぐに実践可能なスキームを使った課題解決を行うという選択肢もある。どのように解決するかに皆が目を向けることが重要だろう。

講演4:「音楽著作物利用契約の在り方について」林いづみ(弁護士)

デジタル著作権制度タスクフォースにおいては、インターネット上での利用を考えて、利用の促進と権利者への適正な配分のために何をすべきかを議論している。音楽については、現行の著作物等管理事業法のもとでは、JASRACによる使用料規定と運用、また徴収分配制度の透明性が確保されているかどうかの問題を抱えている。これらの点を考えると、デジタル技術を活用した新たな集中管理処理システムを導入する必要があると考えている。

JASRACが2017年に文化庁に届け出た使用料規定案では、年間の包括契約の場合は受講料収入の2.5%、月額の場合は5%、一曲一回の使用料の場合は何百円、といった規定が書かれている。基本となる料率として定められている月額の受講料の5%というのは、音楽教室レッスン用の楽譜を購入する際の「複製権」や発表会での「演奏権」についてすでに支払っている使用料分を考慮しておらず不合理に高額だと考えている。生徒が楽譜を購入するのは飾るためではない。レッスンに使うためだ。また、音楽教室においてはクラシック曲などの著作権の保護期間が満了になった楽曲も多く使うため、実際にどの程度JASRACの管理楽曲を使用しているかを調査した上で料率を設定する必要があると思う。さらに、JASRACは既に行っているカルチャーセンターからの徴収との公平性の観点から音楽教室からも徴収することにしたが、カルチャーセンターからの徴収の料率は受講料の1%であるのに対し音楽教室が2.5%である理由が不明である。一曲一回の使用料率については、1つの曲をフレーズ毎に何度も繰り返し練習することもあり、使用料の設定は現実的ではない。JASRACの現在の使用料規定では、徴収の便宜を優先して利用者が包括契約を選択するように誘導している。しかし、包括契約の使用料分配資料として必要な利用曲目報告は煩瑣であるため、その一部はサンプリング調査となっており、正確に分配されない利用の徴収額は20億円にも上ると言われている。

これらの結果として、料率の設定根拠や分配が不透明となる包括契約を締結せざるえない状況に利用者側を追い込んでいる。現行法制では使用料率の決定は、民・民の問題として、演奏権管理をほぼ独占しているJASRACによる根拠のない料率が通ってしまう構造となっている。こういった集中管理による使用料率決定の在り方自体を再考する必要がある。文化庁には届出の受領時にしっかりと調査・確認するルールの設置が必要だ。

最後に参考として、ここ数年データ覇権が問題となっており、競争法の観点から規律するという議論が進んでおり、通常国会で法律が成立している。JASRACによる優越的地位の濫用がこれ以上許されないような見直しが必要であると考えている。

パネルディスカッション

渡辺:管理を一つの事業者に集中させるほうが楽なのか。あるいは窓口は一本化し、その上で競合するような団体が複数あるというような状況は実現可能か。政府による料金規制があっても良いのか。

田中:一般論としては独占が良い場合もある。1つは、ワンストップショップだと取引費用が大幅に下がる。しかし今回の場合は、実際に支払いをするのは個人ではなく主に企業などの事業者で、2つ3つの管理団体とやり取りをすることには十分対応できると考えられるためこれは当てはまらないように思う。2点目は、独占により徴収側が権利者の法外な金額の設定や理不尽な要求を抑え込む、一種の公共性を示す場合もある。しかし現実の問題として考えると、独占により楽曲の利用が減るという弊害のほうが大きいように思う。独占の弊害を防ぐ方法として利用者が加わることでバランスを取るという方法がある。JASRACは楽曲を持っている権利者のみの団体なので社会全体の利益の最大化にはならない。楽曲の管理者としてはまじめに収益の最大化を行っているが、結果として音楽シーンがやせ細ってしまうのは問題だと思う。

渡辺:地裁判決で出てきた論点のいくつかについて議論したいと思う。上野さんとしては、今回の判決が社会通念に照らし合わせて、ある程度妥当なものであると認識しているということだったと思う。この辺りについてもう一度解説をお願いしたい。

上野:正規に販売された楽譜を用いて音楽教室事業を行う場合、演奏権は及ぶべきではないという考えがあるのは理解するが、難しいと思う。今年の国会附帯決議で演奏権に関する項目があったのは、音楽教室事業の社会的意義を認め、これに対して権利が及ぶべきなのかということが問題意識としてあったと思う。もし著作権が障害となっているのであれば、権利制限規定を設けるというのも考えられる。ただし、これは無料で使えるようにすることとはイコールではない。日本の権利制限規定は無料で使えるという規定が多いが、最近は自由に使えるが一定の補償金を支払うというものも増えている。音楽教室が営利目的で行われる場合はこれが必要であると考えている。一方で報酬請求権化してしまうと、支払いをしない音楽教室に対して差し止め請求ができなくなるという問題もあるから、権利制限規定を設けることを提案しているわけではない。

林:権利者からすると、差止請求権を行使できるような体制はあるべきだと思う。私が問題に感じるのは、音楽教室のレッスン用に購入した楽譜代として既に払っている使用料分がカウントされないという点。著作物を利用する以上は権利者に使用料を支払うべきである。

渡辺:楽譜を買った時点で、音楽レッスンで使うための権利があるということになれば、例えば楽譜は買ったがレッスンでは使わず1人で演奏する人にとっては過剰な料金が課されることになってしまい、これはこれで全体としては経済的な非効率が起きてしまう気がするが、どうお考えだろうか。

林:自分が買ったものを自分がどう使うかは自由だと思う。今の楽譜代にプラスアルファの料金が加えられるのか、楽譜代に全部含まれていると考えるかは、楽譜代の設定の仕方で調整すると良いと思う。

渡辺:生徒が演奏している場合、音楽教室が演奏の主体であるという扱いで音楽教室が利用料を払うことを求めることができるかについて、もし生徒による演奏がほとんどである場合、これを勘案すると2.5%という料率は下方修正を迫られるのではないかという論点があった。これについてどう思われるか。

瀬尾:単純に5%、2.5%が高く、1%、2%であれば問題になっていないのであれば、事前のネゴシエーションの不足であり、問題ではない。著作物は代替性が無いので、集中管理をしたときに別のもので代替するということができない。このため競争原理がはたらかない。唯一競争原理がはたらくとすると、権利者側が選択できるという点だろう。しかしこれを進めてしまうと利用者は不便になるという矛盾を起こしてしまう。これを解決するという話をするのか、音楽教室の料率が高いかの話をするかは分けて議論をする必要がある。申告などをする前に料率が決まるには、普段からのコミュニケーションが重要。それを欠いたことに最大の問題があると思う。その解決方法は非常にわかりやすいので、それほど問題だとは感じていない。著作権が障害となって流通を妨げているとすると、どのように対応するかが非常に問題であると感じている。

田中:金額の問題も重要だと思う。もし権利が及ぶとした場合、金額の決め方がどうなるか関心がある。私としては、音楽教室のレッスン現場を無作為に取り出し、権利者のいる楽曲と権利者のいないクラシックなどの楽曲がどのような割合で使われているか、また先生がどれくらい演奏しているかを計算して料金を決定することを考えてしまうが、現状ではJASRAC側の言い値で決めることになる。これは独占力があるかどうかの話にも関わってくる。公共性について考えるのであれば、第三者によるサーベイなどを入れて客観的に決めていく必要がある。民間の交渉を通じて言い値で決まる場合、独占力の行使となるため社会的には不公正であって非効率が生じる。

渡辺:プラットフォームの話の中で、集中管理は取引コストを下げるために必要であるという話がある。ただし音楽著作権の場合、現在は権利者の細かな意向を反映する方法がないというのが現状である。これによりアーティスト間の競争や、人々が楽曲を享受することが制限されてしまうこともあるだろう。これについてご意見を伺いたい。

阿南:利用者からすると著作権管理団体は1つであることに越したことはないと思う。著作権管理事業法では音楽の分野だけではなく全ての分野で門戸が開放された。しかしなぜ音楽だけ28社も出てきたかというと、複数必要であると多くの人が思ったからだ。NexToneの株主構成を見ると利用者側と考えられる主体が多く、利用者側からも求められているということがわかる。NexToneが作家からの支持を得ている理由は、一つは選択の余地があるということ。もうひとつは手数料の高さに不満を持つ利用者が大勢いるという現状だ。もしJASRACが委託と信託の両方のメニューを用意していて、効率よく、透明性と公平性を持ちながら業務を行っていたならばNexToneという会社はそもそもできていない。

田中:阿南さんに質問で、カラオケの人海戦術が昔は参入障壁になっていたということをおっしゃっていたが、現在の通信カラオケを管理している2社と契約してカラオケの分野に参入することはしないのだろうか。

阿南:今やっているところではあるが、長年の歴史の中で店が支払うという仕組みができあがっている。JASRACとも掛け合っているが、独禁法に引っかかってしまうとか、カラオケ法理をJASRAC自ら崩すわけにはいかないなどの壁がある。

田中:NexToneが勝手に通信カラオケの2社と徴収の仕組みを作るとなるとどうなるか。

阿南:店は月額でJASRACに料金を支払っている中で、NexToneが配信1回ごとに徴収するとなるとアドオンになる。そこからNexToneに支払った分を控除できるのか、といった実務的なところは全員の協力が必要。文化庁に協議の場を設けてもらうように提案している。

渡辺:最後に各パネリストから、今日の議論を振り返って強調したい論点を一つ取り上げて頂き締めくくりとしたい。自分は、現状は集中管理のガバナンス・制度に利用者の感覚や利益を組み込んでいけるか、課題が存在するように思う。ブロックチェーンのようなITを活用し、権利者と利用者の意向を効率的に把握することで、ガバナンスの不透明性の解消だけでなく競争環境の問題も改善されるかもしれないと感じた。

林:インターネット時代のコンテンツ利用促進と権利者への適切な分配については、法律だけでなくアーキテクチャで解決することがポイントになる。音楽教室の問題については、JASRACの95%独占状態の中で、現行の管理事業法の下ではJASRACが届け出た使用料規定がそのまま決まってしまうという現状は変えなければならない。事業者が競い合える環境が必要だと思う。

瀬尾:競争による利用者の不便と独占による弊害のバランスをどう取るかが重要。著作物には代替性がないという特殊性を把握する必要がある。利用者が1つの窓口で済むようなポータルサイトの義務付けや著作権監視機構を公的に作り、著作権の利活用について干渉していく方法があると良い。権利制限規定については、差し止めができない場合、悪意のある利用に対して訴訟が定義できないという弱点があるので慎重になる必要がある。全体の改革が必要な時期にきている。

阿南:拡大集中管理では、利用者の利便を損なわない形で様々な権利者団体がそれぞれの使用規定で分け合い、作家は自分たちに適した管理団体に預けることで競争ができるという考えがある。しかし現状では独禁法の観点からできない。これは利用者にとっても権利者にとっても不便である。実態にあった法改正を行う必要がある。

上野:演奏権については既存の利用区分をさらに分割することを議論する必要があるように思う。音楽教室に関する使用料規程の額については、これまでは事業者側には演奏権が及ばないという前提があり、権利者側とこの点について議論するきっかけがなかったように思う。当時JASRACの常務理事からも、金額を絶対に変えないというつもりはないとの発言もあったと承知している。将来的にはいずれ法的な決着がつくが、その際は多くの人が納得できるようなコンセンサスが得られるようにすべての関係者の尽力に期待したい。

田中:使用料の徴収はJASRACの仕事であり、誠実にやっていると思う。著作権ができた当時は権利者の立場が弱かった。その後、音楽についてはJASRACが立ち上がり、集中管理して徴収することができている。これはJASRACの大きな貢献であり、功績である。しかし喫茶店や美容室などで流す音楽について使用料を徴収し、その結果これらの場所で音楽を流さなくなってしまうのは行き過ぎのように思う。権利者が様々な選択を行えるようにすると、それがきっかけで利用者が増えるということも見込める。これを実現するためのコンソーシアムのようなものがつくれると突破口になるように感じた。

執筆:豊倉幹人

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